この記事を読むと、店長とのやり取りを「前」と「後」で書き直し、制度の名前と日数を入れて休みを請求する言い方を持てます。それでも通らなかったときの辞め方まで決めて、次に子どもが熱を出した日に、家にいられます。
熱の朝、「代わりはいない」で終わった
販売の仕事をしている親の話です。朝、子どもが熱を出しました。店長に電話で休みを伝えると、返ってきたのは「代わりはいない」の一言でした。「はい…」と答えて、子どもを自分の親に預けて出勤しました。
次に子どもが熱を出した日、同じことが起きるのがこわい。また「代わりはいない」と言われて、また預けて出勤するのか。休みを請求できるのか、断られたら辞めてよいのか、辞めるならどう伝えるのか。どれも決まっていないから、次の熱の日がこわいのです。この記事は、その3つを決める記事です。
この記事は、店長や会社を悪く言いません。「代わりはいない」の一言が法律に当てはまるかどうかも、記事では決めません。当てはまるかは、下に書く相談先で確かめます。記事が渡すのは、熱の朝に使う言い方と、それでも通らないときの辞め方です。
やり取りを「前」と「後」で並べる
まず、熱の朝のやり取りを書き出します。左が実際にあった「前」、右が言い直した「後」です。
| 自分 | 店長 | 自分 | |
|---|---|---|---|
| 前 | 「子どもが熱で…すみません」 | 「代わりはいない」 | 「はい…」 |
| 後 | 「子の看護等休暇を1日使います。小学3年生までの子で、年5日、子が2人以上なら10日です。病気の世話が理由に入っています」 | 「代わりはいない」 | 「休暇として請求します」 |
「前」は、お願いの形です。お願いには「だめ」が返せます。「後」は、制度の名前と日数を入れた請求の形です。請求には、制度の決まりが乗っています。この違いで、「お願い」が「請求」に変わります。通らなかったときの進め方は、下に書きます。
午後だけ病院に連れていく日なら、「子の看護等休暇を午後に2時間使います」のように、時間単位で請求する形もあります。ただし、時間単位での取得が難しい仕事の人を労使協定で時間単位の対象外にしている会社もあるので、就業規則で確かめます。
「後」の言い方の根拠を、順に書きます。
子の看護等休暇の決まり(2026年10月時点)
子の看護等休暇は、育児・介護休業法に定められた休暇です。小学校3年生が終わるまでの子を育てている人が、1年度に5日(子が2人以上なら10日)、子どもの病気やけがの世話などの理由で取れます。1日単位でも、時間単位でも取れます。申し出は16条の2、会社が申し出を拒めないことは16条の3、申し出や取得を理由にした不利益な取り扱いの禁止は16条の4に定められています。
2025年4月1日から、変わった点があります。それまでは、入社6か月未満の人を労使協定で対象外にできる仕組みがありましたが、これがなくなりました。今は、入社してすぐの人でも対象です。ただし、週の所定労働日数が2日以下の人は、労使協定で対象外にできます。パートで週2日以下の契約なら、自分の会社に協定があるかを確かめる必要があります。
休暇の日に給料が出るかどうかは、法律で決まっていません。有給の会社もあれば、無給の会社もあります。自分の会社がどちらかは、就業規則の「子の看護等休暇」の条を見ます。就業規則は、会社が掲示や備え付けなどの方法で働く人に知らせることになっています(労働基準法106条1項)。見つからなければ、人事か本部に「子の看護等休暇の条を見たい」と言います。無給の場合でも、休んだ時間を超えて給料を減らしたり、賞与や昇給で不利に扱ったりすることは、不利益な取り扱いの禁止に当たるとされています。
「後」の一言を、自分の子どもに合わせて書き直します。
| 書く欄 | |
|---|---|
| 子どもの学年(小学3年生まで) | |
| 子どもの人数(1人=年5日/2人以上=年10日) | 人→年 日 |
| 今年度、すでに使った日数 | 日 |
| 自分の週の所定労働日数(2日以下なら協定を確かめる) | 週 日 |
| 就業規則の「子の看護等休暇」の条(有給/無給) |
制度は2026年10月時点のもので、変わることがあります。
「後」でも「代わりはいない」が続くとき
「後」の言い方で請求しても、「代わりはいない」が続くことがあります。そのときに決めるのは、辞める理由の書き方です。
辞める理由を「子の熱」とは書きません。子どもが熱を出すのは、親のせいでも子どものせいでもないからです。書くのは、こちらです。
「休みの制度が使えない職場だから」
この1行で、辞める理由が自分の外に出ます。「子どもが熱を出すたびに迷惑をかけるから辞める」ではなく、「制度の名前と日数を入れて請求しても通らない職場だから辞める」。この1行は、下の原因A・Bのどちらの道でも使います。
子の看護等休暇の申し出や取得を理由にした不利益な取り扱いは禁止されています。「代わりはいない」の一言がそれに当たるかどうかは、記事では決められません。当てはまるかを確かめる相談先は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)です。総合労働相談コーナー(無料、予約不要)でも受け付けています。2026年10月時点の案内です。
「後」が言えるか、辞めるが言えるか、通れば残るか
次の3つに答えます。
- 問い① 「後」の言い方で、店長に言うことはできますか。
- 問い② 店長に「辞めます」と伝える場面を、作れますか。「代わりはいない」で声が出なくなりますか。
- 問い③ 休みが通れば、残りたいですか。
答えで、原因は3つに分かれます。この分け方は、この記事での整理です。
- 原因A:「後」の言い方で言える。それでも断られ続けるなら、辞めると決めている。
- 原因B:「代わりはいない」と言われてから、店長に何も言えなくなった。休みも、辞めるも、言えない。
- 原因C:「後」の言い方で休みが通った、か、通る見込みがある。
原因A:請求して、記録して、通らなければ自分で伝える
原因Aの人は、自分で伝える道です。費用はかかりません。順番は4つです。
- 「後」の一言で請求する。
- 日付と返事を記録する。
- 断られたら、労働局の雇用環境・均等部(室)か総合労働相談コーナーに相談する。
- 最終日を決めて、店長に伝える。
記録は、メモで足ります。
| 日付 | 言ったこと | 店長の返事 | 出勤したか |
|---|---|---|---|
| 月 日 | 子の看護等休暇を1日 |
相談するときは、このメモを持っていきます。「代わりはいない」が不利益な取り扱いに当たるかは、相談先で確かめます。
最終日の決め方は、2つの日付を見ます。1つは、就業規則の退職の申し出の期間です。なければ、期間の定めのない雇用では申し入れから2週間で雇用が終わる決まり(民法627条1項)が目安です。もう1つは、シフトの締め日です。シフトが月の途中で切り替わるなら、その日に合わせると引き継ぎがしやすくなります。
パートで契約期間が決まっている人は、決まりが違います。契約期間の途中で辞めるには、原則としてやむを得ない事由が必要です(民法628条)。契約が1年を超える場合は、初日から1年たてば申し出で辞められます(労働基準法137条)。自分の契約書で、期間の定めがあるかを先に見ます。
店長に伝える文には、辞める理由の1行をそのまま入れます。
「○月○日で退職させていただきます。理由は、休みの制度が使えない職場だと分かったからです。退職届をお持ちしました」
詰まるのは、「辞めるなら今月のシフトは全部出て」と言われる所です。最終日までのシフトは、話し合いで決めます。出られない日は早めに伝え、折り合いがつかなければ総合労働相談コーナーに相談します。そして、最終日までのあいだに子どもが熱を出した日の休暇の請求は、辞めると伝えたあとも変わりません。在籍しているあいだは、同じ決まりの中にいます。
残っている有給も、同じです。退職するまでのあいだでも、有給休暇の請求はできます。退職日より後に時季(取る日)を変える余地がないため、退職までに残りの有給を使う請求には請求どおり与える、と労働局は説明しています。パートの有給は、週の所定労働日数に応じた日数です(労働基準法39条3項)。週4日なら6か月で7日、週3日なら5日、週2日なら3日、週1日なら1日が最低ラインです。
休暇の請求は、代行には頼めない
原因Bの道に入る前に、退職代行がこの記事の場面でどこまで引き受けるかを書きます。
熱の朝の休暇の請求は、代行には頼めません。休めなかった日の扱いや、未払いの分の話し合いも頼めません。弁護士でない代行が引き受けられるのは、本人が決めた退職の意思を会社に伝えることだけです。条件のやり取りは法律事務にあたり、弁護士でない者が報酬を受けて行うと弁護士法72条にふれるおそれがあります。弁護士会や労働委員会も、その線を越える代行については注意を呼びかけています。
だから、代行を使って変わるのは「辞めます」を店長に言うかどうか、その一点です。書類の受け取り、健康保険と年金の切り替え、保育園や学童への届け出は、自分で伝えても代行に頼んでも、自分がやります。
頼んだあとに自分でやることを、子どもの手続きを含めて並べます。
| 自分でやること | 期限や窓口 |
|---|---|
| 退職届を郵便局から送る | 最終日が分かる形で |
| 制服などの貸与品(会社から借りているもの)を返す | 送った日と中身を控える |
| 離職票と源泉徴収票を受け取る | 離職票を会社が出さないときはハローワークに申し出る。源泉徴収票は退職後1月(ひとつき)が交付の期限 |
| 健康保険と年金を切り替える | 国民健康保険は退職後14日以内、国民年金は退職日の翌日から14日以内に市区町村 |
| 保育園や学童に、仕事を辞めたことを届け出る | 求職中も保育を使える事由に入る。期間は90日を上限に市区町村が決めるので窓口で確かめる |
| 会社から直接来た連絡に対応する | 代行の「連絡は控えて」はお願いで、会社を縛る決まりではない |
| 休めなかった日の扱いでもめたら、自分で相談先に行く | 労働局の雇用環境・均等部(室)か労働基準監督署 |
使わない場合の代わりは、退職届を人事か本部に出す方法と、郵便局から送る方法です。店長に手渡さなくても、会社に届けば退職の意思表示になります。退職は本人の意思表示が会社に届いたときに効力が生じ、会社の承認は要りません(民法97条1項、労働局の説明)。
原因B:店長と話さずに伝える
原因Bの人は、退職代行を使う道です。「代わりはいない」と言われてから店長に何も言えなくなったなら、伝える役だけを頼む。ただし、頼む前に決めることが4つあります。
| 頼む前に決めること | 書く欄 |
|---|---|
| 最終日(就業規則の申し出期間か2週間、シフトの締め日を見て) | 月 日 |
| 残った有給を使いたいか(残り 日) | 使う/使わない |
| 制服などの返し方 | 郵便局から送る/ |
| 最終日までと、そのあとの子どもの預け先 |
4つが埋まったら頼みます。頼んだあとに自分でやる7つは、上の表のとおりです。
この道で詰まるのは、休めなかった日の扱いでもめる所です。代行は交渉できません。そのときは、労働局の雇用環境・均等部(室)か、労働基準監督署に、自分で相談します。相談には、熱の日のメモ(日付、言ったこと、返事、出勤したか)を持っていきます。
原因C:次の熱の日を期限にする
原因Cの人は、今は残る道です。ただし、期限と条件をつけます。
期限は、次に子どもが熱を出す日です。条件は、その日に「後」の一言で休みが通ることです。通れば、そのまま残ります。通らなければ、その週に最終日を決めて、原因AかBの道に移ります。
詰まるのは、次の熱がいつ来るか分からない所です。そのときは、期限を「次の熱の日」と「3か月後」の早いほうにします。3か月のあいだに熱が来なければ、3か月後の日に、「後」の一言を実際に言ってみるか、残ると決めるかを選びます。期限を決めておくと、「いつか来る熱の日」を待つだけの形に区切りがつきます。
次の熱の朝に家にいるための、3つの道
| 原因 | 道 | 選ぶ基準 |
|---|---|---|
| A:「後」で言える。断られ続けるなら辞めると決めている | 自分で伝える | 請求と記録を自分でできる。費用がかからない |
| B:「代わりはいない」から何も言えなくなった | 退職代行を使う | 伝える場面を作れないなら、伝える役だけを頼む。もめごとは自分で相談先へ |
| C:「後」で休みが通った、か、通る見込みがある | 今は残る(期限と条件つき) | 次の熱の日に「後」が通るかで決める |
代行は、休暇の請求も、休めなかった日の話し合いも、代わりにはしてくれません。頼めるのは「辞めます」を伝えることだけで、費用のかからない基本は自分で伝える道です。店長の一言で声が出なくなった人には、その一言だけを頼む道がある。どの道でも、「後」の一言を自分で持っておくことは変わりません。
財布に入れる一言、書く日付
原因Aの人は、「後」の一言を紙に書いて、声に出して読みます。子どもの学年と人数を入れた、自分の文にします。
原因Bの人は、代行に伝える最終日を1つ書きます。シフトの締め日を見て、まず仮の日付を書きます。
原因Cの人は、「後」の一言をメモに書いて、財布に入れます。次の熱の朝、電話の前に開くためです。
次の熱の朝、家にいる
最後の場面は、次に子どもが熱を出した朝です。
原因Aの人は、「後」の一言で休みを伝えて家にいます。それでも通らなくて辞めたあとなら、辞めたあとの朝として家にいます。原因Bの人は、辞めたあとの朝として家にいます。原因Cの人は、「後」の一言で休みが通って、家にいます。
どの道でも、その朝は子どものそばにいます。「代わりはいない」と言われて「はい…」と答えた朝を、くり返さない。そのために、「後」の一言と、通らないときの辞め方を、先に決めておきます。