この記事を読むと、総務に聞かなくても分かる場所(就業規則と退職金規程)で確かめる項目に印をつけ、辞める日を退職金の区切りに合わせて決められるようになります。そのうえで、課長に自分で伝えるか、退職代行に頼むか、区切りまで残るかを、原因に合わせて選べます。
勤めて十年になる正社員の話です。期間の定めのない雇用で、総務と課長が近い、小さめの会社です。辞めると決めかけているのに、退職金がいくら出るか、何年で区切りが変わるかを知りません。総務に聞けば、その日のうちに課長に呼ばれる会社だと分かっているので、聞けないまま二か月がたちました。
「聞けば、ばれる」で二か月止まっていた
止まっていた理由を、一度ほどいてみます。
退職金の決まりを知りたい。知るには総務に聞くしかない。聞けば課長に呼ばれる。だから聞けない。だから決まりが分からない。だから辞める日が決められない。
この輪の中で、一か所だけ、思い込みがあります。「知るには総務に聞くしかない」の所です。
退職金を払う決まりは、法律にはありません。会社が払うと決まっているものではない、と労働局は説明しています。けれど、退職金の定めがある会社は、対象になる人の範囲、決め方、計算と支払いの方法、支払いの時期を、就業規則に書かなければなりません(労働基準法89条3号の2)。就業規則の作成と届け出の義務があるのは、常時10人以上の人を使う会社です。
つまり、退職金の定めがあるなら、その中身は就業規則に書いてあります。総務の人の頭の中にだけあるものではありません。聞くことだと思っていたことは、読むことでした。
そして、会社には就業規則を見られる状態にしておく義務があります。各作業場の見やすい場所に掲示するか備え付ける、書面で渡す、パソコンなどで見られるようにする、のどれかで、働く人に知らせなければなりません(労働基準法106条1項)。見せてもらえないときは、労働基準監督署に相談できます。
退職金と就業規則の決まりは、2026年10月時点のものです。法律が変わることもあるので、読む日の規程と案内を正本にしてください。
就業規則の置き場所を聞く、一文
読める場所を知らない人は、総務にこう聞きます。
「就業規則は、どこで読めますか」
就業規則には、休みや残業や服装の決まりも書いてあるので、読みたい理由はいくらでもあります。退職金の話を出さずに済む聞き方です。理由を聞かれたら、「一度ちゃんと読んでおきたくて」と返せます。
持ち帰れるかどうかは、会社ごとに違います。持ち帰れないなら、読める場所で読み、一覧の紙だけを持ち帰ります。退職金の定めが就業規則の本体にない場合、「退職金規程」という別の決まりになっていることがあります。就業規則の中に「退職金については別に定める」のような一行があれば、その別の定めも読みます。
一覧に、3つの印をつける
この記事の真ん中は、この一覧です。就業規則と退職金規程を読みながら、項目ごとに「読めた」「書いていない」「分からない」のどれかに印をつけます。紙に書き写してください。
| 確かめること | 読めた | 書いていない | 分からない | 読めた内容を書く |
|---|---|---|---|---|
| 退職金の定めがあるか | ||||
| 対象になる人の範囲(正社員だけ、など) | ||||
| 勤続年数の区切り(何年以上から出るか、何年ごとに変わるか) | ||||
| 自分の都合で辞めたときと、会社の都合のときの違い | ||||
| 支払いの時期(退職から何日以内、など) | ||||
| 退職の申し出の期間(1か月前など) | ||||
| 引き継ぎの定め | ||||
| 有給の扱い |
上から5つが退職金の項目で、下の3つが辞める手順の項目です。辞める日は、この両方で決まります。区切りの年数が分かっても、申し出の期間が分からなければ、課長に言う日が決められないからです。
読むときは、一度に全部を探そうとせず、目次から「退職」「退職金」「退職手当」「年次有給休暇」の見出しだけを拾ってください。まずその見出しの中から、一覧の8項目を探します。見つからない項目だけ、ほかのページを見ます。「読めた内容」の欄には、条文の番号と、数字をそのまま書き写します。「勤続3年以上」「退職の日から1か月以内」のように、自分の言葉に直さず、書いてあるとおりに写すと、あとで課長や総務と話すときにずれません。
「読めた」が多い人は、次の節に進んでください。
「書いていない」が多い人は、2つのことが考えられます。1つは、退職金の定めがそもそもない会社だ、ということ。退職金を払う決まりは法律にないので、定めがない会社もあります。もう1つは、就業規則の本体ではなく、退職金規程などの別の定めに書いてある、ということ。一覧の1行目に「別に定める」の一行があれば、後者です。別の定めを探してから、もう一度印をつけてください。
「分からない」が残る人は、その項目だけ、あとで総務に聞きます。ただし、聞く時期は、退職届を出したあとです。出したあとなら、聞いても「ばれる」ことはありません。聞き方も決めておきます。
「自分の都合で辞めた場合の額を、教えてください」
書面で聞いておくと、聞いた日と中身が手元に残ります。
読み終えたら、線を引く
一覧の「勤続年数の区切り」の行を見てください。自分が今、何年何か月なのかと、次の区切りまであと何か月なのかを、ここに書きます。
| 今の勤続 | 次の区切り | 区切りまで |
|---|---|---|
| 年 か月 | 年 | あと か月 |
そして、線を引きます。
区切りが近いなら、区切りの後に辞める。区切りが遠いなら、区切りを待たない。
「近い」「遠い」の境目は、この記事では決めません。あと一年以上なら、一年分の毎日と、区切りで変わる額を並べて、自分で決めることになります。並べるときは、区切りで変わる額を「読めた内容」の欄から持ってきて、区切りまでの月数で割ってみてください。一か月残ることで増える額の平均が出ます。それが、残る一か月のおおよその値段です。
ここで大事なことを一つ。この記事は、退職金が出ることを約束しません。金額も、何年で出るかも、自分の都合で辞めると減るかも、会社ごとに違います。一覧に印をつけるのは、自分の会社の決まりを、自分の目で確かめるためです。
印の数と区切りで、道を分ける
一覧と線が書けたら、どの道に進むかを分けます。読めた印と、課長の前に立てるかどうかと、区切りまでの月数で分けるのは、この記事で決めた分け方です。診断の代わりになるものではありません。
問い① 就業規則を読む場所を知っていますか。読めば済むことを、聞くことだと思っていませんでしたか。
問い② 課長に呼ばれたら、面と向かって「辞めます」と言えますか。それとも、呼ばれること自体を避けたいですか。
問い③ 区切りの年数まで、あと何か月ですか。
3つの答えから、自分に近いものを一つ選んでください。
原因A 退職金の決まりを知らなかっただけ。読めば分かり、課長にも自分で言える。問い①で「聞くことだと思っていた」、問い②で「言える」と答えた人です。
原因B 決まりは読めば分かる。でも、課長に呼ばれて面と向かって言うことができない。十年分の引き止めを聞く場面が、何度想像してもこわい。問い②で「避けたい」と答えた人です。
原因C 読んだら、勤続年数の区切りがあと少しだった。問い③で「あと数か月」と答えた人です。
Aなら課長に自分で手渡す。Bなら課長を通さず代行に伝えてもらう。Cなら区切りまで残る。どの原因にも、道は一つだけ当てます。
読めば言える人の道(原因A):読んでから、課長に手渡す
まず、就業規則と退職金規程を読み、一覧に印をつけます。次に、区切りに合わせて最終日を決めます。申し出の期間が「1か月前」なら、最終日の1か月以上前が、課長に言う日です。
期間の定めのない雇用では、申し入れから2週間がたつと雇用は終わる、と民法627条1項で決まっています。それでも、就業規則の申し出の期間が常識の範囲なら、そちらに合わせて申し出るほうがもめごとが少ない、というのが労働局の説明です。2週間は最低線で、就業規則を無視してよい、という意味ではありません。
最終日が決まったら、退職届を書きます。一覧に写した区切りの年数を確かめてから、最終日の日付と、その日をもって退職するという一文を書き、課長に手渡します。口で伝えても意思表示は有効ですが、行き違いを防ぐために書面にします。
詰まるのは、読んでも分からない項目が残ったときです。総務に聞くのは、退職届を出したあとにします。「自分の都合で辞めた場合の額を教えてください」と、書面で聞きます。出したあとなら、辞める人が自分の退職金を聞くことになるので、隠す理由がありません。
課長から引き止められたら、日付で返します。
「最終日は、○月○日です。退職金の支払いの時期は、規程で読みました」
決まりを読んできた人は、短い一文で済ませてかまいません。
区切りが近い人の道(原因C):区切りまで残って、過ぎた日に出す
まず、区切りの日を手帳に書きます。次に、区切りの翌月を「伝える日」に決めます。申し出の期間が1か月なら、伝える日の1か月後が最終日です。それまで残ります。区切りを過ぎた日に、退職届を出します。
区切りの日までは、退職金のことも辞めることも口にしません。就業規則を読んでいるのを課長に見られたら、「就業規則を読んでいただけです」と返せます。嘘ではありません。読んでいただけです。仕事は今までどおりにします。
詰まるのは、残る間に課長に察されることです。察されても、辞める話はしません。聞かれても、同じ一文で返します。退職届を出す日は、自分が決めた日です。
代行に頼んでも、規程は変わらない
課長の前に立つことができない人は、代行に頼む前に、自分で手渡す場合と並べておきます。
| 自分で課長に手渡す | 代行に頼む | |
|---|---|---|
| 課長と顔を合わせるか | 合わせる | 合わせない |
| 退職金の決まり | 規程のとおり | 規程のとおり(頼んでも変わらない) |
| 額や支払いの時期の話し合い | 自分で総務に聞ける | 代行はできない |
| 一覧の印・最終日を決めること | 自分 | 自分 |
| 払われたかを確かめること | 自分 | 自分 |
| 料金 | かからない | 自分で見た額: 円 |
代行の列で「できない」とした行には、理由があります。退職代行が弁護士でない場合、できるのは、本人が決めた退職の意思を会社に伝えるところまでです。退職金の額や支払いの時期を会社と話し合うことは、弁護士でない人が報酬を得て行うと弁護士法72条の問題になります。弁護士会や労働委員会も、この線を越えないよう注意を呼びかけています。
違うのは、表の一番上の行、課長と顔を合わせるかどうかだけです。規程に書いてある額が、規程に書いてある時期に払われるかどうかは、どちらの道でも自分で確かめます。
料金の行には、自分で見た額を書いてください。そのとき、一覧の「支払いの時期」の行と並べておきます。代行の料金を払う日が退職金の入る日より前なら、今の手元のお金から出すことになります。課長に自分で手渡すなら、この料金はかかりません。費用に見合うかどうかを考えたうえで決めるのが大切だ、というのが労働委員会の説明です。
使わない場合の代わりは、退職届を課長に手渡すか、郵便で会社に送ることです。郵便なら、課長の顔を見ないまま、日付の入った退職届を会社に届けられます。
課長に呼ばれたくない人の道(原因B):課長を通さずに伝える
頼む前に、自分で決めておくことが3つあります。
| 頼む前に決めておくこと | 規程で読んだ答え |
|---|---|
| 最終日の日付(区切りに合わせたもの) | |
| 退職金の支払いの時期(規程で読んだもの) | |
| 引き継ぎ資料の置き場所 |
3行が埋まったら、代行に連絡します。会社に伝わるのは、区切りに合わせて決めた最終日と、辞めるという意思だけです。
代行が伝えた日から、自分の手でやることは、書類、退職金、保険と年金の3つの組に分かれます。
書類の組。退職証明書は、頼めば会社が出す書類です(労働基準法22条)。離職票は会社から届き、届かなければハローワークに相談できます。源泉徴収票は、国税庁の案内では途中で辞めた人に「退職後1月」までに渡すことになっていて、届かなければ税務署に相談できます。
退職金の組。一覧の「支払いの時期」と「読めた内容」の欄を見て、その時期に、その額が振り込まれたかを見ます。
保険と年金の組。次の勤め先がすぐにないなら、切り替えの手続きがあります。今の健康保険を任意継続で続けるなら、申し出は退職日の翌日から20日以内です。国民健康保険は14日以内、国民年金への切り替えは退職日の翌日から14日以内に、市区町村の窓口で手続きします。
3つの組の期限と窓口は、2026年10月時点の案内に沿って書いています。
詰まるのは、規程どおりに払われないときです。代行は、請求も話し合いもできません。ここは自分で動きます。就業規則などで支給の条件がはっきり決まっていて、働く人が権利として請求できる退職金は、賃金に当たり、払わないと全額払いの決まり(労働基準法24条)に触れる、と労働局は説明しています。労働基準監督署か総合労働相談コーナーに相談し、自分で書面で請求します。退職手当の請求権の時効は5年です。
今日のうちに、一覧へ一行
今日は、一覧か手帳に一つだけ書きます。
就業規則の置き場所が分からない人(A)は、掲示板か、共有の棚か、社内のパソコンの中か、一か所だけ調べて一覧の上に書いてください。見つからなければ、「就業規則は、どこで読めますか」と聞く日を決めます。
課長に呼ばれたくない人(B)は、退職金規程の「支払いの時期」の行に印をつけてください。この一行が、頼んだあとに自分で確かめる場所です。
区切りが近い人(C)は、区切りまでの月数を一つ、線の表の「区切りまで」の欄に書いてください。
週末の家で
週末の家です。机の上に、一覧の紙があります。読めた内容は、会社で読んだときに一覧の欄に写してあります。
一覧の印は、全部ついています。「読めた」の行には、読めた内容が書いてあります。「書いていない」の行には、別の定めを探した結果が書いてあります。「分からない」の行は、退職届を出したあとに聞く、と決めてあります。
その一覧を家で読み返しながら、区切りに合わせた最終日を決め、退職届に日付を書きます。
Aの人は、来週、課長に手渡す日を決めました。Bの人は、代行に伝える日を決めました。Cの人は、区切りの日を手帳に書いて、その翌月の同じ週末に、同じ机で同じことをすると決めました。
二か月、聞けずに止まっていた人が、聞かずに読み終えて、この週末にいます。