この記事を読むと、契約書で期間と更新の時期を確かめて、自分が「満了で辞める」人なのか「途中で辞める」人なのかを知ることができます。そのうえで、会社に自分で伝えるか、退職代行に頼むか、満了日まで残るかを選び、辞めた日の朝に玄関で言う一文を持てます。
契約社員として働き、親と同じ家に住んでいる人の話です。会社を辞めたいのに、親に言えません。辞めたあとも朝スーツを着て家を出て、図書館で夕方まで過ごす自分が、はっきり想像できてしまいます。想像できるほど、辞める日が決められません。契約の期間と更新の時期も、正確には覚えていません。
止まっているものは2つある
この場面で止まっているものは、1つではありません。
1つは、「いつ辞められるか」です。契約社員は、契約に期間があります。期間の途中なのか、満了が近いのか、契約書を見ていないので分かりません。分からないので、辞める日が決まりません。
もう1つは、「親に言う朝の形」です。辞めた日の朝、スーツを着ないで玄関に立ち、親に何と言うか。この一文がないので、スーツを着て出ていく自分しか想像できません。
2つが重なって、両方が止まっています。この記事では、先に契約書を見て1つ目を解き、次に時間割を作って2つ目を解きます。順番は、契約書が先です。言う一文は、辞める日が決まらないと決まりません。
時間割の前に、契約書で確かめること
入社のときにもらった書面(雇用契約書や労働条件通知書)を出してください。見るのは3か所です。
- 契約期間の始まりと終わり。「○年○月○日から○年○月○日まで」の、終わりの日が満了日です。
- 更新の有無と、更新の時期。「更新する場合がある」「更新しない」のどちらが書いてあるか。更新の判断をいつするかが書いてあれば、その時期。
- 契約が1年を超えるものかどうか。たとえば3年の契約なら「超える」、1年ちょうどなら「超えない」です。
この3つから、辞め方の決まりが分かれます。以下は2026年10月時点で確かめた決まりです。法律や制度は変わることがあるので、契約書の文と並べて読んでください。
期間の定めのある契約では、契約の期間は働く約束、というのが原則です。途中で辞められるのは「やむを得ない事由」があるときで(民法628条)、何がそれに当たるかは個別の判断になります。この記事では、読者の場合に当たるとも当たらないとも書きません。
ただし、契約の期間が1年を超えるものなら、契約の初日から1年がたった日のあとは、会社に申し出ることでいつでも辞められます(労働基準法の附則137条。一定の事業の完了に必要な期間を定めた契約と、高度な専門職や満60歳以上の人は除きます)。
契約が満了日で終わり、更新がなければ、その日で雇用は終わります。更新には、働く側の同意が要ります。「更新しない」と伝える時期についての法律上の決まりは、確認できていません。契約書か就業規則に書いてあるか、人事に聞いて確かめます。
ここまでを並べると、「満了が近い」「1年を超える契約で1年たっている」のどちらかなら、辞める日は自分で決められます。「契約の途中で、1年もたっていない、やむを得ない事由と言えるものもない」なら、満了日が辞める日の候補になります。
2本の時間割を、上下に並べる
この記事の真ん中は、この時間割です。紙を横にして、上の段と下の段に、同じ時刻の線を引いてください。
上の段は「出勤のふりの一日」です。すでに頭の中にある、あの一日を、そのまま書きます。
| 時刻 | 上の段:出勤のふりの一日 | 進んだこと |
|---|---|---|
| 起きる | いつもの時間に起きる | |
| 着る | スーツを着る | |
| 玄関 | 「行ってきます」 | |
| 午前 | 図書館 | |
| 午後 | 図書館 | |
| 夕方 | 帰る。「ただいま」 |
右の「進んだこと」の欄を、埋めてみてください。空欄のまま、夕方まで来ます。上の段の一日は、何も進みません。辞めたことを隠す時間が、丸一日かかります。この一日を数えるのが、上の段の役目です。
下の段は「玄関で言った日の一日」です。
| 時刻 | 下の段:玄関で言った日の一日 | 進んだこと |
|---|---|---|
| 起きる | いつもの時間に起きる | |
| 着る | 私服を着る | スーツを着ない |
| 玄関 | 「今日は行かない。辞めた」 | 親に伝わる |
| 午前 | 市区町村の窓口へ(切り替えに要る書類と期限を聞く) | 期限と持ち物が分かる |
| 午後 | 次を探す | 次が1つ進む |
| 夕方 | 帰る |
午前の窓口で聞くのは、退職後の健康保険と年金のことです。次の会社にすぐ入らない場合、国民年金の切り替えは退職日の翌日から14日以内、国民健康保険に入るなら14日以内に、市区町村で手続きします(健康保険は、会社の健康保険の任意継続を退職日の翌日から20日以内に申し出る方法や、家族の健康保険の被扶養者になる方法もあり、どれにするかは条件と額を見て決めます)。切り替えの手続きには、離職票など、退職日が分かる書類が要ります。辞めた日の午前に行くなら、要る書類と期限を聞くところまでです。
辞めた日の午前に行けるのは、市区町村の窓口です。ハローワークは、会社から離職票が届いてからです。
午後の「次を探す」は、求人を見ることでも、人に聞くことでも、書類を直すことでもかまいません。1つ進めば、欄が埋まります。
この2本を並べると、違いは3か所です。「着る」「玄関」「午前と午後」。スーツを着ないこと、一文を言うこと、期限を知って次を1つ進めること。上の段は、この3つがないまま一日が終わります。
玄関で言う一文
下の段の「玄関」の欄に書く一文は、これです。
「今日から行かない。辞めた。○日までに次の手続きをする。」
理由は言いません。理由を聞かれても、長く言い始めると、玄関の一文が玄関で終わらなくなります。言うのは、事実(辞めた)と、次にやること(○日までに手続き)の2つだけです。
「○日」は、下の段の午前に聞く期限から決めます。国民年金と国民健康保険の14日以内が、いちばん近い期限になります。
親に「次はどうする」と聞かれたら、下の段の「午前」と「午後」をそのまま言います。「午前は窓口。午後は次を探す」。それで足ります。親が何と言うかは、この記事では書きません。決めるのは、自分が言う一文だけです。
満了日が分かったら、言えない理由を分ける
契約書の日付が分かったところで、辞める日が決められなかった理由を、もう1段分けます。契約書を見てから分けるのは、この記事での整理です。契約社員を型にはめるものではありません。
問い①:契約書で、満了日はいつですか。1年を超える契約で、初日から1年たっていますか。
問い②:会社に、辞めることを自分の口で言えますか。言えないとしたら、それは家族に知られるからですか。それとも、上司と顔を合わせること自体ができず、朝の電車に乗ることもつらくなっていますか。
問い③:満了日まで残った場合、更新の意思を確かめられたときに「更新しない」と言えますか。
問い①の日付と、②③の答えを並べると、次の3つに分かれます。
| 契約書の日付 | 止まっているもの | |
|---|---|---|
| A | 満了が近いか、1年を超える契約で1年がたっている | 会社には言える。止まっていたのは家族に言う朝の形 |
| B | 確かめた | 上司と顔を合わせると言えず、朝の電車に乗ること自体がつらい。家にも会社にも言えない |
| C | 契約の途中で、満了日が見えている | 「やむを得ない事由」と言えるものがない |
日付と止まっているものが決まれば、道は1つに絞れます。Aは自分で書面で伝える、Bは代行に頼む、Cは満了日まで残る、です。
満了が近い人(A):契約書の日付から辞める日を決め、書面で伝える
Aの人は、会社に伝えることはできます。止まっていたのは、辞める日と、玄関の一文です。
手順は5つです。
- 契約書の期間を確かめる(上で済んでいます)。
- 辞める日を決める。満了が近いなら満了日。1年を超える契約で1年がたっているなら、申し出た日から数えて、契約書や就業規則に申し出の期間が書いてあればそれに合わせた日。書いていなければ、人事に確かめた日。
- 会社に書面で伝える。満了で辞めるなら「更新しない」旨を、途中で辞めるなら退職届を、紙で出します。退職届は「退職届 私は、○年○月○日をもって退職いたします。○年○月○日 (所属) (氏名)」。前の日付が辞める日、後ろが出す日です。渡しにくければ、郵便局から送る方法もあります。
- 下の段の時間割を作る。
- 辞めた日の朝、玄関で一文を言う。
詰まりやすいのは、親に「次はどうする」と聞かれる場面です。答えは、下の段の「午前」と「午後」です。「午前は市区町村の窓口に行く。午後は次を探す」。ハローワークの手続きは離職票が届いてからなので、辞めた当日ではなく、届いた日に行きます。
代行が伝えるのは会社まで。玄関の一文は自分で
Bの道に進む人のために、代行が受け持つ範囲と、本人に残る範囲を、表で分けておきます。
| 誰がするか | |
|---|---|
| 会社に「辞めます」を伝える | 代行(弁護士でない代行にできるのは、本人が決めた退職の意思を伝えるところまで) |
| 契約の途中で辞めることが「やむを得ない事由」に当たるかの判断 | 代行ではできない。総合労働相談コーナーなどで相談する |
| 残業代や退職日の条件の話し合い | 弁護士でない代行ではできない(報酬を受けて行うと弁護士法72条の問題になる) |
| 退職届の送付、離職票・源泉徴収票の受け取り、健康保険と年金の切り替え | 本人 |
| 親に「辞めた」と言う | 本人 |
話し合いができない点は、弁護士会や労働委員会も注意を呼びかけています。
代行に頼んで変わるのは、会社に伝える場面で上司と顔を合わせなくなる、という所です。親に言う場面は、どの道を選んでも残ります。代行は、玄関には来ません。
費用は事業者ごとに違います。見た額を、契約書の満了日の横に書き添えておきます。
見た額:( )円
満了日に「更新しない」と自分で書面を出す道なら、この額はかかりません。代行を使わない人の代わりの方法は、「更新しない」旨や退職届を書面にして、郵便局から送る形です。会社に行って上司と向き合わずに出せます。内容証明をつければ出した文書の内容が(郵便法48条)、配達証明をつければ配達した事実と日付が(郵便法47条)、郵便局の記録に残ります。
家にも会社にも言えない人(B):伝える部分だけ人に頼む
Bの人は、上司と顔を合わせると言えず、朝の電車に乗ること自体がつらくなっています。家にも会社にも言えないまま、上の段の一日が続いています。それなら、「会社に伝える」という作業だけを人に頼み、玄関の一文だけを自分で言います。
頼む前に、次の3行を埋めます。
| 埋める行 | 書くこと |
|---|---|
| 辞める日 | 満了日/1年経過後の○月○日/契約の途中 |
| 貸与品(パソコン・カード・制服など)の返し方 | 郵送/会社に置いてくる |
| 玄関で言う一文 | 「今日から行かない。辞めた。○日までに次の手続きをする」 |
1行目で「契約の途中」に丸がついた人は、代行に頼む前に、総合労働相談コーナーに相談してください。途中で辞めることが「やむを得ない事由」に当たるかは、代行では判断できません。総合労働相談コーナーは、各都道府県の労働局や労働基準監督署の中にあり、無料で、予約は要りません。「契約社員で、契約の途中で辞めたい。契約書にはこう書いてある」と、契約書を持って行けば足ります。
決めたら、頼みます。頼んだあとは、退職届を書いて送り、離職票と源泉徴収票を受け取り、健康保険と年金を切り替えます。会社から家に連絡が来たときの、親の答えも先に決めておきます。そして、頼んだ翌朝、玄関で一文を言います。
会社から家に電話が来るかどうかについて、それを許す決まりも、禁じる決まりも、公的な説明では見つかっていません。来ないとは言えないので、来たときに親が何と言うかを、先に親と決めておきます。「本人から連絡させます」の一言で足ります。これを決めるには、玄関の一文が先に要ります。順番は、玄関の一文、そのあとに電話の答えです。
詰まりやすいのは、「契約の途中なのに」と会社から言われる場面です。代行は、契約の条件を会社と話し合えません。途中で辞めることの扱いは、総合労働相談コーナーか、法テラス(収入と資産の基準があり、同じ問題で3回まで無料の法律相談があります)で相談します。会社から何かを求められた場合は、その内容を持って、同じ窓口に行きます。
契約の途中の人(C):満了日を期限に、「更新しない」を書面で伝えて残る
Cの人は、契約の途中で、満了日が見えています。「やむを得ない事由」と言えるものはない。それなら、満了日を期限にして残り、その日で辞めます。
手順は5つです。
- 満了日を期限にする。手帳に書きます。
- 更新の意思を確かめる時期を、人事に聞く。「更新の確認は、いつごろありますか」の一言で足ります。
- その時期に、「更新しない」と書面で伝える。「○年○月○日の契約満了をもって、更新を希望しません。」に日付と名前を書けば足ります。
- 満了日まで、下の段の時間割の「午後」だけ先に始める。働きながら次を探します。
- 満了日の翌朝、玄関で一文を言う。
「更新しない」と伝える時期についての法律上の決まりは、確認できていません。契約書や就業規則に書いてあればそれに従い、なければ人事に聞きます。目安がほしい人へ。会社の側が、3回以上更新した人や1年を超えて続けて働いている人の契約を更新しないときは、満了日の30日前までに予告する決まりがあります。それを参考に、30日前を1つの目安にする考え方もあります。これは会社側の決まりを参考にした、この記事での目安で、働く側の期限ではありません。
詰まりやすいのは、「更新しないなら今すぐ辞めてくれ」と言われる場面です。期間の定めのある契約を、会社の側から途中で終わらせるには、「やむを得ない事由」が要ります(労働契約法17条1項)。そう言われたら、「満了日までは働きます」と返し、総合労働相談コーナーに相談します。
玄関の一文より先に、今日やること
玄関に立つ日はまだ先でも、今日やることは道ごとに1つです。
満了が近いAの人は、契約書の満了日を、手帳に書きます。日付1つです。
家にも会社にも言えないBの人は、玄関で言う一文を書きます。「今日から行かない。辞めた。○日までに次の手続きをする」。○日は空欄のままでかまいません。
契約の途中のCの人は、更新の意思を確かめる時期を、人事に聞きます。聞く文は「更新の確認は、いつごろありますか」です。
玄関で「行かない」
辞めた日の朝。私服で玄関に立っています。靴を履く前に、親に言います。
「今日は行かない。辞めた。」
Aの人は、会社に書面で伝えた日から数えた朝に、ここに立ちます。Bの人は、代行が会社に伝えた翌朝に、ここに立ちます。Cの人は、満了日の翌朝に、ここに立ちます。
どの道でも、玄関にスーツはありません。上の段の一日は、始まりません。午前は窓口、午後は次を探す。下の段の一日が、玄関から始まります。