育児休業中の中堅、八年目。子はまだ一歳前。会社から、復帰日を聞くメールが来ている。復帰せずに辞めたい気持ちは固まりかけているのに、上司から「育休を取らせたのに」と言われるのがこわくて、返信の下書きに「退職」と書いては消し、また書いている。返事は、もう一週間遅れている。
この記事を読むと、5つの日付を書き込み、給付と保育の扱いを確かめて、退職の意思を書いた返信を送れるようになります。返信を自分で送るか、退職代行に伝えてもらうか、復帰後の条件を聞いて期限まで待つかも、どの欄が埋まらないかで決められます。
下書きに「退職」と書いて消した一週間
返信が書けないのは、育休の途中で辞める時の決まりを知らないので、「退職」と書いたあとに何を続ければよいか分からないからです。給付はどうなるのか。返さなくてはいけないのか。辞める日はいつにすればよいのか。保育の申し込みはどうなるのか。分からないことが4つも5つもあると、一文目のあとが書けません。
この記事では、まず5つの日付を書き込みます。日付が5つ埋まると、返信の一文が決まります。そのあとで、自分がどの原因で止まっているかを見分け、3つの道から選びます。
書き込む5つの日付
紙でもスマートフォンのメモでもかまいません。次の5つの欄を作って、分かるものから埋めてください。分からない欄は、どこで確かめるかを横に書きます。
| 日付 | 書き込む欄 | 分からない時の確かめ先 |
|---|---|---|
| ①育休の終わりの日 | 年 月 日 | 会社に出した育休の申し出の書類 |
| ②会社が聞いている復帰予定日 | 年 月 日 | 届いているメール |
| ③自分が決める退職日 | 年 月 日 | 自分で決める(下の決まりを見てから) |
| ④給付の対象になる最後の日 | 年 月 日 | ③の前日。扱いはハローワークで確かめる |
| ⑤住んでいる市区町村の保育の申し込みの期限 | 年 月 日 | 市区町村の保育の担当の窓口 |
①と②は、すでに手元にあります。③は自分で決める日で、この記事で決め方を書きます。④は③から決まります。⑤は窓口に聞かないと分かりません。
給付の扱い:復帰を前提にした制度だと知ったうえで決める
育児休業給付は、育児休業のあとで職場に戻ることを前提にした給付です。育児休業の最初からすでに退職を予定している人は、給付の対象になりません。これは労働局とハローワークの案内に書かれていることです。
一方で、育休の途中で退職を決めた場合の扱いは、2025(令和7)年4月1日以降に離職する人から変わりました。やむを得ず離職することになった場合、離職日の前日の分まで支給の対象になります。たとえば離職日が8月15日なら、8月14日の分まで、という数え方です。④の欄に③の前日を書くのは、このためです。
受け取った給付を返す必要があるかについては、厚生労働省のQ&Aで、受給資格の確認の時点で退職が予定されていた場合を除いて、それまでに受け取った育児休業給付を返す必要はない、とされています。ただし、自分の場合がどうなるかは、本人がハローワークに聞いて確かめてください。
ここで一つ、はっきりさせておきます。この記事は、「育休をもらい切ってから辞めればよい」とは勧めません。制度は復帰を前提にしています。退職日は、自分と子の事情で決めてください。給付の扱いは、決めた退職日をハローワークに伝えて確かめるものです。順番を逆にしないでください。
保育:退職したあとの申し込みは窓口で
保育所を使うには、市区町村の「保育の必要性」の認定が要ります。認定の事由には、就労のほかに「求職活動」があります。退職したあとに仕事を探しながら保育を使いたい場合は、この事由で申し込むことになります。ただし、求職活動を事由にした認定の期間は、国が上限を決め、実際の期間は市区町村が決めます。期間も、必要な書類も、申し込みの期限も、住んでいる市区町村で違います。
⑤の欄は、市区町村の保育の担当の窓口に聞いて埋めてください。「育休中で、復帰せずに退職を考えている。退職後に求職活動で保育を使う場合、申し込みの期限と期間はいつか」と聞きます。認定は保護者それぞれの状況で見るので、パートナーの働き方も合わせて伝えます。
③の欄を埋める決まりと、返信の一文
期間の定めのない雇用(正社員など)なら、辞める申し入れから2週間がたつと雇用は終わります(民法627条1項)。③の退職日は、辞める意思を伝える日から2週間以上先の日にします。育休中だからこの決まりが変わる、という定めは確認していません。辞める意思は口頭でも伝わりますが、退職日を書いた退職届を書面で出すのが望ましい、と労働局は説明しています。返信のメールで伝えたあとも、退職届は紙で出して形に残します。就業規則に申し出の期間があり、それが常識的な長さなら、③はその期間にも合わせます。
育休を取ったことを理由に不利に扱うことは、法律(育児・介護休業法10条)で禁止されています。自分の場合に当てはまるかは、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)で確かめます。
育休の給付・保育・退職の決まりは、どれも2026年10月時点で確かめた内容です。制度は変わることがあるので、手続きの前に窓口でもう一度確かめてください。
5つの日付が埋まったら、返信の一文はこうなります。
「復帰予定日の件、○月○日をもって退職したいと考えています。退職届は別途お送りします」
③の日付を入れるだけです。理由は書きません。メールで意思を伝え、退職届を書面で出すことで、伝えた日と退職日が形に残ります。
「取らせたのに」と返ってきた時の一文も、先に持っておきます。
「制度が復帰を前提にしたものと知ったうえで決めました」
知らずに辞めるのではなく、知ったうえで決めた。この一文があると、「取らせたのに」に説明で返さずにすみます。
日付が埋まったら、3つの問い
5つの欄を見ながら、返信が止まっている原因を3つに分けます。欄の埋まり方から道を選ぶための、この記事なりの分け方です。
- 返信を書けないのは、育休中に辞めてよいのかが分からないからか。それとも、上司とのやりとり自体ができないからか。
- 上司からのメールと電話が「取らせたのに」の圧になっていて、メールを開くと手が止まるか。電話に出られないか。
- 辞めたい理由は、復帰後の働き方(時間、配属)で、それを会社にまだ確かめていないか。
1が「分からなかったから」で、2が「開ける」なら、原因Aです。返信は書ける。止まっていたのは、育休中に辞めてよいのかが分からなかったことだけです。
2が「開くと手が止まる」「電話に出られない」なら、原因Bです。詰まっているのは決まりではなく、会社とのやりとりそのものです。
3が「確かめていない」なら、原因Cです。辞めたい理由が復帰後の働き方なら、その働き方がどうなるかを会社に聞かないまま辞めることになります。聞いてから決めても遅くありません。
原因A:育休中に辞めてよいのかが分からなかっただけ
5つの欄から、返信と退職届へ
最初に、5つの日付を書きます。①と②を手元の書類とメールから、③を自分で決めて、④を③の前日で埋めます。⑤は窓口に電話して埋めます。
次に、ハローワークに電話して、給付の扱いを聞きます。「育休中で、○月○日に退職を考えている。給付の対象になる最後の日と、返す必要があるかどうかを確かめたい」と伝えます。
給付の扱いが分かったら、上の返信の一文に③を入れて送ります。
続けて、退職届を紙で出します。書くのは退職すること、③の日付、出す日、名前。理由は「一身上の都合」と書けば足ります。郵便局から送るなら、送った事実と中身を残したいときに、内容証明と配達証明をつける方法もあります。
上司が「取らせたのに」と返してきたら
返す一文を送り、退職日は変えません。「制度が復帰を前提にしたものと知ったうえで決めました。退職日は○月○日です」。それでもやりとりが続き、退職日を動かそうとする話になるなら、総合労働相談コーナー(無料・予約不要)に相談できます。「取らせたのに」という言葉が、育休を理由にした不利な扱いに当たるかどうかは、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が相談先です。記事では判定しません。
給付の問い合わせと条件の話は、代行に任せられない
原因Bの手順に進む前に、この場面で代行に任せられないことを2つ挙げます。
1つ目は、給付の問い合わせです。④の日付と、給付を返す必要があるかどうかは、本人がハローワークに聞きます。代行は給付の手続きをする立場ではありません。
2つ目は、復帰の条件の話し合いです。弁護士でない代行に頼めるのは、自分で決めた「辞めること」と③の退職日を、会社に届けるところまでです。復帰の条件や退職日をめぐって会社とやりとりすることは、弁護士でない人がお金を受け取ってすると弁護士法72条の問題になり得る、と弁護士会や労働委員会が注意しています。
自分で伝える場合との違いは、上司とのメールと電話を自分で受けずにすむことです。辞める意思は代行が届けるので、「取らせたのに」のメールを開く場面に、自分が立たなくてすみます。そのぶん費用がかかります。頼む前に自分で調べた額を、5つの日付の紙の端に書いておきます( 円)。
退職が伝わったあとの書類、健康保険と年金、保育の認定、会社からの連絡の受け方は、自分の手元に残ります。中身はBの手順に書きます。
代行を使わないなら、返信を送り、退職届を紙で出すAの道になります。メール一通と退職届のほかに、お金はかかりません。
原因B:メールを開くと手が止まり、電話に出られない
メールを開かずに、退職日を届ける
まず、頼む前に自分で決めることを決めます。退職日(③)。給付の対象になる最後の日(④)をハローワークで確かめること。離職票などの書類の送り先(自宅の住所)。会社に預けている物をどう受け取るか。
次に、ハローワークに電話します。これは代行に頼めないので、自分でします。聞くことはAと同じです。
そのあとで、代行に頼みます。伝えてもらうのは、辞めることと③の退職日です。
退職が伝わったら、手続きを自分で進めます。保育の担当の窓口には、申し込みの事由が就労か求職活動かで扱いが変わるので、退職日を伝えて確かめます。源泉徴収票は退職後1月以内に会社が渡すもので、離職票が会社から出ないときは、ハローワークに申し出れば本人の請求で手続きが進みます。健康保険は、任意継続(退職日の翌日から20日以内に申し出)、国民健康保険(14日以内に住んでいる市区町村の窓口へ)、家族の扶養から選びます。パートナーの扶養に入るなら、パートナーの勤め先に聞きます。年金は、次の勤め先にすぐ入らないなら、退職日の翌日から14日以内に市区町村の窓口で国民年金に切り替えます。
最後に、会社からの連絡をどう受けるかを決めておきます。代行から「本人への連絡は控えてほしい」と伝えてもらうことはできますが、それは会社へのお願いにとどまり、会社を止める決まりはありません。メールや電話が来た時に開くか出るか、出るなら「退職日は○月○日です」だけを返すか、先に決めておきます。
会社が「復帰の条件なら相談に乗る」と言ってきたら
代行は、条件の話し合いができません。ここで「条件を聞きたい」と思ったなら、それは原因Cの詰まりです。代行を通さず、自分で書面で聞くCの道に戻ってください。戻ることは、後退ではありません。辞めたい理由が復帰後の働き方なら、聞いてから決めるほうが、辞めると決めた理由を自分で確かめられます。
原因C:辞めたい理由は復帰後の働き方で、会社に確かめていない
返事の期限を書いて、書面で聞く
最初に、復帰後の時間と配属を、書面で聞きます。メールでかまいません。「復帰後の勤務時間と配属について、○月○日までにお知らせください」と、聞きたいことと返事の期限を書きます。短時間勤務や残業の免除など、復帰後に使いたい制度があれば、それも聞きます。
返事の期限は、復帰予定日(②)の○週間前に置きます。返事を見てから退職日を決めても、2週間以上の余裕がある日にします。
返事が来たら、5つの日付と並べて決めます。戻るなら復帰日を返します。辞めるなら、上の返信の一文を送り、退職届を書面で出します。
どちらに決めても、⑤の保育の窓口には連絡します。戻るなら就労、辞めるなら求職活動と、申し込みの事由が変わるからです。
期限までに返事が来なかったら
期限の日に、「○月○日までにお返事がなかったので、○月○日をもって退職します。退職届は別途お送りします」と返信します。返事がないなら、復帰後の働き方は分からないままです。その状態で決めたことを、返信に残します。退職の意思は、メールで伝えたうえで、退職届を書面で出して形に残します。
どの欄で止まるかが、道を決める
| 止まっている原因 | 道 | こんなときに選ぶ |
|---|---|---|
| A:育休中に辞めてよいのかが分からなかっただけ | 自分で伝える | 決まりが分かれば返信を書ける。メールは開ける |
| B:メールを開くと手が止まり、電話に出られない | 退職代行を使う | 会社とのやりとりそのものができない。退職日は自分で決められる |
| C:辞めたい理由は復帰後の働き方で、会社に確かめていない | 今は残る(期限と条件つき) | 聞けば答えが出る問いを、まだ聞いていない |
Cを選ぶ時の条件は、聞く内容を書面にすることと、返事の期限を日付で書くことの2つです。「そのうち聞く」は期限ではありません。
返信を自分で送るAの道は、お金がかからない、いちばん基本の道です。代行は、会社とのやりとりそのものができない人のための道で、給付や保育の確かめまで代わってくれるものではありません。
まず、①の欄に日付を一つ
原因Aの人は、5つの日付のうち、①育休の終わりの日を書いてください。会社に出した申し出の書類を開いて、日付を一つ写す。それが今日の一手です。
原因Bの人は、ハローワークに電話する日を決めてください。頼むのは、電話したあとです。給付の対象になる最後の日が分かってから、退職日を決めます。
原因Cの人は、聞きたい条件を2つ書いてください。「復帰後の勤務時間」「配属」のように、2つだけ。書面にするのは、そのあとです。
返信を送った翌朝
返信を送った翌朝、子どもと公園にいます。
自分で返信を送った人も、代行に届けてもらった人も、条件を聞いて期限まで待ってから決めた人も、最後に手元に残るのは、5つの日付を書いた紙と、送信済みの一通です。送った翌朝は、下書きを開かずに、子と公園で過ごしています。