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「家族がいるから」。この一言の続きを最後まで書くと、それが本当の事情なのか、別の理由の上にかぶせた言葉なのかを自分で見分けられます。事情なら転職先に求める条件に、そうでないならその下にある本当の理由に置きかえて、次に人に聞かれた時の答えを替えるところまで、この記事で決められます。
「転職しないの?」に「家族がいるから」と答えた日
あなたは同僚に「転職しないの?」と聞かれ、「家族がいるから」と答えました。同僚は「そうだよね」とうなずき、話はそこで終わりました。
ところが、答えたあなたのほうに、小さな後ろめたさが残りました。うそをついたわけではありません。家族がいるのは本当で、家族の暮らしを大事に思っているのも本当です。それでも、本当の理由は別にある気がしました。
解きたい問題は、ここです。「家族がいるから」が、動けない本当の事情なのか、動かないための言い訳なのかを、自分でも見分けられないこと。見分けられないままだと、聞かれるたびに同じ答えを返し、そのたびに同じ後ろめたさが残ります。
先に決めておくこと。「言い訳」を、責める言葉として使わない
この記事では、2つの言葉を次の意味で使います。
- 事情:家族の暮らしに実際にかかわっていて、条件として書き出せるもの。
- 言い訳:別の理由があるのに、その上にかぶせて使っている言葉。
言い訳だと分かることは、悪いことが見つかることではありません。人に短く答える時、通りのよい言葉を選ぶのはふつうのことです。ここで知りたいのは、言葉の下にある本当の理由のほうです。本当の理由が分かれば、することが決まります。
これから使う4つの問いは、この記事での整理です。心理の検査ではなく、性格を判定するものでもありません。
一文の続きを書く
紙を1枚用意し、いちばん上に次の文を書きます。これが問い1です。
「家族がいるから、( )ができない」
( )に入る言葉を考えて、書き入れます。決まりは2つです。1つ目は、「転職」と書かないこと。「家族がいるから、転職ができない」では、最初の一言をくり返しただけで、何も分かりません。2つ目は、入れる言葉を1つにしぼること。いくつも浮かぶ時は、それが守れないなら話にならない、と思うものを1つ選びます。
| ( )に入る言葉の例 | 守りたいもの |
|---|---|
| 収入を下げること | 毎月の暮らしのお金 |
| 住む場所を変えること | 家族の今の暮らしの場所 |
| 帰る時間を遅くすること | 家族と過ごす時間、家のことを分け合う時間 |
| 休みの日を変えること | 家族と休みを合わせること |
| しばらく収入が止まること | たくわえを減らさないこと |
すぐに書けた人は、そのまま次へ進みます。ペンが止まった人、どれを入れてもしっくりこない人は、( )を空けたまま次へ進んでください。空いたままであることも、あとで手がかりになります。
2つの「もし」で確かめる
書いた一文の下に、「もし」で始まる問いを2つ続けます。
問い2 もし、その( )を守れる仕事があったら、動くか
収入が下がらず、住む場所も変わらず、帰る時間も今と同じ。( )に書いたものが守られる仕事が目の前にあったとして、応募するかどうかを考えます。
「動く」と思えた人は、「家族がいるから」が本当の事情だった人です。足りなかったのは気持ちではなく、条件に合う行き先でした。この人は原因Aに着きます。
「それでも動かない気がする」と思った人、( )を空けたままの人は、問い3へ進みます。
問い3 もし、一人で暮らしていたら、今の会社を辞めているか
今度は、家族のことをいったん外して考えます。守るものが自分の暮らしだけだったとして、今の会社を辞めているかどうかです。答えは3つに分かれます。
- 「辞めたいが、一人でも動けない」:動けない理由は、家族とは別の所にあります。原因Bに着きます。
- 「一人でも辞めない」:今の会社にいたい理由が、自分の中にあります。原因Cに着きます。
- 「一人なら辞めている」:問い2で「動かない」と答えたのに、ここで「辞めている」となった人は、( )に入れた言葉が、守りたいものの中心から少しずれています。問い1に戻り、別の言葉を入れ直してから、もう一度問い2に答えます。
問い4 家族に、仕事を替えたいと話したことがあるか
最後の問いは、着く先を変えるものではありません。着いた先で、最初にすることを変えます。
話したことがない人は、( )に入れた言葉が、家族から聞いた答えではなく、自分の予想だということになります。「収入が下がったら困るだろう」「引っ越しはいやがるだろう」。当たっているかもしれませんが、確かめたものではありません。原因Aに着いた人は、条件を数字にしたあと、家族に話すことが手順に入ります。
話したことがある人は、その時に家族が何と言ったかを、紙のすみに1行で書いておきます。それが( )の中身と同じなら、事情は確かめずみです。
着いた所を読む
4つの問いの道すじを、表にします。
| 答えの道すじ | 着いた原因 | 合う道 |
|---|---|---|
| 問い2が「動く」 | A:家族の事情は本当で、条件に直せる。条件を守れるなら動きたい | 転職 |
| 問い3が「一人でも動けない」 | B:理由は家族とは別の所にある(例:ほかの会社で通じるか自信がない) | 資格 |
| 問い3が「一人でも辞めない」 | C:今の会社にいたい理由が自分にある | 現状維持 |
着いた先で、もう1つだけ自分に聞きます。
- Aに着いた人:守りたいものを、1つの言葉で書けたか。
- Bに着いた人:一人でも動けないなら、何が怖いのか。
- Cに着いた人:一人でも辞めないなら、今の会社の何を手放したくないのか。
この答えが、それぞれの道の出発点になります。3つの道のどれを選ぶかの基準は、家族がいるかどうかではありません。守るものを条件に直せて、それが合えば動きたいなら転職。動きたい気持ちはあるのに、自分の力に自信が持てなくて止まっているなら資格。今の会社にいたい理由を自分の言葉で言えるなら現状維持です。Bの人が資格を飛ばして転職の条件だけを整えても、怖さは残りやすくなります。Aの人が先に何かを学んでも、条件が合わなければ動けません。原因と道を合わせることが大事です。
A:事情を数字に直して、その条件で動く(転職)
- 守るものを数字にする。「収入を下げられない」のままでは、どの仕事なら条件に合うのかが分かりません。最低の収入、通える範囲、帰る時刻の3つを数字で書きます。
- 家族に話す。数字を見せて、足りない点や違う点がないかを聞きます。
- その条件で探す。3つの数字を満たす募集だけを見ます。
数字の出し方は、次のとおりです。
- 最低の収入:家賃や住宅ローン、食費、光熱費など、毎月決まって出ていくお金を書き出して足します。そこから、家のほかの収入を引きます。残りが、自分の手取りで下回れない額です。
- 通える範囲:家から職場まで、片道で何分までなら通えるかを書きます。
- 帰る時刻:何時までに家に着いていたいかを書き、通う時間を引いて、職場を出る時刻を出します。
例の数字:毎月出ていくお金が27万円、家のほかの収入が手取りで9万円なら、27万円−9万円=18万円。自分の手取りで月18万円が、下回れない額。
例の数字:19時00分までに家に着きたくて、通う時間が片道45分なら、職場を出るのは18時15分。
収入は手取りの数字で決めておきます。募集に書かれた金額と比べる時は、それが税金や社会保険料を引く前の額か、引いたあとの額かを確かめます。
使うものは、家計の記録(通帳や家計のアプリの画面)と、3つの数字を書いた紙です。
詰まりやすいのは、家族に切り出せない時です。「転職したい」から話し始めると、聞く側は結論を先に受け取って、身がまえることがあります。決めていないこと、守るものを先に決めたこと、の順に伝えます。
例:「仕事を替えることを考え始めた。まだ何も決めていない。もし替えるなら、手取りは月18万円を下回らない、帰りは19時までに着く、引っ越しはしない。この3つは守る前提で探したい。ほかに心配なことがあったら、先に聞かせてほしい」
家族から別の条件が出てきたら、紙に足します。家族の答えを聞いたあとの条件は、あなたの予想ではなく、確かめた事情です。
子どもがいて、会社を替えると使えなくなる制度が気になる人は、転職で不利になる4つの条件に、当てはまる数を数えるで先に確かめられます。
B:自信のない所を1つ決めて、学ぶ(資格)
- 自信がない点を1つ決める。「ほかの会社で通じるか自信がないのは、( )だ」と書き、( )を埋めます。
- 今の仕事に近い分野で、名前のつく力を1つ選ぶ。名前のつく力とは、資格や検定のように、会社の外の人にも一言で伝わるものです。
- 学ぶ。使う時間を決め、家族に伝えてから始めます。
( )に入れるのは、「着いた所を読む」で自分に聞いた「一人でも動けないなら、何が怖いのか」の答えです。怖さを大きな言葉のままにせず、1つの点にしぼって書きます。たとえば次のような言葉になります。
- 今の会社のやり方しか知らない
- 自分のしてきた仕事を、外の人に説明できる言葉がない
- 資格や検定を1つも持っていない
- 担当してきた範囲がせまい
名前のつく力を今の仕事に近い分野から選ぶのは、今までの経験が、学ぶ時の土台になりやすいためです。たとえば、経理の仕事をしている人なら会計の検定、人事や総務の人なら労務にかかわる資格、設備や機械の仕事の人ならその分野の技能の検定、システムの仕事の人なら情報処理の国家試験、という選び方です。どの資格が自分の仕事に合うかは、資格の実施団体の案内で、試験の範囲と自分の仕事の重なりを見て決めます。
使うものは、選んだ1つの試験の案内と、教材です。
詰まりやすいのは、家族の時間をけずるのが心苦しい時です。「家族がいるから」を理由にしてきた人は、ここで止まりやすくなります。この時は、だまって時間を作るのではなく、使う時間を先に家族に伝えます。
例の数字:週に5時間を20週続けると、5×20=100時間。
例:「今の仕事にかかわる資格を1つ取りたい。平日の夜に30分ずつと、休みの日の午前に2時間半、合わせて週に5時間使いたい。20週、およそ5か月で終える計画にした。そのあいだ、休みの日の午前だけ、家のことをお願いできるかな」
上の例は、平日5日×30分=2時間半と、休みの日の2時間半を足して、週5時間という計算です。いつ、どれだけ、いつまで、が先に分かっていれば、家族は予定を立てられます。伝えたうえで家族から「その時間は難しい」と返ってきたら、時間帯を変えて決め直します。
C:自分の理由で残ると言う(現状維持)
- 今の会社にいたい理由を、一文にする。
- 人に聞かれた時の答えを、「家族がいるから」から自分の理由に替える。
使うものは、最初の紙だけです。
詰まりやすいのは、書いてみた理由が弱く思える時です。「慣れているから」「楽だから」では、残る理由として足りない気がして、また「家族がいるから」に戻りたくなります。この時は、仕事・人・時間・お金の4つから1つを選び、その中で書きます。
- 仕事:今の仕事の中で、続けたい作業や役目は何か。
- 人:一緒に働き続けたい人はだれか。
- 時間:今の働く時間や休みの取り方で、気に入っている点は何か。
- お金:今の給料や手当で、手放したくないものは何か。
例:「今の会社は、休みの予定を1か月前に決められる。それが自分には合っているから、残る」
例:「今の担当の仕事を、自分の手で最後までやりたいから、残る」
りっぱな理由である必要はありません。大事なのは、主語が家族ではなく自分になっていることです。「家族がいるから」と答えて後ろめたかったのは、理由が家族の側にないと、自分でうすうす感じていたからかもしれません。
「転職しないの?」への答えを書きかえる
最後に、最初の一言を置きかえます。同僚に、本当の理由を全部話す必要はありません。目的は、答えたあとで自分が後ろめたくならない一言を持つことです。
| 着いた原因 | これまでの答え | これからの答えの例 |
|---|---|---|
| A | 家族がいるから | 「収入と帰る時間の条件が合う所があれば、と思って見ているよ」 |
| B | 家族がいるから | 「今は資格の勉強をしていて、それが終わってから考えるつもり」 |
| C | 家族がいるから | 「今の会社は休みの予定が立てやすくて、自分に合っているから、今は考えていないよ」 |
3つとも、家族を理由にしていません。Aの答えは事情を条件に直したもの、Bの答えは今していることを言ったもの、Cの答えは自分の理由を言ったものです。
「家族がいるから」と同じように、「3年はいるべき」という年数が理由になっているなら、『その三年は、誰が決めた三年ですか』で、在籍年数のかわりに、自分の終わりの条件を書けます。
着いた先ごとの、今日する一手
資格を選んだ人は、自信がない点を1行で書きます。「ほかの会社で通じるか自信がないのは、( )だ」。この1行が書けると、どの分野の何を学ぶかを選ぶ手がかりになります。学ぶ手段は、本、通信講座、通学の講座などから、家族に伝えた時間に合うものを選びます。
学ぶ手段の1つに、オンラインの資格講座があります。有料です。自信がない点の1行を書いて、学ぶ資格を1つに決めてから見てください。家族に伝えた時間(いつ、どれだけ、いつまで)で進められる量か、費用はいくらかを、申し込む前に講座の案内で確かめます。
- 向く人:自信がない点を1行で書き、学ぶ資格を1つに決めた人。
- 向かない人:学ぶ資格がまだ決まっていない人。本で学ぶと決めた人。
- 申込み後に起きること:申込みの流れ、支払いの時期と方法、受講できる期限、解約や返金の決まりは、講座ごとに違います。申し込む前に、案内ページで確かめてください。
- 使わない場合:ここまでの手順は、市販の本や公的な講座の案内でそのまま進められます。
転職を選んだ人は、守るものを1つ、数字で書きます。3つ全部でなくてかまいません。( )に入れた言葉に当たるものを1つ選び、「手取りで月( )万円」「片道( )分まで」「( )時までに家に着く」のどれかを埋めます。探す時は、転職サイトやハローワークで、この数字に合う募集を自分で見ていきます。1人で進めにくい時は、相談先を使う方法もあります。
現状維持を選んだ人は、次に聞かれた時の答えを1つ決めます。上の表のCの例を自分の理由に直し、紙に書いておきます。
どの一手も、紙に1行書くだけです。その1行が、「家族がいるから」の続きになります。