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親に「転職は逃げだ」と言われてから、辞めたいと思うたびに「これは逃げなのか」と自分に聞いてしまう人に向けた記事です。先に言うと、この記事は逃げかどうかに白黒をつけません。どこからが逃げかを決めた線が、見当たらないからです。代わりに、三つの問いを使います。辞めたい理由は会社を替えるとなくなるか。次の場所でしたいことを1つ言えるか。今の場所でまだやっていないことがあるか。上から順に答えを1行ずつ書くと、会社を替える、先に学ぶ、今の場所に残る、のどれにするかを、親の言葉ではなく自分の答えで決められます。親に伝える時の、相談ではなく報告の形の一文も用意します。
「逃げなのか」と自分に聞いて、答えが出ない時
たとえば、こういう場面です。親との電話で、近ごろの様子を伝える流れで、仕事がつらいと少しだけ話した。返ってきたのは「転職は逃げだ。逃げるな」という言葉だった。短く返事をして電話を切り、仕事のことはもう親に相談しないと決めた。
電話のあとに残ったものは2つあります。1つは、仕事の話をできる相手が1人減ったこと。もう1つは、「逃げ」という言葉です。相談しないと決めても、言葉のほうは消えません。辞めたいと思うたびに「これは逃げなのか」と自分に聞いてしまい、答えが出ないまま日が過ぎていきます。
ここで解きたいのは、親が正しいか、自分が正しいかではありません。辞めたい気持ちを自分で確かめるための物差しが手元にないことです。親に言い返す材料を集めても、親を説得できたとしても、それは親の考えが変わるだけで、自分の中の答えにはなりません。先に要るのは、親に見せるためではない、自分用の答えです。
問いに答える前に。眠れない、食べられない日が続いている人へ
この記事の問いは、紙に向かって落ち着いて考えられる状態の人のためのものです。眠れない、食べられない、朝に体が動かないといった強い不調が続いている時は、問いに答えるより先に、人に話すことを優先してください。動くか残るかを決めるのは、そのあとで間に合います。
働く人が使える公的な相談先に、厚生労働省の「こころの耳」があります。厚生労働省の事業として行われている、働く人のための相談窓口です。
- 電話相談:0120-565-455
- 受付の時間:平日は17:00〜22:00、土曜日・日曜日は10:00〜16:00(祝日、振替休日、年末年始(12月29日〜1月3日)は休み)
- 番号を非通知にした電話は受けてもらえません
- 電話のほかに、SNS相談とメール相談もあります
上の番号と時間は2026年10月時点のもので、変わることがあります。かける前に、こころの耳のサイトで最新の案内を確かめてください。
こころの耳は相談の窓口で、医療機関ではありません。不調が強い時や長く続いている時は、医療機関にかかることも合わせて考えてください。体や心の状態がどの程度なのかは、この記事では判断できません。
親に相談しないと決めた人にとって、仕事の話を聞いてくれる先がほかにあると知っておくことには意味があります。ここから先の問いは、話せる相手を確かめてから読んでも遅くありません。
「逃げ」に決まった線はない
どこからが逃げで、どこまでがそうでない転職なのか。この線を決めた公的な基準は、この記事で確かめた範囲では見当たりません。親の言う「逃げ」と、あなたが気にしている「逃げ」が同じ意味だとも限りません。線のない言葉に自分を当てはめようとしても、答えは出ないままです。
親の言葉が「逃げるな」ではなく「安定した所にいなさい」だった人は、親の言う「安定」を三つの数字に分けて返す方法のほうが合います。
そこでこの記事では、「逃げかどうか」をいったんわきに置き、三つの問いに置きかえます。この三つは、この記事での整理です。研究や検査にもとづく判定ではなく、点数もつけません。答えに正しい・正しくないはなく、答えの組み合わせから「自分の辞めたい気持ちが、どこから来ているか」を読むために使います。
用意するのは紙1枚とペンです。スマートフォンのメモでも同じようにできます。問いごとに答えを1行ずつ書き、上から順に進めてください。問い1は辞めたい理由がどこにあるか、問い2は行き先があるか、問い3はやり残しがあるかを確かめる問いで、前の答えがあとの問いの材料になります。
問い1 辞めたい理由は、会社を替えるとなくなるものか
紙の1行目に「辞めたい理由は( )だ」と書き、( )を埋めます。理由がいくつもある時は、一番大きいものを1つだけ選びます。全部を書こうとすると、どれが中心なのかが分からなくなるためです。
書けたら、その横に「なくなる」「なくならない」「分からない」のどれかを書きます。確かめ方は1つです。同じ職種のまま別の会社に移った自分を思いうかべ、その理由がまだ残っているかを考えます。
| 書いた理由の例 | 会社を替えるとどうなるか |
|---|---|
| 残業の長さ、休みの取りにくさ、給料の決まり方など、その会社の決まり | 会社ごとに違うので、替えると変わりうる |
| 特定の上司や同僚との関係 | 相手は替わる。ただし、次の職場に合わない人がいないとは言えない |
| 仕事の中身そのものが合わない | 同じ職種で会社だけ替えると、残る |
| 自分の知識や技術が足りないと感じる | 会社を替えても、自分についてくる |
| 理由を1行にできない | 分からない |
「なくなる」と書けた人は、問い1の答えが「はい」です。「なくならない」と書いた人も、そのまま問い2へ進んでください。仕事の中身が理由の人は、行き先が違う種類の仕事なら話が変わるからです。「分からない」と書いた人は、理由がまだ言葉になっていない状態です。これは問い3であつかいます。
問い2 次の場所でしたいことを、1つ言えるか
2行目に「次の場所では( )をしたい」と書きます。ここで出やすいのが、「残業のない所に行きたい」「あの上司のいない所に行きたい」という答えです。これは、したいことではなく、避けたいことです。問い1の理由を裏返しただけなので、問い2の答えにはなりません。
避けたいことしか出てこない時は、もう1歩だけ進めます。「残業が減って空いた時間で、何をしたいか」「どんな仕事なら、あと数年続けたいと思えるか」を自分に聞き、その答えを書きます。
例:「今と同じ事務の仕事を、決まった日に休みを取れる会社で続けたい」
例:「売る仕事ではなく、人に教える仕事をしたい」
大きな夢である必要はありません。1つ言えれば、問い2の答えは「はい」です。何も書けなかった人は「いいえ」と書いて、問い3へ進みます。
「はい」の人は、その下にもう1行だけ足します。「今の自分の知識や技術で、そこに応募できるか」。答えは「届く」「届かない」「分からない」のどれかです。「分からない」と書いた人は、あとで出てくる原因Bの手順の1つ目(求められることを3つ調べる)だけを先にやると、届くか届かないかがはっきりします。
問い3 今の場所で、まだやっていないことがあるか
3行目は、今の職場でのやり残しです。次の中に、やれば辞めたい理由が小さくなるかもしれないのに、まだやっていないものがあるかを見ます。
- 辞めたい理由を、上司に言葉で伝える
- 仕事の量や締め切りについて、変えてほしいと頼む
- 分からない仕事のやり方を、教えてほしいと頼む
- 自分の評価の理由を聞く
- 休みを取る
- 社内で話を聞いてくれる人に話す
1つでもあれば、答えは「ある」です。すでにやってみて何も変わらなかったことは、「やった」に数えます。
気をつけたいのは、この問いを「やり残しがあるなら、辞めてはいけない」という意味に読まないことです。それでは親の「逃げるな」と同じ使い方になってしまいます。やり残しをやる目的は、残るためだけではありません。やってみても理由がなくならなければ、その理由は「会社を替えるとなくなるもの」だと分かり、問い1の答えがはっきりします。問い3は、問い1を確かめ直すための問いでもあります。
三つの答えを並べて、自分の原因を見分ける
3行の答えがそろったら、次の表に当てはめます。原因を3つに分けるのも、この記事での整理です。
| 見分ける問い | 当てはまる原因 | 合う道 |
|---|---|---|
| 問い1と問い2の両方に「はい」と答えられたか | A:辞めたい理由は会社を替えればなくなり、次の場所でしたいことも言える | 転職 |
| 問い2に答えはあるが、今の自分ではそこに届かないと感じるか | B:行きたい先はあるが、今の自分の知識や技術ではそこに届かない | 資格 |
| 問い3に「ある」と答えたか | C:今の場所で、まだやっていないことがある | 現状維持 |
2つに当てはまる人は、次の基準で1つにしぼります。
| 当てはまった組み合わせ | 見るもの | 進む先 |
|---|---|---|
| AとC | やっていないことが、問い1の理由に直接かかわるか | かかわるならC、かかわらないならA |
| AとB | 問い2の下に書いた「届く/届かない」 | 届かないならB、届くならA |
| BとC | 行きたい仕事が、今の仕事と違う種類か | 違う種類ならB、同じ種類ならC |
たとえば、理由が「残業の長さ」で、仕事の量を減らしてほしいとまだ頼んでいないなら、Cです。
どれにも当てはまらなかった人は、辞めたい理由がまだ1行になっていない状態です。この時のやり残しは「理由を言葉にして、人に伝えること」なので、Cとして進めてください。
選ぶ基準をまとめて言うと、理由が会社についていて行き先を一文で言えるなら転職、行き先はあるが応募の条件に届かないなら資格、やり残しが理由に直接かかわるなら現状維持です。この基準の中に、親の言葉は入っていません。親がどう言うかではなく、自分の3行の答えだけで決めます。
着いた原因ごとの進め方
A:理由を持って会社を替える(転職)
- 理由と、次でしたいことを一文にする。問い1と問い2の答えをつなげて、紙の下に書きます。
- その条件で探す。一文から、なくしたいことを1つ、したいことを1つ取り出し、この2つを満たすかどうかだけを先に見ます。条件を5つも6つも足すと、どの募集も当てはまらなくなり、探すこと自体が止まります。
- 決まってから親に報告する。行き先が決まる前に話すと、話は相談の形になり、「逃げるな」のやりとりに戻りやすくなります。
例:「辞めたい理由は、休みの日が直前まで決まらないことで、これは会社を替えるとなくなる。次の場所では、今と同じ事務の仕事を、決まった日に休める形で続ける」
使うものは、三つの答えを書いた紙だけです。
詰まりやすいのは、探している途中で親の言葉がまた浮かぶ時です。その時は紙を見返します。確かめるのは「理由は会社についているか」「したいことを言えるか」の2点だけです。答えが変わっていなければ、そのまま続けます。変わっていたら、変わった問いから答え直します。親の言葉が浮かぶたびに一から考え直すのではなく、紙に書いた答えが今も同じかどうかだけを見る、という使い方です。
B:届く力をつけてから動く(資格)
- 行きたい仕事で求められることを3つ調べる。調べ方は2つあります。1つは、厚生労働省の職業情報サイト(job tag)で仕事の名前を検索し、その職業のページにある「就業するには?」と「しごと能力プロフィール」を読む方法です(ページの作りは2026年10月時点のもので、変わることがあります)。もう1つは、その仕事の募集を3件開き、応募の条件に書かれた資格・知識・経験を紙に書き写す方法です。3件に共通して出てくるものを3つ選びます。
- 足りないものを1つ決めて学ぶ。3つのうち、今の自分にないものに丸をつけます。その中から、学べば手に入るもの(資格、検定、知識)を1つ選びます。「経験3年以上」のように、学ぶだけでは手に入らないものは後回しにします。
- 親には「準備している」と伝える。学び始めてから、決めたこととして伝えます。
使うものは、求められることを書き写した紙と、選んだ1つの教材や講座の案内です。
詰まりやすいのは、学ぶことが遠回りに感じられる時です。今すぐ辞めたい気持ちがあると、数か月の勉強は長く見えます。この時は、学ぶ期間を数字で決めます。教材や講座の案内に書かれている学習時間の目安を、自分が1週間に使える時間で割ります。
例の数字:目安が150時間、使えるのが週6時間なら、150÷6=25週。およそ6か月。
終わりの時期が数字で見えると、「いつまで今の場所にいるのか」にも答えが出ます。期間が長すぎると感じたら、週に使える時間を増やせるかを見直すか、3つの中から学ぶ時間の短いものを選び直します。
C:今の場所でやり残しをやる(現状維持)
- やっていないことを1つ選ぶ。問い3の一覧から、問い1に書いた理由に一番近いものを選びます。理由が1行になっていない人は「辞めたい理由を上司に言葉で伝える」を選びます。
- 上司に頼む一文を決める。今起きていること、頼みたいこと、の順に並べます。
- やってから問い1に戻る。頼んだ結果、理由が小さくなったなら、そのまま今の場所で続けます。変わらなかったなら、問い1に「なくなる」と書き直して、問い2へ進みます。
詰まりやすいのは、頼み方が分からない時です。次の文を、自分の言葉に直して使ってください。
例:「今、締め切りの重なる仕事を3つ持っていて、毎日の帰りが遅くなっています。1つの締め切りを後ろにずらすか、担当を分けていただけないでしょうか」
例:「この仕事のやり方が分からないまま進めていて、時間がかかっています。30分だけ、手順を教えていただけないでしょうか」
例:「仕事のことでご相談したいことがあります。今週のどこかで15分いただけますか」
口で言い出しにくい時は、3つ目の文をそのままメッセージで送り、話す時間だけを先にもらいます。話す場ができてから、1つ目や2つ目の文を使います。
親には、相談ではなく報告として伝える
相談の形と報告の形は、文の終わり方が違います。相談は「どう思う?」で終わり、相手の賛成を待ちます。報告は「こう決めた」で終わり、賛成を待ちません。親に相談しないと決めたあなたが次に親と話す時に使えるのは、報告の形です。
報告は3つの部分で作ります。決めたこと、その理由、心配してくれたことへの一言です。
Aの人の例:「会社を替えることに決めて、次の行き先も決まったよ。今の会社は休みの日が直前まで決まらなくて、それは会社を替えないと変わらないと分かったから。前に心配してくれたのは覚えてる。ちゃんと考えて決めたから、報告しておくね」
Bの人の例:「行きたい仕事があって、そのために資格の勉強を始めたよ。今の自分では応募の条件に届かないから、半年かけて準備する。それまでは今の会社で働くから、心配しないで」
Cの人の例:「仕事のことは、上司に話して量を調整してもらうことにしたよ。今の場所でやれることをやってみる」
行き先が決まって報告する段階になったら、転職を親に伝える4つの順番と最初の一文で、聞かれそうなことへの答えまで用意できます。
伝える時期は、Aなら行き先が決まってから、Bなら学び始めてからです。Cの人は、聞かれた時に答えるだけでもかまいません。
親の「逃げるな」は、親が見てきた働き方の中から出てきた言葉かもしれず、あなたを困らせようとして言ったものとは限りません。だから報告の中で、親の考えが間違っていると示す必要はありません。賛成してもらうことも目的にしません。返ってきた言葉がまた「逃げるな」だった時のために、次の一文を用意しておきます。
例:「心配してくれてありがとう。もう決めたことだから、また進んだら報告するね」
親に見せない1行を、今日書く
転職を選んだ人
今日は問い1の答えを1行で書きます。「辞めたい理由は( )で、これは会社を替えるとなくなる」。書けたら、紙を写真に撮っておきます。探し始めるのは、この1行ができてからです。1行を書いても動く決め手が作れないときは、自分に決め手がないとき、作る基準で、「いつまでに何がどうなっていなければ動く」という一文を作れます。自分で探す時は、転職サイトやハローワークで、一文から取り出した2つの条件を入れて募集を見ます。
資格を選んだ人
今日は行きたい仕事を1行で書きます。「( )の仕事をしたい」。仕事の名前がはっきりしていれば、求められることを3つ調べる作業にそのまま入れます。名前がまだあいまいな時は、問い2に書いた「したいこと」に近い仕事の名前を、思いつくだけ横に並べておきます。学ぶ手段は、本、通信講座、通学の講座などから、自分が週に使える時間に合うものを選びます。
学ぶと決めることと、どの講座に申し込むかを決めることは、別の決め事です。下の広告は、スマートフォンやパソコンで学ぶ形の、有料の資格講座です。扱っている資格は講座ごとに決まっています。
- 向く人:行きたい仕事を1行で書き、求められること3つのうち、学べば手に入るもの(資格、検定、知識)を1つ決めた人。
- 向かない人:行きたい仕事の名前がまだあいまいな人(求められることを3つ調べる所が先です)。足りないものが「経験3年以上」のように、学ぶだけでは手に入らないものだった人。眠れない日、食べられない日が続いている人(相談が先です)。
- 申込み後に起きること:申込みの流れ、支払いの時期と方法、受講できる期限、解約や返金の決まりは、講座ごとに違います。申し込む前に、案内ページで確かめてください。
- 使わない場合:本や通学の講座でも、案内にある学習時間の目安を、自分が1週間に使える時間で割れば、同じように期間を出せます。
現状維持を選んだ人
今日はやっていないことを1つ書きます。問い3の一覧から選び、「( )を、まだやっていない」と1行にします。上司に頼む一文を作るのは、その1行を書いてからで足ります。
「逃げかどうか」は線のない言葉なので、いくら考えても答えが出ません。答えが出るのは、三つの問いのほうです。理由が会社についていて、次にしたいことを一文で言えるなら会社を替えます。行き先はあるのに応募の条件に届かないなら、先に学びます。やり残しが理由に直接かかわるなら、今の場所でそれを1つやります。今日書くのは1行です。この1行は親に見せるものではありません。次に「逃げなのか」と浮かんだ時に、自分で見返すためのものです。
この記事で確かめた公的な情報
- 厚生労働省「こころの耳」(働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト):電話相談・SNS相談・メール相談の案内(2026年10月11日に確認)
- 厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag):職業ごとのページの内容(2026年10月11日に確認)