本文へ移動

職場での居場所

「試用期間は辞められない」と言われた新人。確かめた翌週の、机の上

約12分で読めます

先輩の言葉を鵜呑みにせず職場に備え付けられた就業規則を自分で確かめる新人

先輩の「試用期間は辞められないよ」は会社の決まりか、言い回しか。契約書と就業規則の3か所を自分の目で確かめる一覧と、確かめた結果で自分で伝える・退職代行に頼む・試用期間の終わりまで残るのどれかを選ぶ手順。

この記事を読むと、雇用契約書と就業規則の3か所を自分の目で見て、先輩の「試用期間は辞められないよ」が会社の決まりなのか、ただの言い回しなのかを、翌日のうちに確かめられます。確かめた結果をもとに、自分で伝える・退職代行に頼む・試用期間の終わりまで残る、の3つから1つを選べます。

昼休みの一言を、その夜そのまま信じている

入社して2か月の新人が、辞めたいと思い始めています。入社前に聞いていた仕事と、実際の中身が違っていたからです。昼休みに先輩へ軽い調子で相談したら、返ってきたのは「試用期間は辞められないよ。本採用になってからの話」という一言でした。その夜、ベッドの中でスマホを開き、「試用期間 辞められない」と検索している。これがこの記事の読者です。

ここで止まっているのは、先輩の言葉が「会社の決まり」なのか「先輩の言い回し」なのかを、まだ確かめていないからです。確かめていない間は、「言う」とも「待つ」とも決められません。決められないまま、翌朝また同じ机に座ることになります。

この記事では、先に確かめることを3つに絞り、印をつけてから次へ進みます。ネットの答えで安心するのではなく、自分の契約書と就業規則を見る、というのが最初の作業です。

確かめることの一覧。見ないまま印をつけない

一覧は3つだけです。横に「確かめた日」と「見た場所」の欄を置きました。見た日と場所を書けないうちは、印をつけないでください。先輩の言葉を信じてしまった夜と同じことを、記事の言葉で繰り返さないためです。

番号 確かめること どこで見るか 確かめた日 見た場所 印
① 雇用契約書(労働条件通知書)に「期間の定め」があるか。あるなら何日までか 入社時にもらった書類。見つからなければ人事に「労働条件通知書の控えがほしい」と頼む      
② 就業規則の「退職」の項目に、申し出の期間が何日前と書いてあるか 職場の見やすい所か社内のパソコン。なければ人事      
③ 「辞められない」と言ったのは誰で、どの決まりを指して言ったか 言った本人に聞く。聞きにくければ人事に「試用期間中の退職の決まりはありますか」と聞く      

① 契約書の「期間の定め」

雇用契約書か労働条件通知書を開いて、「契約期間」「雇用期間」の欄を探します。「期間の定めなし」とあるか、「〇年〇月〇日まで」と日付があるか。ここが、この記事全体の分かれ道です。

試用期間が3か月や6か月と書いてあっても、それは「期間の定め」とは別の話です。「試用期間3か月」と「契約期間の定めなし」が同じ書類に並んでいることがあります。見るのは試用期間の長さではなく、契約そのものに終わりの日があるかどうかです。

② 就業規則の「退職」の項目

就業規則には、退職に関することを書く決まりになっています(労働基準法89条3号)。会社は就業規則を、職場の見やすい場所に置く、書面で渡す、パソコンで見られるようにする、のどれかで働く人に知らせることになっています(労働基準法106条1項。2026年10月時点)。どこにあるか分からなければ、人事に「就業規則はどこで見られますか」と聞けば済みます。

開いたら「退職」の項目を探し、「退職の〇日前までに申し出る」という日数を書き写します。労働局の説明では例として「1か月前まで」が挙がっていますが、日数は会社によって違います。自分の会社の数字を、②の欄に書きます。

③ 言ったのは誰で、どの決まりか

先輩の言葉が「就業規則の〇条にこう書いてある」と指しているのか、「うちの会社はそういうものだから」という感覚の話なのかを分けます。聞き方は一つで十分です。

「この前の、試用期間は辞められないって話なんですけど、それって就業規則に書いてあることですか」

先輩に聞きにくければ、人事に「試用期間中の退職について、決まりがあれば教えてください」と聞いても同じです。答えが「決まりとしてはない」なら、③の欄には「先輩の言い回し」と書きます。

試用期間に、辞めることを止める特別な決まりはない

3つの欄を埋める前に、法律の側を確かめておきます。民法・労働基準法・労働契約法の条文を確認した範囲では、試用期間中の人が辞めることについて、特別な決まりはありません。辞める側の決まりは、試用期間かどうかではなく、①で見た「期間の定め」の有無で決まります。

期間の定めがない雇用なら、働く人はいつでも辞めると申し入れることができ、申し入れの日から2週間がたつと雇用は終わります(民法627条1項。2026年10月時点)。労働局は、就業規則の申し出期間が常識的な長さ(例として1か月前まで)なら、まずそれに沿って申し出るほうがトラブルが少ない、と説明しています。2週間は法律上の最低線で、就業規則を無視してよいという意味ではありません。

期間の定めがある雇用(試用期間つきの契約社員など)なら、途中で辞められるのは「やむを得ない事由」がある時で(民法628条)、当てはまるかどうかは個別の判断になります。この場合は、契約の終わる日を期限にする道(後に書くC)が中心になります。途中で辞めたい事情がある時は、自分で決める前に総合労働相談コーナーで相談してください。相談は無料で、予約は要りません。

もう一つ、聞いていた仕事と書面の労働条件が違う場合には、別の決まり(労働基準法15条2項)が関わることがあります。ただし当てはまるかどうかは個別の判断なので、記事で決めず、同じ窓口で確かめます。

「試用期間だから辞められない」が誤りなのと同じで、「試用期間だからすぐ辞められる」も誤りです。この記事に書いた法律と制度は2026年10月時点のもので、変わることがあります。

3つに印がついたら、3つの問い

一覧に印がそろったら、次の3つに答えます。答えによって、進む道が分かれます。

①一覧の印をつけ終えたか。期間の定めの有無を、自分の目で見たか。
②上司か人事に、辞めると自分の口で言いに行けるか。行こうとして足が止まるか。
③辞めたい理由は、試用期間が終わると変わるものか(配属・研修・仕事の内容)、変わらないものか。

印のつき方で、原因を3つに分ける

印のつき方と問いの答えで分けるのは、この記事だけの整理です。診断ではありません。

A:確かめたら期間の定めのない雇用で、先輩の言葉は会社の決まりではなかった。伝える相手は決まっていて、言えば済む。
B:確かめた結果はAと同じ。けれど先輩や上司と顔を合わせると言葉が止まる。退職届を持って行くことも、電話をかけることもできない。
C:辞めたい理由は試用期間の間の決まり(研修・仮の配属・教える人)で、本採用になると変わるかもしれない。①で期間の定めがあり、契約の終わる日が近い人も、ここに入る。

問い②で足が止まるならB、問い③で「変わるかもしれない」ならC、どちらでもなければAです。原因1つに道1つ。自分で伝える、代行に頼む、試用期間の終わりまで残る。転職や資格の話は、この記事には出てきません。

A:確かめた紙を持って、自分で渡す

Aの人に足りなかったのは、先輩の言葉を確かめることだけでした。確かめたあとの手順は4つです。

まず辞める日を決めます。期間の定めのない雇用なら、申し入れから2週間が最低線です。②で見た就業規則の期間が常識的な長さなら、それに合わせます。今日の日付に②の日数(最低でも2週間)を足した日を、まず仮の退職日にします。

次に、退職届に日付を書きます。「退職日」と「提出日」の2つの日付を書いた紙を1枚、自分の控えとしてもう1枚。口頭でも退職の意思は伝わりますが、後から「聞いていない」と言われることを防ぐために、書面で残すほうが望ましいと労働局や都は説明しています。

3つ目に、上司か人事に渡します。渡す時の言葉は短くて構いません。

「〇月〇日で退職したいと考えています。退職届を持ってきました」

4つ目に、引き継ぎ資料を作ります。入社2か月なら、担当している作業の手順と、今どこまで進んでいるかの一覧があれば足ります。引き継ぎの義務が法律で定められているわけではありませんが、2週間の予告を守り、できる範囲で資料を残すのが、揉めない現実的な線です。

詰まる所と次の手:「試用期間だから受け取れない」と言われることがあります。退職は働く人の側からの一方的な意思表示で成り立ち、会社の承認は要りません(労働局の説明と民法97条。2026年10月時点)。受け取ってもらえなければ、総合労働相談コーナーで相談したうえで、内容証明に配達証明をつけて郵便局から送る方法があります。内容証明は「どんな内容の文書を出したか」、配達証明は「いつ届いたか」を残す手段です。送れば解決するものではなく、出した事実を残すものだと思ってください。

最初の一手:契約書の「期間」の欄を、今日、写真に撮ります。

代行が届けるのは「辞める」の一言だけ

Bの道の前に、一覧の③と同じ目で、退職代行の側も確かめておきます。「代行は何をしてくれるのか」を、人の言葉ではなく決まりで見る、という意味です。

弁護士でない事業者にできるのは、本人が決めた退職の意思を会社に届けることまでです。退職日をいつにするか、給料をどうするかを会社と話し合うことは法律事務にあたり、弁護士でない者が報酬を得て行うと弁護士法72条の問題になります(2026年10月時点)。弁護士会や労働委員会が、この点に注意を呼びかけています。

Aと何が違うのかというと、先輩や上司と顔を合わせずに済む、その1点です。退職届を送る、借りている物を返す、書類を受け取る、健康保険と年金を切り替える。この4つは、代行に頼んでも自分の手で行います。Aの手順を、顔を合わせる所だけ抜いて自分でやる、と考えると分かりやすいです。

自分で伝える道には費用がかかりません。代行を使うなら費用がかかり、その額は事業者ごとに違います。この記事に相場は書きません。自分で見た額を、一覧と同じように、自分の目で見てから書き込んでください。

自分で見た額:(     )円

使わない場合の代わりは、Aの詰まる所に書いた、内容証明に配達証明をつけて郵便局から送る方法です。これなら顔を合わせずに、自分の名前で届けられます。

B:顔を合わせずに、意思だけを届ける

Bの人は、確かめた結果はAと同じです。違うのは、先輩や上司と顔を合わせると言葉が止まることです。会社に行けない日が出ているなら、伝える部分だけを人に頼む道があります。

頼む前に決めることは4つです。辞める日。会社に預けている物(社員証、鍵、パソコンなど)。返してほしい私物(机の中、ロッカーの中)。会社への連絡の窓口を代行にしてほしいこと。この4つを紙に書いてから頼みます。

頼んだあとに自分でやることは、一覧の形で手帳に写しておくと抜けません。

  • 退職届を会社に送る。代行の案内に従って、書面を郵便局から送ります。
  • 会社から借りている物を返す。
  • 離職票と源泉徴収票を受け取る。離職票が届かない時は、ハローワークに申し出れば本人の請求で手続きが進みます。源泉徴収票は、中途退職の場合は退職後1月が交付の期限です(国税庁の案内。2026年10月時点)。
  • 退職証明書が要るなら請求する。働いていた期間や仕事の種類などを会社が証明する書類で、求めた時に会社が遅れずに出すことになっています(労働基準法22条1項)。頼まないと出ません。
  • 健康保険と年金を切り替える。切り替えには期限があります。国民健康保険と国民年金は14日以内、今の健康保険を続ける任意継続は退職日の翌日から20日以内(2026年10月時点)。辞める日が決まった日に、この3つの日付を手帳に書きます。

詰まる所と次の手:代行が伝えたあと、会社から本人に電話が来ることがあります。代行は「本人への連絡を控えてほしい」と会社に頼めますが、会社を縛る決まりはありません。電話が来ないとは書けません。だから、来た時にどうするかを先に決めておきます。「出ない。用件はメールで返す」と紙に書いておけば、鳴った時に迷いません。

最初の一手:返してほしい私物を1つ、紙に書きます。

C:本採用の日を期限に、1つだけ確かめる

Cの人は、辞めたい理由が「今の研修」「仮の配属」「今教えてくれている人」のように、試用期間の間だけの決まりにあります。本採用になると変わるかもしれないなら、期限を切って残る道があります。残るのは期限と条件つきで、「我慢する」こととは違います。

手順は4つです。試用期間の終わる日を契約書で確かめます。その日を期限にします。本採用の面談で確かめることを1つ決めます。配属、仕事の中身、教える人のうち、辞めたい理由にいちばん近いものを1つだけ。確かめた答えで、残るか辞めるかを決めます。

期限の日に答えが「変わらない」なら、その時点でAかBに進みます。期間の定めがある雇用の人は、契約の終わる日と試用期間の終わる日が同じこともあります。その場合は、契約が終わる日を期限にし、更新するかどうかを自分で決めます。

詰まる所と次の手:面談が設けられないことがあります。その時は、期限の日に自分から聞きます。

「本採用後の配属を教えてください」

一文で十分です。答えが返ってこないこと自体も、判断の材料になります。

最初の一手:試用期間の終わる日を、手帳に書きます。

確かめた翌週、机の上

確かめた翌週、読者は自分の机の上を片づけています。

Aの机には、退職届を渡した日の控えと、作り終えた引き継ぎ資料が置いてあります。Bの机は、私物を持ち帰って空いています。残っているのは会社の物だけです。Cの机には、本採用までに確かめること1つを書いた紙が、1枚だけ貼ってあります。

3つの机は違います。けれど、どの机の上にも「試用期間は辞められないよ」という先輩の言葉は、もう残っていません。あの言葉は、契約書と就業規則を自分の目で見た日に、机から降りました。