この記事を読むと、辞めると伝える日から最終日までを一本の線にして、上司と顔を合わせる場面を数え、原因を決めて、最終週の過ごし方まで先に決められます。
子どもの寝顔の横で、辞めると決めた
保育園に通う子どもを、パートナーと一緒に育てている人の話です。期間の定めのない雇用で働いていて、子どもの熱で二日休みました。出社した朝、上司に言われました。「だから子持ちは当てにならない」。
その夜、子どもの寝顔の横でその言葉を思い出して、辞めると決めました。
決めたのに、動けません。辞めると伝える相手が、その上司だからです。伝えたあとの最終週も、毎日その上司の下で働く。そう思うと、言い出せません。
止まっている理由は、辞めると伝える相手と、伝えたあとの最終週の過ごし方を、まだ決めていないことです。この記事では、この二つを先に決めます。
この記事は、期間の定めのない雇用で働いている人に向けて書いています。契約期間を決めて働いている人は、辞めるときの決まりが別(民法628条)になります。
切り分けの前に、相談先を
原因を分ける前に、一つ置いておきます。
眠れない。出社の前に体が動かない。子どもに当たってしまう。そういうことがある人は、この記事の切り分けより先に、相談先に連絡してください。
- 厚生労働省の事業「こころの耳」。電話・SNS・メールで相談できます。
- 総合労働相談コーナー。各都道府県労働局や労働基準監督署などにあり、無料で、予約はいりません。
- 都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)。育児に関するハラスメントの相談先です。
- 体の不調は、医療機関へ。
2026年10月時点の案内です。上司の言葉がどういう扱いになるかは、この記事では判定しません。当てはまるかどうかは、相談先で確かめてください。
相談先に持っていく材料として、上司の言葉を一行で残しておきます。日付、場所、言葉。「○月○日、事務所で、『だから子持ちは当てにならない』」。この一行は、この記事のどの道でも使います。
伝える日から最終日までを、一本の線にする
紙に、横に一本の線を引きます。左が「伝える日」、右が「最終日」です。線の上に、点を五つ置きます。
| 点 | 日付 | 上司と顔を合わせるか | 印 |
|---|---|---|---|
| 伝える日 | 月 日 | ||
| 退職届を出す日 | 月 日 | ||
| 引き継ぎの日 | 月 日 | ||
| 残りの有給を使う日 | 月 日〜 月 日 | ||
| 最終日 | 月 日 |
次に、上司と顔を合わせる場面に印をつけます。伝える日にその上司に言うなら印。退職届をその上司に渡すなら印。引き継ぎをその上司にするなら印。最終週に出社するなら、その日数だけ印。
印は、三つの方法で消せます。
消し方1 伝える相手を、人事に替える。
退職の意思は、会社に届けば効力があります。相手を直属の上司に限る決まりはありません。退職届を人事に出せば、「伝える日」と「退職届を出す日」の印が消えます。
消し方2 引き継ぎを、書面と別の社員に替える。
引き継ぎは、上司に口で説明するものと決まってはいません。書面にして、引き継ぐ相手に直接渡せば、「引き継ぎの日」の印が消えます。
消し方3 残りの有給を、会社と調整して最終週に当てる。
最終週を有給にすれば、出社の印が消えます。ここには決まりがあるので、線の下に書いておきます。
線の下に置く、有給の決まり
退職前でも有給休暇は請求できます。会社の承諾はいりません。残りの有給を使って辞める人もいます。
ただし、二つのことを知っておいてください。
一つ。会社には、事業の正常な運営を妨げる場合に、有給の時季を変える権利があります(労働基準法39条5項)。ただ、退職する人については、退職日より後に時季を変えることができないので、退職日までに残りを使う請求には原則そのまま与えなければならない、と労働局が説明しています。だから「使えない」と言われたら、労働局のこの説明を、総合労働相談コーナーに持っていきます。それでも「全部使える」と言い切ることはしません。会社が実情を伝えて理解を求めることまでは否定されていないので、調整は要ります。
二つ。引き継ぎをまったくしないまま有給に入ると、問題が起きることもある、と労働局は注意しています。だから消し方2の書面の引き継ぎは、消し方3より先にやります。
線の下に置いた決まりは、2026年10月時点のものです。法律や制度は変わることがあります。
残った印で、原因を決める
この原因の分け方は、この記事での整理です。診断ではありません。
問い① 伝える相手を、その上司以外(人事・上司の上司)にできるか。
人事の窓口がある、上司の上司と話せる。そうなら、印は消し方1で消えます。
問い② 伝える相手がその上司しかおらず、顔を合わせると言えないか。
小さな職場で人事がない。上司の上司に会う機会がない。その上司の顔を見ると、一言が出ない。出社そのものが重い。そうなら、止まっているのは言う場面です。
問い③ 辞めたあとの保育園の継続と家計を、まだ確かめていないか。
辞めたら保育園はどうなるのか。次の収入が入るまで何か月もつのか。それを確かめていないなら、止まっているのは退職の話より前です。
| 原因 | 中身 | 道 |
|---|---|---|
| A | 伝える相手を、その上司以外にできる | 自分で伝える |
| B | 伝える相手がその上司しかいない。顔を合わせると言えず、出社そのものが重い | 退職代行を使う |
| C | 辞めたあとの保育園の継続と家計を確かめていない | 今は残る(期限と条件つき) |
二つ以上に当てはまると感じたら、問い③を先に見てください。保育園と家計を確かめないまま退職日を決めると、辞めたあとに子どもの居場所の期限が来ます。
原因A:相手を人事に替えて、自分で出す
Aの人は、伝える相手を替えられます。線の印を、三つの消し方で一つずつ消していきます。
手順1 線に点を置く。
上の表の五つの日付を、仮でいいので埋めます。最終日から逆に置くと決めやすいです。期間の定めのない雇用では、退職の申し入れから2週間で雇用が終わります(民法627条1項)。これは法律上の最低線で、就業規則に申出の期間があり、それが常識的な長さなら、それに合わせるほうがもめにくいです。
手順2 退職日を書いた退職届を、人事に出す。上司を通さない。
口で伝えるだけでも退職の申し入れは成り立ちますが、あとで「聞いていない」と言われないように、書面で出すほうが望ましい、と労働局は説明しています。
手順3 引き継ぎを書面にして、上司ではなく引き継ぐ相手に渡す。
担当している仕事ごとに、今の状態、次にやること、連絡先を一枚ずつ。渡した日付を、自分の控えに書いておきます。
手順4 残りの有給を最終週に当てられるか、人事と調整する。
残りの日数を人事に確かめて、最終週に当てたいと伝えます。線の下の決まりを、頭に置いて。
詰まる所と次の手。
人事が「上司に先に言って」と戻すとき。退職の意思は会社に届けば有効で、人事が受け取れないという決まりはありません。「退職届はここで受け取ってください。受け取った日を、控えに書いてもらえますか」と返します。受け取らないときは、郵送します。内容証明と配達証明をつければ、出した文書の内容と配達した事実が残ります。
最初の一手。
線に、最終日の日付を書く。一つだけです。
有給の調整は、代行には頼めない
Bの道に進む前に、最終週を有給で過ごしたい人が知っておくことを一つ。残りの有給をどう当てるかの調整は、代行には頼めません。
代行に頼めるのは、本人が決めた退職の意思を会社に伝えることだけです。残りの有給の調整も、上司の言葉について会社に何かを求めることも、条件や権利の話し合いに当たります。弁護士でない人が報酬を受けて法律事務を扱うことは弁護士法72条で禁じられていて、弁護士会や労働委員会がこの点について注意を呼びかけています。上司の言葉について動くなら、都道府県労働局の窓口か、自分で書面にする道です。有給は、線の下の決まりを持って、自分で会社と調整します。
頼んだあとに自分でやることは、線の点の数だけあります。引き継ぎの書面、離職票と源泉徴収票の受け取り、健康保険と年金の切り替え、保育園の届出。自分で伝える道と違うのは、その上司と顔を合わせて最初の一言を言うかどうか、それだけです。
代行の料金:( 円)←自分で見た額を書く。この額で頼めるのは最初の一言までで、有給の調整は含まれません。
自分で伝える道には、この料金がかかりません。それが基本の道で、代行は、伝える相手がその上司しかおらず、顔を見ると一言が出ない人のための道です。
代行を使わない場合の代わりは、上司を通さず、人事に退職届を書面で出す方法です。人事がない職場なら、会社の代表あてに郵送します。
原因B:その上司への一言だけを、代行に渡す
Bの人は、伝える相手がその上司しかいません。顔を合わせると言えず、出社そのものが重い。その最初の一言だけを、代行に頼みます。
手順1 頼む前に決めること。
三つあります。退職日。残りの有給の日数(会社と調整が要ると知っておきます)。パートナーにいつ話すか。この三つは、代行が会社に伝える中身と、家で先に決めておくことです。代行は決めてくれません。
手順2 代行が、退職の意思を伝える。
代行がするのは、この一言までです。有給の話は、ここには入りません。
手順3 頼んだあとに、自分でやること。
退職届の郵送と、会社の物の返却が先です。書類は二つ。離職票は、会社が手続きをしなくてもハローワークに申し出れば本人の請求で手続きが進み、源泉徴収票は退職後1月が交付の期限とされています。切り替えは二つ。国民健康保険と国民年金は原則として退職日の翌日から14日以内に市区町村の窓口で、健康保険の任意継続を選ぶなら退職日の翌日から20日以内に申し出ます。
それから、保育園の継続の届出です。退職後の扱いを、住んでいる市区町村の保育の窓口に確かめます。中身は、原因Cのところに書きます。
詰まる所と次の手。
上司から直接電話が来るとき。代行が「本人への連絡は控えてほしい」と伝えることはできますが、それは依頼であって、会社を縛るものではありません。電話が来ない、とは言えません。だから先に決めておきます。出ない、折り返さない。書類は郵送してほしいと、一度だけ書面で返す。この二つを頼む前に決めておけば、電話が鳴ったときにすることが、先に決まっています。
最初の一手。
上司の言葉を、日付つきで一行書く。「○月○日、事務所で、『だから子持ちは当てにならない』」。これは相談先に持っていく材料にもなります。
原因C:保育園と家計を確かめる日まで、残る
Cの人は、辞めたあとの保育園と家計を確かめていません。確かめないまま辞めると、子どもの居場所の期限が、辞めたあとに来ます。だから、期限を「確かめた日」に置いて、それまでは残ります。
期限。
市区町村の保育の窓口で、退職後の扱いを確かめた日。
手順1 保育の窓口で、退職後の扱いを確かめる。
保育所を使うには、市町村から「保育の必要性」の認定を受けます。事由には就労のほかに、求職活動も入っています。求職活動を事由とする場合の期間は、90日を限度として市町村が決める、と国の決まりにあります。つまり、国が決めているのは枠までで、実際の期間、必要な書類、届出の期限は、住んでいる市区町村ごとに違います。「退職しても90日は使える」とは言えません。窓口で、自分の市区町村の扱いを確かめてください。
もう一つ。事由は、保護者の両方が当てはまることが条件です。だから窓口には、パートナーの状況(働いているか、勤務時間はどれくらいか)も伝えます。
手順2 その日までに、家計の数字をパートナーと出す。
次の収入が入るまで、何か月もつか。月の支出と、今の貯金から出します。パートナーと一緒に、一枚の紙に書きます。辞める話を切り出す前にこの紙を作っておけば、「辞めたい」より先に、紙の数字を見せて話せます。
手順3 確かめた日に、AかBを決める。
上司以外に伝えられるならA。その上司しかいないならB。
手順4 残る間に、上司の言葉を日付つきで記録し、線の点を先に置いておく。
次に同じ言葉が来たら、また一行。線は、仮の日付でいいので先に置いておきます。
詰まる所と次の手。
窓口で「退職後は求職活動の期間として扱う」と言われたが、期間が短いとき。その期間の末日を、線の最終日より先に置きます。そこから逆に、辞める日を決めます。期限の末日が先にあれば、辞める日はその手前に収まります。
最初の一手。
市区町村の保育の窓口の電話番号を調べる。番号を書くところまでです。
消せない印がどこに残るかで、道を分ける
三つの道で迷ったら、線の上の印を見てください。
「伝える日」の印が、消し方1(相手を人事に替える)で消えるなら、A。消し方1が使えず、その上司に言う印がどうしても残るなら、B。線を書く前に、保育園と家計の欄が空のままなら、まずC。
料金がかかるのはBだけで、頼めるのはその一言までです。Aで行けるなら、A。Cから進むときも、窓口で確かめた日に、この順で見ます。
上司の言葉については、この記事では判定しません。子どもの看護のために休む制度(子の看護等休暇)があり、その申出や取得を理由とする不利益な取扱いは禁止されています(育児・介護休業法16条の4)。育児に関するハラスメントを防ぐ措置を講じることも、会社の義務とされています(同法25条)。あなたの場合に当てはまるかどうかは、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)で確かめてください。日付つきの一行が、そのときの材料になります。
最終週の線に、印が残っていないことを確かめる
最後の場面は、どの道でも同じところに着きます。
Aの人は、人事と調整した最終週。
Bの人は、代行に伝えたあとの最終週。
Cの人は、窓口で確かめたあとに置き直した最終週。
線の右端、最終週の部分を見ます。上司と顔を合わせる印が、残っていないか。残っていれば、三つの消し方のどれで消すかを決めます。残っていなければ、そのまま。
「子持ちは当てにならない」と言われた朝から見ると、変わったのは一本の線だけです。ただ、その線の最終週に上司と顔を合わせる印が残っているかどうかは、自分で消して、自分で確かめられます。確かめてから、子どもの寝顔の横に戻ってください。