飲食店でパートとして週3日働いて、一年半。契約は半年ごとの更新で、次の更新で辞めようと決めた。辞める前に残りの有給を使いたくて、店長に聞いた。店長は「パートに有給なんてないよ」と笑った。帰りの電車で調べ始めたけれど、自分に何日あるのかまでは、分からなかった。
この記事を読むと、有給がつく条件を一覧で確かめ、自分の日数を表から出して、「○日分を○日から取ります」と店長に書面で言えるようになります。そのうえで、自分で言うか、退職代行に頼むか、有給がつく日を期限にして残るかを、自分の原因から選べます。
店長に返す言葉がなかった理由
店長の一言に返せなかったのは、自分に有給があるのか、あるなら何日なのかを、まだ確かめていなかったからです。数字を持っていないと、「ないよ」と言われたとき、返す言葉がありません。
有給は、正社員だけの決まりではありません。雇い入れの日から6か月続けて働き、その間の働く日の8割以上出勤した人には、有給休暇がつきます(労働基準法39条1項)。パートやアルバイトで、週の働く日数が少ない人は、日数に応じて少なくなりますが、ゼロではありません。「パートにはない」は、決まりとは違います。
ただし、「ある」と知っているだけでは、まだ返せません。自分の日数を表から出して、書面に書く。この記事の真ん中は、その作業です。
一覧に印をつける
まず、次の6つを確かめます。契約書(雇用契約書や労働条件通知書)と、給与明細か勤怠の画面があれば足ります。印をつけながら、右の欄を埋めてください。
| 確かめること | 見る場所 | 印 | 書く欄 | |
|---|---|---|---|---|
| ① | 雇い入れの日から6か月たったか | 最初の契約書の「雇い入れの日」「契約期間の初日」 | 雇い入れの日:○年○月○日 | |
| ② | その間、働く日の8割以上出勤したか | 勤怠の記録、シフト表 | 働く予定の日○日のうち出た日○日 | |
| ③ | 週の決まった労働日数は何日か(4日以下か) | 契約書の「所定労働日数」 | 週○日 | |
| ④ | 週の決まった労働時間は30時間未満か | 契約書の「所定労働時間」 | 週○時間 | |
| ⑤ | 契約の期間と、終わりの日 | 今の契約書の「契約期間」 | ○年○月○日まで | |
| ⑥ | 契約書の有給の欄 | 「年次有給休暇」の欄 | 書いてある/書いていない |
①と②は、有給がつく条件です。③と④は、自分の日数がどの行になるかを決めます。⑤は辞める日を決めるのに使い、⑥は店が有給をどう扱っているかを見ます。⑥に何も書いていなくても、法律の最低の線は変わりません。
②の数え方は、「働く予定だった日」を分母に、「実際に出た日」を分子にします。自分の都合で休んだ日は分子に入りません。最初の6か月の働く予定の日は、週3日なら、3日×26週でおよそ78日です。78日×0.8=62.4日なので、63日以上出ていれば8割を超えます。式は、出た日÷働く予定の日で、0.8以上なら印がつきます。シフトが週ごとに変わる人は、26週の掛け算ではなく、シフト表で働く予定だった日を数えます。
表から、自分の日数を出す
①〜④に印がついたら、表を見ます。これは法律の最低の線で、週の働く日数と、働き続けた期間で決まります。週の労働時間が30時間未満で、かつ週の労働日数が4日以下の人の表です。
| 週の労働日数 | 6か月 | 1年6か月 | 2年6か月 | 3年6か月 | 4年6か月 | 5年6か月 | 6年6か月以上 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 4日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
| 3日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
| 2日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
| 1日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
週の日数が決まっていない人は、年間の所定労働日数で見ます(週4日の行=年169〜216日、3日=121〜168日、2日=73〜120日、1日=48〜72日)。
週5日以上、または週30時間以上働いている人は、この表ではなく正社員と同じ日数(6か月で10日から)になります。
自分の行に印をつけて、日数を書き込みます。例として、この記事の読者(週3日、一年半)なら、6か月の時点で5日、1年6か月の時点で6日がついています。有給は2年で時効になるので、6か月の時点の5日のうち使っていない分は、一年半の今はまだ残っています。式はこうです。
残りの日数 =(6か月でついた日数 − 使った日数)+(1年6か月でついた日数 − 使った日数)
自分の数字:( − )+( − )= 日
一度も使っていなければ、(5−0)+(6−0)=11日です。
使った日数が分からなければ、給与明細の「有給」の欄か、勤怠の記録を見ます。欄がなければ、店に「有給の残日数を教えてください」と聞きます。聞いても出てこなければ、自分で表から出した数字を、そのまま使います。
辞める日を、契約の終わりの日に合わせる
この記事の読者は、半年ごとの更新の契約です。期間の定めのある契約は、契約の期間が働く約束で、辞めるのは契約の終わりの日が基本です。途中で辞められるのは「やむを得ない事由」があるときに限られ(民法628条)、当てはまるかは個別の判断になります。だから、辞める日は⑤に書いた契約の終わりの日に置き、そこから手前に有給の日を並べる線を引きます。
今日 ── 書面を出す日 ── 有給の初日 ── 契約の終わりの日(辞める日)
契約書に期間が書いていない(期間の定めのない)パートなら、辞める日の決め方は正社員と同じで、申し入れた日から2週間がたつと雇用は終わります(民法627条1項)。自分がどちらかは、⑤の欄で分かります。
更新しない、と店に伝える時期については、法律上の期限は確認できていません。契約書か就業規則に書いてあれば、それに合わせます。書いていなければ、有給の初日より前に、辞める日と有給の日取りを同じ書面で出します。
有給を辞める前に取ることについて、決まりはこうです。労働基準法39条5項では、有給は働く人が求めた時季に与えるのが原則です。店がその日をずらせるのは、「事業の正常な運営を妨げる場合」だけです。契約の終わりを控えた今でも請求でき、店の承諾は要りません。辞める人には、辞める日より後にずらす先がないので、辞めるまでに残りの有給を使う請求には請求どおり与えなければならない、と労働局は説明しています。一方で、店が実情を伝えて理解を求めることまでは否定されていないので、この記事も、全部の日が取れるとまでは書きません。シフトを組む店長の側にも日が要るので、書面は早めに出します。
ここまでの決まりは、2026年10月時点のものです。法律や制度は、あとで変わることがあります。
店長に言う一文と、書面
一文は、これです。
「労働基準法で、週○日のパートにも有給が○日あります。○日から○日に取ります」
書面は、次の形で足ります。辞める日と有給の日取りを、同じ紙に書きます。
「退職届 このたび、契約期間の満了にあわせ、○年○月○日をもって退職いたします。残りの有給休暇○日を、○月○日から○月○日まで取得します。 ○年○月○日 氏名」
渡すときは、この紙と、印をつけた一覧と表を一緒に持っていきます。店長がなぜ「ないよ」と言ったのかは、ここでは考えません。返すのは数字です。
印の数で、3つの問い
一覧の印の数を見ながら、A・B・Cに分けます。日数を出したあとに辞め方を決めるための、この記事の整理です。決まった診断の方法ではありません。
問い① 一覧の印はそろったか(6か月、8割、週の日数)。
①と②に印がついているか。ついていれば有給はあります。
問い② 印はそろったが、店長に言い返せないか。
前に何かを言ったときにシフトを減らされた、怒鳴られた、という覚えがあって、店長の前で一文を言う自分が浮かばないか。
問い③ 6か月に届いていない、8割に届いていないか。
①か②の印が足りないか。
| 原因 | 当てはまる答え | 道 |
|---|---|---|
| A | ①そろった ②言える | 自分で伝える |
| B | ①そろった ②言い返せない | 退職代行を使う |
| C | ③印が足りない | 今は残る(期限と条件つき) |
先に問い③を確かめます。①か②の印が欠けていればCです。全部そろっていれば、問い②の答えで、AかBになります。
原因A:有給はある。店長が知らないだけで、自分で言える
印はそろった。店長が知らないだけなら、数字を見せて、一文で言う道です。
やる順は、こうです。
- 一覧に印をつける。
- 表から日数を出す。残りの日数を式で出す。
- 契約の終わりの日と有給の日を書いた書面を書く。
- 店長に渡して、一文を言う。
詰まる所は、「うちにはない」と断られるときです。賃金や有給の決まりに反する疑いは、労働基準監督署の担当です。印をつけた一覧、表、契約書、給与明細を持って相談し、そのうえで、書面をもう一度出します。総合労働相談コーナーでも受け付けていて、法律違反の疑いがあれば監督署に取り次ぐ、と厚生労働省は説明しています。無料で予約は要りません。どちらも、「パートに有給はないと言われた」と、そのまま伝えれば足ります。
最初の一手は、契約書の有給の欄と週の日数を確かめることです。今日、契約書を出すところまでで足ります。
代行が伝えるのは日数。日数を出すのは自分
店長の前で一文を言う自分が浮かばない人のために、代行が店に伝えられる中身を、先に区切っておきます。
代行が店に伝えられるのは、本人が決めた辞める日と、表から出した日数の有給を使う、という意思までです。有給が何日あるかを出すのは、本人の仕事です。店が「パートに有給はない」と認めないときに、ある・ないを店と話し合うことは法律の問題を扱うことになり、弁護士でない事業者が報酬を得て行うと弁護士法72条の問題になります。この線は、弁護士会や労働委員会の注意でも示されています。店が有給を認めないときは、本人が労働基準監督署に相談します。代行が代わりに監督署に行く、という形にもなりません。
自分で伝える場合と違うのは、店長の前で一文を言わずに済むことだけです。一覧の印、表の日数、辞める日は、自分で決めます。頼んだあとの、源泉徴収票の受け取り、扶養や保険の確かめ、電話への対応も自分でやります。
書面を出すだけなら、費用はかかりません。相場の額は、ここでは扱いません。自分で見た額を書き入れてください。( 円)。週3日のパートの有給○日分の賃金と、その額を並べてみるのも、決める材料になります。
原因B:印はそろったが、店長に言い返せない
有給はある。でも、前に言ったときにシフトを減らされた、怒鳴られた、という覚えがあって、店長の前で一文を言う自分が浮かばない。辞めることも言い出せない。それなら、店長の前に立たずに、辞める日と日数を届ける道です。
頼む前に、次の3つを決めます。
| 決めること | 書く欄 |
|---|---|
| 辞める日 | 契約の終わりの日:○年○月○日 |
| 有給の日数と日取り | ○日を、○月○日から○月○日 |
| 制服と鍵 | 最後のシフトの日に店で返す/郵便局から送る |
代行に頼むのは、「この日に辞めることと、有給をこの日取りで使うことを店に伝えること」までです。
伝えたあとに残るのは、次の4つです。
一つ目は、有給を店が認めなかったときの相談です。店が「パートに有給はない」と拒んだら、本人が労働基準監督署に相談します。代行はこの話し合いができません。表の日数と契約書を持って行きます。
二つ目は、扶養と保険です。家族の扶養に入っている人は、辞めたあとも扶養のままでよいかを、家族の勤め先に確かめます。扶養の収入の線は制度ごとに違い、健康保険の側が認めるかどうかで決まるので、この記事では額を書きません。自分で店の健康保険に入っていた人は、国民健康保険(退職後14日以内に市区町村の窓口)、任意継続(退職日の翌日から20日以内に申し出)、家族の扶養のうち1つを選びます。店の厚生年金に入っていて、次の勤め先にすぐ入らない20歳以上60歳未満の人は、退職日の翌日から14日以内に、市区町村の窓口で国民年金への切り替えも要ります。
三つ目は、源泉徴収票です。国税庁の案内では、中途退職の場合「退職後1月」が交付の期限で、出ないときは税務署に届け出る手続きがあります。
四つ目は、店からの電話です。代行が「本人への連絡は控えてほしい」と伝えても、それはお願いで、店を止める決まりはありません。電話が来ることもあるので、出るか出ないかを先に決めておきます。
詰まる所は、店が「パートに有給はない」と代行に返すときです。代行は有給の有無の話し合いができません。ここは本人の番です。表の自分の行と契約書を持って監督署に相談し、そのうえで、辞める日と有給の日取りを書いた書面を、店に送ります。
最初の一手は、表の自分の行に印をつけることです。日数が決まれば、代行に伝える中身が決まります。
原因C:6か月に届いていない、8割に届いていない
印が足りないなら、今の時点では有給はまだついていません。この場合は、有給がつく日を期限にして残ります。
Cの流れは4つです。
- 有給がつく日を期限にする。雇い入れの日から6か月の日を、契約書で確かめて書く。
- その日まで、出勤の割合を保つ。働く予定の日の8割以上に出る。
- ついた日数で、辞める日と有給の日を決める。表の自分の行を見る。
- 書面で出す。
詰まる所は、期限の前に契約の更新が来るときです。更新して6か月を越えてから辞めるか、更新せずに辞めるかを、ついた日数と並べて自分で決めます。たとえば週3日なら、6か月でつくのは5日です。5日分のために更新を一回はさむかどうか、更新後の契約の終わりの日と、自分の予定を並べて決めてください。更新しない、と伝える時期の決まりは法律上確認できていないので、契約書か店に確かめます。
最初の一手は、雇い入れの日を契約書で確かめることです。最初の契約書の、いちばん上の日付です。
来月のシフト表
Aの人は、書面と、印をつけた一覧と表を店長に渡して、一文を言いました。
Bの人は、向き合わずに辞める日と有給の日取りを伝え、店が認めなければ監督署に相談しました。
Cの人は、有給がつく日まで出勤を保ち、ついた日数で書面を出しました。
どの道でも、着く場所は同じです。来月のシフト表の、自分の行。そこに、休みの印がついています。帰りの電車で調べ始めた日には分からなかった数字が、印の数になって、並んでいます。