親の介護をしている課長の話です。正社員で、雇用の期間は決まっていません。親の通院の付き添いが月に何度かあります。
上司に「介護があるので辞めたい」と言いました。返ってきたのは「介護なら休めばいい」でした。けれど、この半年で出した休みの申請は、三回に一回しか通っていません。通院の日に間に合わなかったこともあります。それでも辞める話をすると、毎回「休めばいい」で終わります。
この記事を読むと、親の通院に月に何日要るかと、会社の制度で取れる日数を自分で書き込み、「足りないから辞めると自分で言う」「上司を通さず伝える」「制度の残りまで残る」のどれかを決められます。
「休めばいい」に、数字で返していない
辞める話が引き止めで終わるのは、「休めばいい」で足りるのか足りないのかを、数字で示していないからです。数字がないと、上司の一言と自分の実感が、同じ重さで向かい合うだけになります。
数字を書く前に、相談先を
強い疲れが続いている、眠れない日が続いている、体の不調が出ている。そういう状態の人は、数字を書く前に、相談先を使ってください。これは2026年10月時点の案内です。
厚生労働省の事業「こころの耳」には、電話、SNS、メールの相談があります。働く人と、その家族が対象です。職場の扱いについて相談したいときは、都道府県労働局などにある総合労働相談コーナーが、無料で、予約なしで使えます。介護休業の申し出が通らないなど、介護の制度に関することは、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が相談先です。体の不調は、医療機関で診てもらってください。相談の窓口は診断や治療の代わりにはなりません。
要る日数と、取れる日数を書き込む
この記事の真ん中は、次の2つの表です。上司に「休めばいい」と言われたときに返すのは、ここに書いた数字です。
月に要る日数
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 親の通院は月に何回あるか | 回 |
| 1回に要る時間(移動を含む) | 時間 |
| 月に要る休みの日数(半日で足りる日は0.5と数える) | 日 |
| この半年で申請した休みの数 | 回 |
| そのうち通った数 | 回 |
制度で取れる日数
会社の制度で使えるものを並べます。いずれも2026年10月時点の内容で、制度は変わることがあります。
| 制度 | 決まり(2026年10月時点) | 自分の残り |
|---|---|---|
| 介護休業 | 対象家族1人につき通算93日まで、3回まで。会社に申し出ることで取れる(育児・介護休業法11条1項・2項、15条1項) | 残り 日/残り 回 |
| 介護休暇 | 要介護状態の対象家族が1人なら年5日、2人以上なら年10日。1日単位でも時間単位でも取れる(16条の5、16条の6) | 残り 日 |
| 残業の免除(所定外労働の制限) | 1回につき1か月以上1年以内で、回数の制限はない。事業の正常な運営を妨げる場合だけ会社は断れる(16条の9) | 申し出た: /していない: |
| 有給休暇 | 残り 日 |
ここで言う要介護状態は、2週間以上にわたって常時介護が要る状態です。対象家族には父母が入ります。
介護休暇の日の給料が出るかどうかは法律で決まっておらず、会社の規定によります。介護休業の間は、雇用保険の介護休業給付金という制度があり、額は休業開始時の賃金日額の67%です。申請先はハローワークで、原則として会社を通して申請します。ただし、介護休業を始める時点で、休業が終わったあとに辞める予定がある場合は、給付金の対象になりません(ハローワークの案内)。辞める予定と介護休業を一緒に考える人は、ここを先に見ておいてください。休業中の給料そのものは無給でもよく、会社の規定によります。
介護の短時間勤務などの措置も、会社が1つ以上用意する義務があります。ただし、短時間勤務か、時差出勤か、費用の助成かは会社ごとに違うので、短時間勤務が使えるとは限りません。就業規則か人事に確かめてください。
差を、上司に返す一文にする
「月に要る休みの日数」と「制度で取れる日数を月に直したもの」の差を見ます。たとえば介護休業の残りを通院の日だけに使うなら、残りの日数を月に要る日数で割ると、何か月もつかが出ます。介護休暇は年5日(2人以上なら年10日)なので、月に直すと1日に満たない日数です。
この差が、上司に返す一文になります。
「月に◯日要ります。半年で申請して通ったのは◯回です」
数字は、自分で入れてください。記事では作りません。
「休めばいい」と言われたら、この一文を返して、終わりにしてかまいません。返したあとも「休めばいい」で終わるなら、辞める意思そのものが伝わっていないということです。それが、次の見出しの問い②につながります。
もう一つ、数字は上司のためだけに書くのではありません。あとで人事に渡すとき、相談先に行くとき、自分で道を選ぶとき、同じ表をそのまま使います。一度書けば、三度使えます。
課長として、辞める前に決める3つ
課長の立場で辞める人は、数字とは別に、3つを決めておきます。引き継ぎ資料をどこまで作るか。部下にどの順番で伝えるか。「役職者は◯か月前に申し出る」という規定が就業規則にあるかどうか。3つ目は、総務か人事に、就業規則が読める場所を聞いて確かめます。
数字が出たら、3つの問い
問い① 数字を出したら、会社の制度の日数で通院は回りますか、回りませんか。
問い② 辞める話を上司にすると、毎回「休めばいい」で終わって、辞める意思そのものが伝わっていませんか。
問い③ 介護休業は申し出ましたか。申し出ていないなら、まだ使っていない制度があります。
数字の差で3つに分けるのは、この記事での整理です。あなたや上司を診断するものではありません。
原因A 数字を出したら、制度の日数では足りない。足りないと分かれば、上司にも人事にも自分で言える。
原因B 上司が「休めばいい」で話を終わらせ、辞める意思を聞かない。何度言っても同じで、もう上司と顔を合わせて辞める話をすることができない。
原因C 数字を出したら、介護休業の残りと有給で通院は回る。まだ申し出ていない制度がある。
問い③で「申し出ていない」なら、先にCの道から読んでください。この記事では、Cを最初に置きます。
制度が回る人(C):介護休業を申し出て、残りの日数まで残る
Cは、期限と条件つきで今は残る道です。期限は「制度の残り日数」、条件は「通院が回っていること」です。
まず、介護休業を申し出ます。法律では、会社に申し出ることで取れます。申し出は、日付が残る形(紙か、残るメール)で出すのが確かです。
次に、通院の日を、先に休みとして出します。次の月の通院の日が分かったら、その月の分をまとめて申請します。介護休暇は時間単位でも取れるので、半日で足りる日は時間で出します。
そして、制度の残り日数を期限にして残ります。表に書いた介護休業の残り日数を、月に要る日数で割った月数が、残れる目安です。
最後に、通らなかった申請の数を記録します。残りが尽きる前に、退職届の日付を決めます。記録は、Aに移ったときの数字の表にそのまま使えます。
詰まる所は、申し出ても通らないことです。介護休業の申し出や取得を理由にした不利益な扱いは、法律で禁止されています。当てはまるかどうかは記事では判定しません。都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談して確かめてください。「会社は断れない」と書くこともしません。通らなかった事実と日付を記録して、相談先に持っていくのが、この道の詰まりの次の手です。
Cの道は、辞めないと決める道ではありません。制度の残りの分だけ、辞める日を先に送る道です。残りが尽きたとき、通院が回る形になっていればそのまま残ればよく、回らないなら、記録した数字を持って問い②に戻ります。上司に意思が伝わるならA、伝わらないならBです。
足りない人(A):数字の表を添えて、人事にも渡す
Aは、自分で伝える道です。手順は4つあります。
数字を表にします。上の2つの表を、そのまま紙に写してかまいません。
最終日を決めます。期間を決めずに雇われている人は、辞めると申し入れた日から2週間がたてば、雇用が終わります(民法627条1項。2026年10月時点)。就業規則に「1か月前」のような常識的な長さの申し出期間があるなら、それには合わせます。
退職届と数字の表を、上司と人事の両方に手渡します。上司だけに渡すと、また「休めばいい」で止まることがあるので、人事にも同じものを渡します。退職届は、辞める日と、退職することが書いてあれば足ります。表は、その後ろに1枚つけるだけです。
引き継ぎ資料を残します。課長の仕事は、部下と上司の両方から見えるように、仕事ごとの担当と期限を一枚にします。
詰まる所は、「役職者は半年前」と言われることです。常識的な長さの申し出期間には合わせますが、極端に長い期間や、辞めるのに会社の許可を求める規定については、法的な効力がないとされた例があります。労働局の相談事例では、「役付者は六か月前」のような長い予告期間に、会社の許可まで求める規定について、効力がないとした裁判例が紹介されています。ただし、これは個別の判断です。言われたら、その場で日付を変えず、総合労働相談コーナーに相談してから日付を決めます。
代行は、介護休業の話し合いができない
Bの道に入る前に、上司を通さずに伝える方法が「どこまで」なのかを、介護の読者に向けて分けておきます。
弁護士でない代行が会社に届けられるのは、本人が決めた「辞めます」という意思までです。介護休業を取れるようにする話、退職日をいつにするかの調整、有給の扱いの交渉はできません。こうした話し合いを、弁護士でない人が報酬を受けて行うと、弁護士法72条の問題になります。弁護士会や労働委員会は、ここに注意するよう呼びかけています(2026年10月時点)。
代行を使っても使わなくても、書類の受け取り、保険と年金の切り替え、親の保険の手続き、部下への伝え方は自分でやります。変わるのは、上司と向かい合うかどうか、だけです。
代行を使わない場合の代わりは、人事に書面で出すことです。上司を通さず、退職届を人事に直接手渡すこともできます。郵便局から会社あてに送るなら、内容証明をつけると文書の中身が、配達証明をつけると届いた事実が、証明として残ります。
代行を使う人は、制度の表の下に1行足して、料金を書き込みます。
| 代行の料金(自分で見た額) | 円 |
|---|---|
意思が届かない人(B):上司を通さずに届ける
Bは、退職代行を使う道です。上司が辞める意思を聞かないという一点を、別の口から届けるために使います。
頼む前に、次の4つを決めます。
- 最終日。代行が伝える日から数えて2週間がたった日以降で選びます。
- 介護休業と有給の残りの使い方。退職日までに残っている有給を使う申し出について、労働局は、退職日のあとに時季を変えることができないため、請求どおり与えなければならないと説明しています。ただし、引き継ぎをしないまま休みに入ると問題が起きることもある、とも労働局は書いています。最終日から逆算して、引き継ぎの日と休みの日を分けます。介護休業を辞める前提で使う場合は、上に書いた給付金の扱いも先に確かめます。
- 引き継ぎ資料。頼む前に作り、置き場所を決めます。
- 部下に自分で伝える日。代行が会社に伝えるより前か、遅くとも同じ日に置きます。部下が上司から先に聞く形にしないためです。
頼んだあとは、次の4つが自分の手に残ります。
書類です。離職票と源泉徴収票は、会社から受け取る書類です。離職票が来ない場合は、ハローワークに申し出ると、本人の請求として手続きが進みます。
健康保険と年金の切り替えです。健康保険の切り替え先は3つ(今の保険を自分で続ける任意継続、国民健康保険、家族の扶養に入る)で、どれも期限があります。任意継続は退職日の翌日から20日以内、国民健康保険は14日以内、国民年金への切り替えは退職日の翌日から14日以内です(2026年10月時点)。
親の保険です。親をあなたの健康保険の扶養に入れている人は、親の分の手続きも要ります。自分の期限に間に合うように、親の分をどうするかを、今の加入先か市区町村の窓口で先に聞いておきます。
会社からの連絡への返事です。代行に「本人への連絡は控えてほしい」と伝えてもらうことはできますが、それはお願いで、会社を縛る決まりではありません。連絡が来たら、引き継ぎ資料の場所だけを短く返します。
「引き継ぎ資料は◯◯に置いてあります。退職の件は、代行からお伝えしたとおりです。」
詰まる所は、会社が「課長が急に抜けるのは困る」と言ってくることです。代行は、この条件の話し合いができません。後任が来るまで働く義務は、法律にはありません。それでも会社が応じないときは、総合労働相談コーナーへ相談します。
数字で分ける、道の選び方
制度の表を月に直して、要る日数に届くなら、Cです。残りの日数を期限にして、通院を制度で回します。
届かないと分かり、上司と人事に数字を添えて渡せるなら、Aです。辞める理由は、表の差そのものです。
数字を出しても上司が「休めばいい」で話を閉じ、顔を合わせて辞める話ができないなら、Bです。伝える役だけを代行に頼み、部下と親の保険のことは自分で進めます。
どの道も、入口は同じ一枚の表です。
今日、書く数字一つ
Aの人は、親の通院が月に何回あるかを書きます。Bの人は、介護休業の残り日数を書きます。分からなければ、人事に聞きます。Cの人は、次の月の通院の日を、その月の分だけ先に申請します。
通院の朝、時計を見なくていい
通院の朝です。親の付き添いで病院の受付にいて、時計を見なくていい。
Aの人は、辞めたあとの朝です。Bの人も同じです。Cの人は、介護休業か介護休暇で休みにした朝です。どの道でも、「月に要る日数」を数字にしたので、ここに着きます。