転職を考え始めて「何がやりたいのですか」と聞かれ、答えが出てこないことがあります。熱意が足りないからではありません。職業の名前で答えようとすると、知っている職業の中からしか選べないからです。同じ職業でも職場によって中身が違うため、決めにくいという面もあります。この記事では、職業の名前ではなく「次の仕事で外したくない条件」を3つ決め、その条件で今の職場を点検して、残る・学ぶ・移るのどれに進むかを選びます。
読み終えると、「次の仕事で外したくない条件3つ」を自分の言葉で書き、今の職場を点検したうえで、現状維持・資格・転職のどれに進むかを選べます。
この記事で渡すもの
- キャリア・アンカーの8つの視点
- 外したくない条件3つの選び方と、過去の経験での確かめ方
- 条件を、確かめる質問に置き換える方法
- 現状維持・資格・転職の選び方と、今日の一手

「やりたいこと」を職業名で考えると、答えが出にくい
仕事への満足に関わるのは、職業の名前そのものよりも、その仕事の中にある条件であることが多いものです。どのくらい自分で決められるか。専門を深められるか。誰の役に立っている実感があるか。収入や勤務地の見通しが立つか。同じ職種でも、これらは会社や部署によって違います。
条件は、職業の名前より数が少なく、自分の過去の経験から取り出せます。「どんな条件のときに力が出て、どんな条件のときに消耗したか」は、思い出して確かめられます。
やりたいことがはっきりしてから動く、という順番でなくてもかまいません。条件の合う環境で働くうちに、やりたいことが見えてくる場合もあります。
キャリア・アンカーの8つの視点
キャリア・アンカーは、マサチューセッツ工科大学のエドガー・シャインが提唱した考え方です。人が仕事を選ぶときに手放したくないと感じる価値観や欲求を整理したもので、現在は8つに分けて紹介されることが多くあります。アンカーは船の錨のことで、状況が変わっても動きにくい、自分の中の拠りどころを表しています。
ここでは、8つを「あなたは○○タイプです」と判定するための診断としては使いません。自分が何を大事にしているかを考えるための、8つの視点として使います。
| 視点 | 満たされる場面 | 消耗しやすい環境 |
|---|---|---|
| 専門・職能 | 特定の分野の技術や知識が深まっているとき | 広く浅く担当し、1つの分野に時間を使えない |
| 全般管理 | 責任ある立場で、人や組織をまとめ、成果が広がるとき | 責任のある役割を任される機会がない |
| 起業家的創造性 | 新しい商品や仕組みを、自分で形にするとき | 決まった仕組みを、同じやり方で回し続ける |
| 自律・独立 | 自分のやり方とペースで進められるとき | 細かい承認が必要で、自分で決められない |
| 生活様式 | 仕事と生活の境界が守られ、全体が回っているとき | 休みや勤務場所の選択肢が、実際には使えない |
| 保障・安定 | 収入や勤務地の見通しが立っているとき | 勤務地や担当の先が読めない |
| 奉仕・社会貢献 | 自分の仕事が、誰かの役に立ったと分かるとき | 誰のための仕事かが見えない |
| 純粋な挑戦 | 難しい課題を乗り越えたとき | 難しさが上がらず、同じことのくり返しになる |
読みながら、強く反応したものと、読んでいて息苦しくなったものの両方に印を付けてください。合わない方向が分かることにも、同じ価値があります。
似ていて混同しやすいものがあります。「自律・独立」は自分で決めたいという望みで、「生活様式」は仕事に生活を侵されたくないという望みです。後者を望む人が、自由を求めて独立すると、決める自由は得られても、仕事の時間が際限なく広がることがあります。
外したくない条件を3つ選ぶ
8つの視点を手がかりに、次の仕事で外したくない条件を3つ選びます。多すぎると、選ぶときの決め手になりません。
8つの視点の言葉をそのまま使う必要はありません。自分の言葉に置き換えます。例えば「自律」であれば、勤務場所を選べることなのか、進め方を決められることなのか、時間の使い方を決められることなのかを、具体的にします。
8つを読んでも反応するものがない人は、先に、1日の中で好きだった場面、嫌だった場面、どちらでもなかった場面を数日書き留めてから戻ってください。それが条件の材料になります。
あこがれている人の働き方を、そのまま自分の条件にしないよう注意してください。その人のどこに引かれているのかを言葉にすると、別の形で実現できる場合があります。
3つの条件の例(架空)
1. 仕事の進め方を、自分で決められる範囲が広いこと
2. 1つの分野を、3年以上続けて深められること
3. 平日の夜に、自分の時間が2時間は残ること
3つの条件が、互いに両立しにくいこともあります。その場合は、どれを優先するか順位を付けます。すべてを満たす仕事を探すのではなく、どの不便なら受け入れられるかを決めるために、条件を並べます。
人から「向いてないんじゃない?」と言われて、条件どころではない人は、先に「続けるかの物差し」で、今の仕事に自分で点をつけてください。条件を3つ決めても、5年後・10年後の姿が思い描けないなら、「10年後が描けないとき、1本に決めずに3つのシナリオで比べる」で、材料を4種類集めて3つの道を比べられます。
選んだ条件を、過去の経験で確かめる
選んだ条件が、思い込みではなく実際に自分に当てはまるかを、過去の経験で確かめます。それぞれの条件について、次の2つを書きます。
| 確かめること | 書き方 |
|---|---|
| その条件が満たされていたとき | いつ、どんな仕事で、どうだったか。力が出たか |
| その条件が欠けていたとき | いつ、どんな仕事で、どうだったか。消耗したか |
両方に具体的な場面が書ければ、その条件は自分にとって実際に重要だと考えてよいでしょう。場面が思い浮かばない条件は、あこがれや、世間でよいとされていることを選んでいる可能性があります。別の条件と入れ替えて、もう一度確かめてください。
3つの条件を、確かめる質問に置き換える
条件は、確かめられる形にして初めて使えます。自分の3つの条件それぞれについて、事実で答えてもらう質問を1つずつ作ります。感想ではなく、数や実際の出来事を答えてもらう形にします。下の表は、8つの視点ごとの質問の例です。自分の条件に近い行を選び、言葉を直して使ってください。
| 条件の視点 | 面接での質問の例 |
|---|---|
| 専門・職能 | この職種の方は、入社3年目でどの範囲を担当されていますか |
| 全般管理 | 責任範囲が広がるのは、どのような段階ですか |
| 起業家的創造性 | 直近1年で、現場からの提案が実現した例はありますか |
| 自律・独立 | 進め方を決めるとき、どなたまで確認が必要ですか |
| 生活様式 | 直近の平均残業時間と、休暇の取得状況を教えてください |
| 保障・安定 | 給与のうち、固定の部分と変動する部分の内訳を教えてください |
| 奉仕・社会貢献 | 仕事の結果は、どのような形で担当者に伝わりますか |
| 純粋な挑戦 | 次に難しくなるのは、どの段階ですか |
制度があるかどうかではなく、実際の利用状況を聞きます。「制度はありますか」より、「直近で何人が利用しましたか」のほうが、確かめたいことが分かります。
この質問は、転職しなくても使えます。いまの職場で、3つの条件のうちどれが満たされ、どれが欠けているかを確かめ、欠けている条件について上司に相談することができます。
3つの条件で今の職場を点検して、現状維持・資格・転職から選ぶ
3つの条件がそろったら、今の職場でそれぞれが満たされているかを確かめます。満たされていない条件があれば、その条件が何で決まっているかを、次の3つで見分けます。この分け方は、CareerPivotが整理した考え方です。研究で確かめられた診断法ではありません。
- 3つとも今の職場で満たせている、または上司との話し合いで届きそうな場合。現状維持が合います。
- 満たせない条件が、自分の知識や技能が足りないために届かない場合。資格(学ぶ)が合います。
- 満たせない条件が、会社の決まりや仕事の仕組みで決まっていて、話し合っても変わらない場合。転職が合います。学んでも条件は変わらないので、この場合に資格は手段になりません。
満たせない条件が複数あって答えが分かれるときは、順位がいちばん高い条件の答えで選びます。選ぶのは自分です。この3つのうち、どれか1つが正解というわけではありません。
選んだ先の、今日の一手
選んだ道ごとに、今日できる大きさの一手を挙げます。どれも紙に1行書けば足ります。
- 現状維持を選んだ人。欠けている条件を1つ選び、上司に何を頼むかを一文で書きます。
- 資格を選んだ人。学べば届く条件に必要な知識の名前を1つ書きます。そのうえで、厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」で、その知識が載っている職業を1つ読みます。学ぶ内容がまだ決まらない人は、「何を勉強すればいいかは、求人3〜5件の応募条件から決める」で、同じ職種の求人を読み比べて、最初に学ぶ1つを選べます。
- 転職を選んだ人。3つの条件を、前の節の表を使って、確かめる質問3つにして紙に書きます。
1人で整理しにくいときは、厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」で職業の内容を調べたり、厚生労働省の委託事業「キャリア形成・リスキリング推進事業」のキャリアコンサルティングを利用したりできます。利用の条件は、案内のページで確かめてください。
よくある質問
8つのうち、当てはまるものの職業に就くべきですか
そうではありません。8つの視点は、職業を決めるものではなく、同じ職業の中でどんな条件を大事にするかを考えるためのものです。
選んだ条件は、変わりませんか
生活の変化などによって、変わることがあります。生活が変わったときに、3つの条件を書き直してください。
3つの条件が、互いに矛盾します
よくあることです。優先する順番を決め、どの不便なら受け入れられるかを考える材料にしてください。
出典・相談先・この記事の前提
- Edgar H. Schein (1996) “Career anchors revisited: Implications for career development in the 21st century” Academy of Management Executive 10(4), 80–88.
- 厚生労働省 職業情報提供サイト「job tag」(2026年10月11日確認)
- 厚生労働省委託事業「キャリア形成・リスキリング推進事業」(2026年10月11日確認)
- 8つの視点の日本語の呼び方と、3つの条件の選び方・確かめ方、現状維持・資格・転職の見分け方は、CareerPivotが整理したものです。正式な診断ではありません。条件の例は架空のものです。