本文へ移動

職場での居場所

「後任が来るまで」で一年。営業主任が後任なしで迎えた最終日の朝礼

約12分で読めます

後任の空席と完成した引き継ぎ資料を残して最終日の朝礼で挨拶する営業主任

「後任が来るまで」と言われて1年。辞める日を自分で決め、右端の最終日から左へ戻る線に退職届・引き継ぎ資料・有給の日付を置く方法と、自分で伝える・退職代行に頼む・区切りの日まで残るの選び方。

この記事を読むと、最終日を自分で決め、そこから左へ戻る線の上に、退職届の日付・引き継ぎ資料の完成日・有給の申し出の日を置けます。線を引いたうえで、自分で伝える・退職代行に頼む・区切りの日まで残る、の3つから1つを選べます。

一年前にうなずいた朝と、今朝の朝礼

営業の主任、5年目。期間の定めのない雇用で働いています。1年前、上司に「辞めたいと思っています」と伝えました。上司は「後任が来るまで待ってくれ」と言い、主任はうなずきました。それから1年。後任の募集は、社内にも求人にも出ていません。

今朝の朝礼で、主任は列に立ちながら気づきました。この1年、自分は「いつ辞めるか」を一度も口にしていない。言ったのは「辞めたい」だけで、辞める日は「後任が来たら」という相手の都合に預けたままだった。

1年延びた理由は、上司が引き止めたからではありません。辞める日を自分で言っていないからです。日付のない申し出は、相手にとって「いつか」の話のままで、「いつか」は動きません。だからこの記事では、最初に最終日を決め、そこから逆に線を引きます。

右端に最終日を置いて、左へ戻る線

線の引き方は一つです。右端に最終日を書き、そこから左へ戻りながら、やることの日付を置いていきます。先に「いつから始めるか」を考えると、また「後任が来たら」に戻ってしまうので、終わりの日から書きます。

右端の最終日は、主任が自分で決めてよい日付です。ただし、置ける場所には左の限りがあります。期間の定めのない雇用なら、辞めると申し入れた日から2週間で雇用は終わる、と民法627条1項に書かれています。つまり右端は、退職届を出す日から2週間より左には置けません。就業規則に「1か月前まで」のような常識的な長さの申し出期間があるなら、右端をその分だけ右へずらします。まず就業規則に沿って申し出るほうがトラブルを防げる、と労働局も説明しています。この記事に出てくる法律と制度は2026年10月時点のもので、変わることがあります。

線の上に置く欄は6つです。最終日から数えて、左へ置いていきます。

置く順 欄 書く日付 決め方
右端 最終日  月 日 自分で決める。2週間が最低線。就業規則の期間が常識的な長さなら、それに合わせる
← 貸与品を返す日  月 日 最終日まで。返し方は会社の指示に合わせる
← 担当先へ案内する日  月 日 資料の完成日より後、最終日より前。会社の決まりがあれば、それに合わせる
← 引き継ぎ資料の完成日  月 日 担当先への案内より前。資料ができていれば、案内の時に「この資料で引き継ぎます」と言える
← 残っている有給を申し出る日  月 日 退職届を出す日と同じか、その直後。早めがよい
左端 退職届を出す日  月 日 最終日から2週間以上前。就業規則の期間があるなら、その分だけ前

線の上に、「後任」の欄は作りません。後任が来るまで働く決まりは、民法・労働基準法・労働契約法の条文を確認した範囲にはありません。労働局も、「新しい人が見つかるまで待て」と言われても、申し入れから2週間で退職の効力が生じる、と説明しています。後任は会社が用意するもので、主任の線の上に置くものではないのです。

退職届の文例。「後任が決まり次第」は書かない

紙に書くのは、右端の日付と、辞めるという一文だけです。

「退職届 私は、○年○月○日をもって退職いたします。」

その下に、出す日の日付、営業部、名前を書けば足ります。「後任が決まり次第」「引き継ぎが終わり次第」と書き足すと、また相手の都合に辞める日を預けることになります。○年○月○日には、線の右端に書いた最終日を、そのまま写します。控えを1枚、自分の手元に残します。

1年前の「辞めたい」は、口で言っただけでした。口頭でも退職の意思は伝わりますが、あとで「聞いていない」と言われないよう書面にするほうが望ましい、と労働局や東京都は説明しています。今度は、日付の入った紙にします。

引き継ぎ資料の目次。後任がいなくても引き継ぎは成り立つ

引き継ぎ資料は、後任に渡すために作るものではなく、「誰が読んでも分かる状態」にしておくものです。後任がいなくても、資料があれば引き継ぎは成り立ちます。目次の例は、次の3つです。

  1. 担当先の一覧(取引先の名前・担当者・連絡の頻度・気をつけること)
  2. 進んでいる案件の状態(今どこまで進んでいるか・次に何をする日か・止まっている理由)
  3. 社内の手続きの場所(見積もりの出し方・申請の通し方・資料の置き場所)

引き継ぎを義務づける条文は、民法や労働基準法を確認した範囲には見当たりません。それでも労働局は、引き継ぎなど必要な業務を果たしていないと問題が起きることもある、と注意しています。線の左端から右端までに2週間以上をとり、目次の3つを埋めておく。これが、もめないための現実的な線です。損害賠償については、労働局は民事の問題として回答を控えており、あるともないとも記事では書けません。資料は、その心配を小さくするためにも作ります。

有給の申し出。早めに、線の左のほうに

残っている有給は、退職する日までの間も使えます。会社が時季を変えられるのは「事業の正常な運営を妨げる場合」だけで、退職日より後に変えることはできない、と労働局は説明しています。だから退職前の有給は、実際には認められるのが通常です。

ただし「残り全部を使える」と言い切ることはできません。すぐ上の引き継ぎ資料のところで書いた労働局の注意は、有給にもそのまま当てはまり、申し出は早めに行うのが望ましいとされています。線の上では、退職届を出す日と同じか、その直後に置きます。有給の買い取りについては、公的な説明を確認していないので、この記事では扱いません。

線を引いたら、3つの問い

6つの欄が埋まったら、線から目を上げて、次の3つに答えます。

①1年前に伝えた時、辞める日を自分で言ったか。それとも「後任が来るまで」に預けたか。
②上司に、日付を書いた退職届を自分で渡しに行けるか。行けないなら、それは「また待てと言われる」からか、上司と顔を合わせること自体ができなくなっているからか。
③今の担当に、自分が区切りをつけたい案件があるか。あるなら、その区切りの日はいつか。

線の上の空白で、原因を3つに分ける

線の上で何が空白のままかで分けるのは、この記事だけの整理です。診断ではありません。

A:1年延びたのは、辞める日を自分で言わず「後任が来たら」に預けていたから。伝える相手は上司と決まっていて、日付を書いた紙を持って行ける。
B:この1年のやりとりで、上司の部屋に入ること自体を避けるようになった。日付を書いても、渡しに行けない。
C:区切りをつけたい案件があり、その区切りの日が見えている。

見る順は、問い②、問い③です。②で、上司と顔を合わせること自体ができないと答えたならB。そうでなく、③で区切りの日を言えたならC。どちらにも当たらなければAです。線の上に空いているのは、Aなら日付、Bなら渡す手段、Cなら「後任が来るまで」に替わる「この日まで」。空白1つに、道を1つ当てます。

A:日付の入った紙を、自分で渡す

Aの人の線に足りなかったのは、日付だけでした。線の左端から右端へ、5つを順に進めます。

  1. 最終日を決めて、線を引く。右端に日付を書き、左へ6つの欄を埋める。
  2. 日付を書いた退職届を、上司に手で渡す。
  3. 引き継ぎ資料を作り始める。目次の3つを先に書き、中身は線の上の完成日までに埋める。
  4. 残っている有給を申し出る。退職届を渡した日か、その直後。
  5. 担当先へ案内する。資料が完成したあとに、「この資料で引き継ぎます」と言える状態で回る。

渡すときは、紙を差し出して一言だけ添えます。

「○月○日で退職します。退職届を持ってきました。引き継ぎ資料は○日までに作ります」

詰まる所と次の手:上司から、また「後任が来るまで待ってくれ」と言われることがあります。1年前と同じ場面です。違うのは、今度は日付の入った紙を持っていることです。返すのは、この一文です。

「後任が来るまで働く決まりはないと聞きました。この日で辞めます。引き継ぎ資料は、この日までに作ります」

紙を受け取ってもらえないこともあります。退職は働く人の側の一方的な意思表示で成り立ち、会社の承認は要らない、と労働局は説明しています(民法97条。2026年10月時点)。手渡しが難しければ、郵便局から内容証明で送ります。内容証明は、どんな内容の文書を出したかを郵便局が証明するものです(郵便法48条)。配達証明をつければ、配達した事実と日付も残ります(郵便法47条)。送ったから話が終わる、というものではありません。線の左端の日付を、記録として残す手段です。

最初の一手:最終日の候補を1つ、手帳に書きます。

代行が運ぶのは、右端の日付だけ

線の6つの欄のうち、退職代行が会社に伝えられるのは、右端の最終日と、辞めるという意思だけです。

弁護士でない事業者にできるのは、本人が決めた退職の意思と最終日を、会社に伝えるところまでです。引き継ぎの中身や最終日の調整を会社と話し合うことは、法律事務にあたり、弁護士でない者が報酬を得て行うと弁護士法72条の問題になります(2026年10月時点)。弁護士会や労働委員会も、この点に注意を呼びかけています。

自分で伝える場合と変わるのは、上司の部屋に入らずに済むこと。それだけです。左端から右端までの残りの欄は、代行に頼んでも主任の手に残ります。

代行の費用は事業者ごとに違うので、この記事には書きません。自分で調べた額を、ここに書き込んでください。(    )円。日付の入った紙を自分で渡すか、郵便局から送る道なら、この費用はかかりません。代行を使わない場合の代わりは、Aに書いたその2つです。

B:部屋に入らずに、日付だけ届ける

Bの人は、1年のやりとりの間に、上司の部屋に入ること自体ができなくなっています。日付を書いた紙はあるのに、持って行けない。それなら、右端の日付を届ける役だけを人に頼む道があります。

頼む前に決めることは3つです。最終日(線の右端)。引き継ぎ資料を自分で書いて送ること。貸与品(社用の携帯・パソコン・名刺・社員証)と担当先の情報の返し方。3つを1枚の紙に書き出してから、依頼します。

頼んだあとに主任がやることを、線の欄に重ねると次のようになります。

頼んだあとに自分でやること 中身と期限
退職届を送る 線の左端の日付で。右端の最終日を書いた紙を、会社へ郵送する
引き継ぎ資料を送る 線の上の完成日までに、目次の3つを埋めて送る
貸与品を返す 線の上の返す日までに。返し方は会社の指示に合わせる
退職証明書を求める 働いていた期間や仕事の種類を会社が証明する書類。求めれば会社が遅れずに出すことになっているが、求めないと出ない(労働基準法22条1項)
源泉徴収票を受け取る 途中で辞めた場合、会社の交付の期限は退職後1月(国税庁の案内)
離職票を受け取る 届かなければ、ハローワークに申し出ると本人の請求として手続きが進む

健康保険と年金の切り替えにも期限があります。国民健康保険と国民年金は14日以内に市区町村で、今の健康保険を続ける任意継続は退職日の翌日から20日以内です(2026年10月時点)。線の右端の日付が決まった日に、この期限の日付も、線の右の外側に書いておきます。

上司から電話が鳴ることも、先に考えておきます。代行が「本人への連絡は控えてほしい」と伝えても、会社がそれに従う決まりは確認できていません。電話が来ないとは書けないので、「出ない。用件は文書で返す」と、線を書いた紙の端に書いておきます。

詰まる所と次の手:会社から「主任なのに代行なんて」と言われることがあります。代行は意思を伝えるだけで、引き継ぎは資料で果たします。主任という役職に特別な退職の決まりがあるかは、この記事では確認していません。ただ、「役付者は6か月前」のような規定に法的な効力がないとした裁判例が、労働局で紹介されています。損害賠償の可否は個別の判断で、労働局は民事の問題として見解を示していません。心配な時は、総合労働相談コーナーか法テラスで相談します。総合労働相談コーナーは無料で予約が要らず、法テラスの無料相談には収入と資産の基準があります。

最初の一手:引き継ぎ資料の目次を、3行書きます。

C:区切りの日まで残る

Cの人には、区切りをつけたい案件があります。残るのは「後任が来るまで」ではなく、「この日まで」です。ここが、この1年との違いです。

手順は4つです。区切りの日を確かめます。案件の予定表を見て、「この日に終わる」と言える日付を1つ決めます。その日を最終日にします。線の右端に、その日を書きます。最終日を書いた退職届を、今、出します。区切りの日を待ってから出すのではなく、今です。出さないまま待つと、また「後任が来たら」に戻ります。区切りの日まで、引き継ぎ資料を作ります。案件が終わった時の状態を、資料の2番目の欄に書き足していきます。

詰まる所と次の手:区切りの日が延びることがあります。案件の予定は、主任の都合だけでは決まりません。延びても、退職届の日付は動かしません。延びた分は、資料で引き継ぎます。「終わるまで残る」にすると、終わりの日はまた相手の都合になります。

最初の一手:区切りの日を、手帳に書きます。

最終日の朝礼

最終日の朝。主任は、後任のいない列に立っています。1年前と同じ場所です。違うのは、今日の日付を自分で決めたことです。

Aの主任の最終日は、退職届を渡した日から数えた日。Bの主任の最終日は、代行が会社に伝えた日。Cの主任の最終日は、案件の区切りの日。3つの日付は違いますが、どれも「後任が来たら」ではなく、主任が右端に書いた日です。

朝礼で、主任は「本日で退職します」と言います。机の上には、引き継ぎ資料が1冊置いてあります。担当先の一覧、進んでいる案件の状態、社内の手続きの場所。後任はまだいません。けれど、この1冊を誰かが開けば、引き継ぎは成り立ちます。

後任の欄は、最後まで線の上にありませんでした。