この記事を読むと、母に言われそうな言葉に返す一文を持ったうえで、「決める→伝える(自分で、か、代行で)→母に報告する」の順番で、母が動く前に自分で片づけられます。
電話を切ったあとに残った、母の「番号は?」
入社して3か月の新卒の人の話です。辞めたい気持ちが固まってきて、母に電話で話しました。すると母は、「私が会社に電話してやる」と言い、会社の番号を聞いてきました。あわてて電話を切りましたが、母は本当にかけそうです。
母を止めたいのではなく、母がかける前に、自分で片づけたい。でも、何をどの順番で済ませればよいかが分かりません。辞めると決めたのに、母の電話のほうが先に会社に届きそうで、それがいちばんこわい。この記事は、その順番を決める記事です。
母の言い分を悪く言うつもりはありません。ただ、退職は本人が決めて本人が伝えるものなので、母の電話より先に、自分の手で終わらせる手順を書きます。
母に言われそうな言葉と、返す一文
まず、母からの電話がもう一度かかってきたときに使う文を用意します。言われそうな言葉を左に、返す一文を右に並べました。右の欄の「○日」は、下の「片づける順番」で決めた日付を入れます。
| 母に言われそうな言葉 | 返す一文 |
|---|---|
| 「私が電話する」 | 「辞めるのは自分で決めた。伝えるのも自分でやる。○日までに終わらせる」 |
| 「3か月で辞めるなんて」 | 「辞める決まりは3か月でも同じ。期間の定めがなければ、申し入れから2週間で終わる」 |
| 「手続きなんてできるの?」 | 「退職届と、会社からもらう書類の一覧がある。それを見てやる」 |
| 「番号を教えなさい」 | 「番号は教えない。終わったら報告する」 |
右の一文は、どれも「自分が決めた」「自分がやる」「終わったら報告する」の3つでできています。母が気にしているのは、自分が決められないまま困っているのではないか、という点だと考えられます。だから、決めたこと、やること、報告する日を伝えます。母が電話をかける理由を、その分だけ小さくするためです。
4つのうち、1つだけ選んで送るところから始めます。全部を一度に言う必要はありません。
退職の意思は、本人から会社へ伝える
ここで、1つ確かめておきます。退職は、働いている本人の意思表示で成り立ちます。意思表示は、その通知が相手に届いたときに効力が生じ(民法97条1項。2026年10月時点)、会社の承認は要りません(労働局の説明)。本人が決めて、本人から会社へ伝える。これが退職の形です。
母が会社に電話をかけた場合に会社がそれをどう扱うかについて、公的な決まりや説明は見つかっていません。だから、母の電話が先に届いたとしても、本人の名前で最終日を書いた退職届を会社に出す、という自分の手順は変わりません。母が電話をかける前に自分で片づける理由は、ここにあります。
会社が、緊急連絡先として届けてある実家に連絡するかどうかについても、それを許す決まりも禁じる決まりも、公的な説明の中には見つかっていません。「会社から実家に電話が来ることはない」とは、この記事では書けません。母に報告する一文(下に書きます)には、「会社から電話があっても、本人から伝えますと言って」と添えておくのが現実的です。
片づける順番
順番は5つです。母に報告するのは3番目で、そこまでを母の電話より先に終わらせます。
- 最終日を決める。
- 伝える(自分で、か、代行で)。
- 母に「伝えた」と報告する。
- 会社から書類を受け取る。
- 健康保険と年金を切り替える。
1. 最終日を決める
期間の定めのない雇用なら、退職の申し入れから2週間がたつと雇用は終わります(民法627条1項)。これは入社3か月でも同じです。試用期間中の人が辞めるときの特別な決まりは、法律の条文を確かめた範囲では見つかっていません。「試用期間だから即日で辞められる」というのも誤りで、申し入れから2週間、という点は変わりません。
就業規則に「退職は1か月前までに申し出る」のような決まりがあるなら、その長さが常識的な範囲なら、それに合わせるほうがもめにくくなります。就業規則を見たことがなければ、社内の掲示や共有の場所で「退職」の条を探します。見つからなければ、2週間を目安に最終日を書きます。
| 書く欄 | |
|---|---|
| 伝える日 | 月 日 |
| 最終日(伝える日から2週間後、か、就業規則の期間後) | 月 日 |
| 母に報告する日(伝える日の当日か翌日) | 月 日 |
2. 伝える
伝え方は2つです。自分で伝えるか、退職代行に伝えてもらうか。どちらを選ぶかは、下の「伝えるのを、自分でやるか、頼むか、今は残るか」で決めます。ここでは、どちらでも共通の中身だけ書きます。
退職届に書くのは、日付、「退職いたします」の一文、退職日、自分の名前です。それだけで足ります。理由は書かなくてかまいません。口頭でも退職の意思表示は有効ですが、あとで「聞いていない」と言われないように、書面で残すほうがよい、というのが労働局の説明です。
3. 母に報告する
伝え終わったら、その日のうちか翌日に、自分から母に電話します。文はこれです。
「○日に会社に伝えた。最終日は○日。会社に電話はしないで。もし会社から電話があっても、本人から伝えますと言って」
代行に頼んだ人は、「○日に頼んで、会社に伝わった」に替えます。残ると決めた人は、「○日に決める。それまで電話しないで」に替えます(下の原因Cで書きます)。
4. 会社から書類を受け取る
最終日のあとに会社から受け取るものは、離職票(雇用保険の手続きで使う)と源泉徴収票です。離職票は、会社が出さないときはハローワークに申し出れば、本人の請求で手続きが進みます。源泉徴収票は、途中で退職した人には退職後1月(ひとつき)が交付の期限です(国税庁)。
ただし、入社3か月の人には、知っておくことが2つあります。
- 有給休暇は、法律の最低ラインでは、雇い入れから6か月続けて働き、8割以上出勤した人に10日つきます(労働基準法39条1項)。入社3か月では、最低ラインではまだついていません。入社日に前倒しでつける会社もあるので、就業規則で確かめます。
- 失業給付(雇用保険の基本手当)は、原則として離職の日より前の2年間に、雇用保険に入っていた期間が合わせて12か月以上ある人が受けられます。新卒で入社3か月なら、この条件に届かない場合があります。受けられるかどうかはハローワークが判断するので、辞めたあとに窓口で聞きます。
5. 健康保険と年金を切り替える
会社を辞めると、会社の健康保険からは外れます。選ぶのは、在職中の健康保険を自分で続ける任意継続(退職日までに被保険者の期間が続けて2か月以上あり、退職日の翌日から20日以内に申し出る)、住んでいる市区町村の国民健康保険(退職後14日以内)、家族の健康保険の扶養に入る、の3つです。入社3か月だと、被保険者の期間が2か月以上あるかどうかで任意継続を選べるかが変わります。年金は、次の勤め先にすぐ入らない場合、退職日の翌日から14日以内に、市区町村の窓口で国民年金への切り替えをします。制度は2026年10月時点のもので、変わることがあります。
母の扶養に入れるかどうかは、母が入っている健康保険の窓口で聞く話です。ここは母に頼ってよい部分で、「番号を教えて」とは別の話として、母にお願いします。
伝えるのを、自分でやるか、頼むか、今は残るか
ここまでの順番の2番目「伝える」を、自分でやるか、代行に頼むか、それとも今は残るか。次の3つに答えて決めます。
- 問い① 会社に自分で伝える場面を、作れますか。
- 問い② 母に止められたら残りたいですか。それとも、母に関係なく辞めたいですか。
- 問い③ 辞めたい理由は、3か月目の今の状態(研修、仮の配属)で、変わる見込みがありますか。
答えで、原因は3つに分かれます。この分け方は、この記事での整理です。
- 原因A:会社に伝えられる。母の勢いで急いでいただけ。
- 原因B:会社の人と話すこと自体ができない。母が「電話する」と言い出したのは、自分が「言えない」と話したから。
- 原因C:辞めたい理由が今の研修や仮の配属で、変わる見込みがある。
原因Aの人:母に日付を言って、自分で伝える
原因Aの人は、自分で伝える道です。費用はかかりません。順番は4つです。
- 母に「○日までに自分でやる」と返す(表の1行目の一文)。
- 最終日を決める。
- 伝える。
- 母に「伝えた」と報告する。
会社に伝える文は、母に言った日付をそのまま使います。
「退職のご相談です。○月○日を最終日にしたいと考えています。退職届をお持ちしました」
「3か月で」と言われても、日付を動かさず、同じ文をくり返します。受け取ってもらえなければ、郵便局から送ります。内容証明と配達証明をつけると、出した文書の内容と、届いた日が残ります。
詰まるのは、自分が伝える前に母が会社に電話してしまった場合です。そのときは、会社に自分で言い直します。
「母が連絡したと聞きました。退職は本人からお伝えします。○月○日で退職させていただきます」
そして退職届を出します。母の電話を会社がどう扱うかの決まりは確認できていないので、自分から伝え直せば、そこから順番が始まります。遅れたのではなく、ここが始まりです。
頼めるのは「伝える役」だけ。母の代わりではない
原因Bの道に入る前に、退職代行は母の代わりに会社と話す人ではない、という点を書いておきます。
退職代行が引き受けるのは、本人が決めた退職の意思を会社に伝えることです。弁護士でない代行にできるのは、ここまでです。母がやろうとした「会社と話をつける」役ではありません。最後の給料や退職日などの条件を会社と話し合うことは法律事務にあたり、弁護士でない者が報酬を受けて行うと弁護士法72条にふれるおそれがあります。弁護士会や労働委員会も、その点を注意しています。
自分で伝える場合と比べて違うのは、会社の人と話す回数だけです。書類を受け取ること、健康保険と年金を切り替えること、貸与品(会社から借りているもの)を返すことは、どちらの道でも自分がやります。母が「手続きなんてできるの?」と聞いたとき、「代行がやってくれる」とは答えられない、ということです。
頼んだあとに自分でやることは5つです。退職届を郵便局から送る。社員証や制服などの貸与品を返す。離職票と源泉徴収票を受け取る。健康保険と年金を切り替える。会社から本人か実家に来た連絡に対応する(代行は会社に「本人への連絡は控えてほしい」と伝えることがありますが、それはお願いであって、会社を縛る決まりではありません)。
使わない場合の代わりは、退職届を手渡す方法と、郵便局から送る方法です。上の「原因Aの人」に書いたとおりです。
原因Bの人:自分で頼み、母にはやらせない
原因Bの人は、退職代行を使う道です。会社の人と話すこと自体ができないなら、伝える役だけを頼む。ただし、頼むのは自分です。母に頼ませると、「本人が決めて本人が伝える」の形から外れます。
頼む前に決めることは3つです。
| 頼む前に決めること | 書く欄 |
|---|---|
| 最終日(2週間の予告を見て) | 月 日 |
| 貸与品の返し方(社員証、制服、鍵) | 郵便局から送る/ |
| 母に報告する日 | 月 日 |
3つが埋まったら、自分で頼みます。頼んだあとに自分でやる5つは、上の見出しに書いたとおりです。
詰まるのは、母が「そんなものに頼むな」と言う所です。返す一文はこれです。
「代行は伝える役だけ。決めたのも自分、手続きをするのも自分。お母さんの電話より、会社にちゃんと意思が届く形を選んだ」
母が電話をかけたがったのは、自分が「言えない」と話したからです。「言えない」ままにせず、伝わる形を自分で選んだ。それを母に言います。母がどう受け取るかは分かりませんが、「言えない」から「選んだ」に変わったことは伝わる形にします。
原因Cの人:期限を母にも伝えて、1つ聞く
原因Cの人は、今は残る道です。ただし、期限と条件をつけます。
期限は、研修が終わる日か、入社6か月の日の、どちらか早いほうです。条件は、それまでに「変わってほしいこと」を1つ、上司に聞くことです。仮の配属がいつまでか、研修のあとの仕事がどうなるか、どれか1つに絞ります。聞いた答えで、期限の日に決めます。
母には、期限の日付を書いて送ります。
「○月○日に決める。それまで会社に電話しないで。待ってほしい」
日付を伝えれば母が待つ、とは言い切れません。だから「待ってほしい」と頼む一文にしています。母が待てずにかけそうなら、同じ文をもう一度送ります。期限の日に決めたら、Aの一文かBの一文に切り替えます。
母の電話より先に片づく道は、3つともある
| 原因 | 道 | 選ぶ基準 |
|---|---|---|
| A:会社に伝えられる。母の勢いで急いだだけ | 自分で伝える | 費用がかからず、母に「自分でやる」と言い切れる |
| B:会社の人と話すこと自体ができない | 退職代行を使う(自分で頼む) | 伝える場面を作れないなら、伝える役だけを頼む。母にはやらせない |
| C:理由が今の研修や仮の配属で、変わる見込みがある | 今は残る(期限と条件つき) | 研修の終わりか入社6か月を期限に、1つ聞いた答えで決める |
母が「電話してやる」と言ったとき、こちらに残された道が代行だけだったわけではありません。費用のかからない基本は、自分で伝える道です。代行は、母の代わりに会社と話す人ではなく、自分が決めた意思を届ける役でしかありません。母の電話より先に片づける方法として、A・B・Cのどれも成り立ちます。
まず母に送る1つ、まず書く1つ
原因Aの人は、表の4つの一文から1つ選んで、母に送ります。「辞めるのは自分で決めた。伝えるのも自分でやる。○日までに終わらせる」が、いちばん使いやすい文です。
原因Bの人は、代行に伝える最終日を1つ書きます。今日から2週間後の日付を、まず書いてみます。
原因Cの人は、上司に聞くことを1つ書きます。「仮の配属はいつまでですか」のような、答えが日付で返ってくる問いにします。
母が動く前に、片づいている
最後の場面は、母への電話です。自分からかけます。
原因Aの人は、「○日に伝えた。最終日は○日。会社に電話はしないで」。原因Bの人は、「○日に頼んで、会社に伝わった。会社に電話はしないで」。原因Cの人は、「○日に決める。それまで電話しないで」。
どの道でも、母が番号を聞いてくる前に、こちらから報告が届きます。あわてて切った電話を、今度は自分からかけ直す。母が動く前に、片づいています。