子どもを保育園に預けて働き始めて、今は試用期間の途中。面接で「定時で帰れます」と聞いて入ったのに、毎日残業で、お迎えの締め時刻に間に合わない。延長保育を使う日が続いて、園からもらっていた延長保育の料金表を、はじめて開いた。この先ずっとこの額が続くのかと思ったら、このまま本採用になるのがこわくなった。
この記事を読むと、入社のときの書面に書かれた「残業の有無」と実際の退勤時刻を一日の時間割で比べて、残業の免除を請求するか、辞める日を決めるかを、試用期間が終わるまでに自分で選べます。読者が父親か母親かは決めていません。パートナーがいる人もいない人も同じ手順です。
言われた言葉ではなく、書面で決める
止まっている形は、こうです。「定時で帰れる」が事実と違うとき、残業を断れるのか。試用期間の途中で辞めてよいのか。そして、どちらを先にやるのか。この3つが決まっていないから、毎日お迎えに走りながら、何も動かせていない。
先に決めるのは、「書面に何と書いてあるか」です。言われた言葉ではなく、書面です。
試用期間の途中で辞めることについて、特別な決まりはありません。法律の条文を確かめた範囲では、「試用期間だから辞められない」という決まりも、「試用期間だから今日辞められる」という決まりもなく、期間の定めのない雇用(いわゆる正社員など)と同じ決まり(退職を申し入れてから2週間で雇用は終わる。民法627条1項)が当てはまります。この記事は、その期間の定めのない雇用の人に向けて書いています。
一日の時間割を、3行で書く
やることは、紙に3行書くことから始まります。
| 行 | 書くこと | 書き込む欄 |
|---|---|---|
| 1行目 | 入社のときの書面に書かれた終業時刻 | 時 分 |
| 2行目 | この2週間の、実際の退勤時刻(毎日) | 時 分/ 時 分/ 時 分/……(10日分) |
| 3行目 | 保育園のお迎えの締め時刻と、延長保育が始まる時刻 | 締め 時 分/延長 時 分 |
1行目と2行目の差が、残業の長さです。2行目と3行目の差が、延長保育に入っている長さです。この2つの差を数字で見ると、「毎日たいへん」が「書面より毎日○分長く、延長保育に毎日○分入っている」に変わります。会社に言うときも、相談するときも、使うのはこの数字です。
書面の「残業の有無」の欄を見る
1行目を書くには、入社のときの書面を開きます。会社は、労働契約を結ぶときに、始業と終業の時刻、所定労働時間を超える労働(残業)の有無などを、書面で示すことになっています(労働基準法15条1項、労働基準法施行規則5条)。2024年4月からは、就業場所と仕事の内容の変更の範囲も、書面に入りました。書面の名前は会社によって違います。「労働条件通知書」という名前のこともあれば、雇用契約書にまとめて書いてあることもあります。なお、この記事に出てくる労働の決まりと保育の決まりは、どちらも2026年10月時点のものです。制度は変わることがあるので、動く前に最新の案内を見てください。
その書面の、「所定労働時間を超える労働の有無」の欄を見ます。
| 書面の「残業の有無」の欄 | 書き写す |
|---|---|
| 「無」か「有」か |
「無」と書いてあって、2行目が毎日1行目より遅いなら、書面と事実が違います。「有」と書いてあるなら、面接の「定時で帰れます」は口の約束で、書面は残業ありになっています。この違いで、道が変わります。
書面が見つからない、もらった覚えがない、という人は、人事に「入社時の労働条件通知書を見たい」と聞きます。書面で示すことは会社の決まりなので、聞いてよいことです。
時間割の差をどこに持っていくか、3つの問い
3行の時間割と書面を手元に置いて、3つの問いに答えます。A・B・Cは、時間割の差をどこに持っていくかで分けたこの記事の整理で、診断ではありません。
- 書面の「残業の有無」は、「無」か「有」か。
- 書面と違うこと、あるいは残業が続いていることを、会社に伝えること自体はできるか。
-
残業が減れば残りたいか。それでも辞めたいか。
-
原因A:書面と実際が違い、会社に言っても変わる見込みがない。会社の人と話すことはできる(問い2が「できる」、問い3が「辞めたい」)。
- 原因B:上司に一度言ったら「試用期間中に文句か」と返され、もう話せない。顔を合わせずに終えたい(問い2が「できない」)。
- 原因C:残業の原因が今の時期(繁忙期、研修)で、終わる日が決まっている。残業が減れば残りたい(問い3が「残りたい」)。
問い1の答えは、どの原因にも関わります。「無」なら、原因AとBの人は「書面と違う」という事実を持って動けます。「有」なら、書面どおりの残業ということになるので、原因Aの人は「書面と違う」ではなく「残業が続いていて、お迎えに間に合わない」を伝えることになります。原因Cの人は、「無」でも「有」でも、残業の免除を請求する手が使えます。
書面と違うときは、動く前に相談する
原因Aの手順に入る前に、書面と事実が違うときの決まりを書きます。
示された労働条件が事実と違うときは、労働者はすぐに労働契約を解除できる、という決まりがあります(労働基準法15条2項)。ただし、自分の場合がこれに当てはまるかどうかは、個別の判断です。「書面に無と書いてあって残業があるから、今日辞められる」と、この記事で決めることはできません。
だから、動く前に相談します。相談先は、総合労働相談コーナーです。厚生労働省が各都道府県の労働局や労働基準監督署の中などに置いている窓口で、無料で、予約はいりません。書面と3行の時間割を持っていき、「書面には残業なしとあるが、この2週間の退勤時刻はこうです。どう動けばよいですか」と聞きます。相談すれば会社に何かをしてもらえる、という窓口ではありませんが、自分の場合に何が当てはまり、次に何をすればよいかを聞く場所です。
残業代が払われていない、と思う人は、労働基準監督署に相談します。給料の決まりに関わる話は、こちらが担当です。
原因A:書面と時間割を持って相談し、自分で伝える
原因Aの人は、書面と実際が違い、会社に言っても変わる見込みがなく、辞めると決めています。会社の人とは話せます。
手順は4つです。
1. 書面と時間割を手元に置く。 3行の時間割と、「残業の有無」の欄を書き写した紙。この2枚が、話すときの土台です。
2. 総合労働相談コーナーに相談する。 上の節のとおりです。自分の場合に労働基準法15条2項が関わるのか、申し出から何日で辞められるのか、を聞いてから動きます。
3. 上司に伝える。 文例です。
「入社時の書面では残業なしとなっていますが、この2週間、毎日○時まで働いています。残業なしに戻せないなら、○月○日で退職したいと考えています。」
最終日は、就業規則に申し出の期間があればそれに合わせ、なければ2週間以上あとの日にします。相談で聞いた内容があれば、それに従います。口で伝えたあと、同じ日付を書いた退職届を渡します。口頭でも退職の意思表示は有効とされていますが、行き違いを防ぐために書面を残すほうがよい、というのが労働局や自治体の説明です。
4. 保育園の窓口に、退職後の手続きを聞く。 辞めたあとも保育園を続けるには、「保育を必要とする事由」が要ります。仕事を探すこと(求職活動)も事由に入ります。ただし、求職活動を事由にした認定の期間は、国の決まりでは90日を上限に市区町村が定めることになっていて、実際の期間、必要な書類、届出の期限は、市区町村ごとに違います。それから、事由は保護者の両方が当てはまることが条件です。パートナーがいる人は、パートナーの事由も一緒に見ます。辞める前に、住んでいる市区町村の保育の窓口で、「退職して仕事を探す間、保育園を続けられるか。期間と届出は何か」を確かめます。
手が止まるとしたら、「試用期間中に文句を言うのか」と返される場面です。ここで言い返す必要はありません。日付と、書面の欄だけをくり返します。「書面の残業の欄は無でした。○月○日で、と考えています。」受け取ってもらえなければ、退職届を人事に渡すか、郵便局から郵送します。
代行が持っていけるのは「辞めます」だけ。時間割は持っていけない
原因Bの手順に入る前に、この記事の読者にとっていちばん大事な点を書きます。3行の時間割と「残業の有無」の欄は、退職代行が会社に持っていってくれるものではありません。
弁護士でない退職代行にできるのは、本人が決めた退職の意思を会社に伝えることまでです。「書面と違う残業があった」と会社に言うこと、残業代を請求すること、残業をなくすよう交渉すること、退職日や有給の条件を話し合うことは、法律の仕事に当たります。弁護士でない人が報酬を受け取ってこれを行うと弁護士法72条の問題になり、弁護士会や労働委員会が注意を呼びかけています。
だから、時間割の2行目(実際の退勤時刻)の行き先は、代行ではなく労働基準監督署です。残業代の話は、そこへ自分で持っていきます。代行に渡すのは「○日で辞める」の一点だけです。
もうひとつ、代行が持っていけないものがあります。保育園の手続きです。「保育を必要とする事由」が就労から求職活動に変わる届出は、会社ではなく市区町村の窓口に出すもので、代行は関わりません。書類の受け取り、健康保険と年金の切り替えも同じです。上司と顔を合わせる回数が減ること以外は、原因Aの人と同じことを自分でやります。
代行の費用は、延長保育の料金表と並べて見ておきます。頼む前に自分で見た額を、ここに入れてください。
| 代行の費用(自分で見た額) | 円 |
|---|---|
| 延長保育に、今月払った額 | 円 |
代行の費用をかけずに上司の顔を見ないで済ませる手も残っています。総合労働相談コーナーに相談してから、退職届を人事に渡すか、郵便局から送る方法です。
原因B:保育園の期限を先に確かめて、代行に頼む
原因Bの人は、一度言ったら「試用期間中に文句か」と返され、もう話せません。顔を合わせずに終えたい。この人の手順には、会社とは別の期限がひとつ入ります。保育園の窓口への届出の期限です。
頼む前に決めること(3つ)
| 決めること | 書き込む欄 |
|---|---|
| 最終日 | 月 日 |
| 保育園の窓口への届出の期限 | 月 日(窓口で聞く) |
| 貸与品(鍵、社員証など)の返し方 | 郵送/人事に渡す |
保育園の窓口への届出の期限が、最終日より先に来ることがあります。辞めたあとに「届出が遅れて続けられない」とならないように、頼む前に窓口で確かめます。聞くことは原因Aの4と同じです。「退職して仕事を探す間、保育園を続けられるか。期間と届出は何か。」保護者の両方の事由が要ることも、同じです。
頼む。 決めた3つを渡します。代行は、本人が決めた意思を会社に伝えます。
頼んだあとは、時間割に4行目を足す。
4行目は「辞めたあとの予定」です。時間割の下に、日付つきで並べます。
| 4行目に書くこと | いつ |
|---|---|
| 退職届を郵便局から送る(最終日を書き、日付を入れる) | 頼んだ日のうちに |
| 貸与品を返す | 最終日まで |
| 保育園の認定の変更の届出をする。事由が「就労」から「求職活動」に変わるので市区町村の窓口へ。届の名前と期限は、頼む前に聞いた内容に従う | 窓口で聞いた期限まで |
| 離職票と源泉徴収票を受け取る。届かなければ、離職票はハローワークに、源泉徴収票は税務署に | 最終日のあと |
| 健康保険と年金を切り替える。期限が短い手続きがある | 最終日の翌日に市区町村の窓口で聞く |
会社から直接電話や連絡が来たら、答えます。代行の「本人に直接連絡しないでほしい」はお願いで、会社を縛らないので、来ることはあります。答える中身は「退職の意思は伝えたとおりです」の一点で、時間割の数字をそこで持ち出す必要はありません。
手が止まるとしたら、残業代の未払いがありそうだ、と気づいたときです。代行は請求できません。頼む前でも頼んだあとでも、3行の時間割を持って、自分で労働基準監督署に相談します。時間割の2行目は、そのときの材料になります。
原因C:試用期間の終わりを期限に、残業の免除を請求する
原因Cの人は、残業の原因が今の時期(繁忙期、研修)で、終わる日が決まっていて、残業が減れば残りたい人です。この人は、今は残ります。ただし、期限と条件をつけて残ります。
期限は、試用期間が終わる日です。カレンダーに書きます。
条件は、残業の免除を請求して、それが通ることです。
残業の免除という決まり
小学校に上がる前の子どもを育てている人は、会社に「所定労働時間を超えて働かせないでほしい」と請求できます(育児・介護休業法16条の8)。これを所定外労働の制限、ふだんの言い方では残業の免除と言います。2025年4月1日から、対象が小学校に上がる前の子を育てる人まで広がりました。
請求は、1回につき1か月以上1年以内の期間を決めて、始めたい日の1か月前までに行います。会社は、「事業の正常な運営を妨げる場合」を除いて断れないことになっています。この判断は、仕事の内容、忙しさの波、代わりの人を置けるかなどを見て客観的に行うとされていて、単に忙しいというだけでは断れないとされています。
ただし、2つ、確かめることがあります。ひとつは、会社に労使協定があって、その会社で続けて働いた期間が1年未満の人を対象外にしている場合があることです。試用期間の途中なら、入社1年未満に当たります。協定がなければ対象になり、協定があれば対象外になる。これは会社ごとなので、人事に聞きます。もうひとつは、「事業の正常な運営を妨げる場合」という例外です。請求すれば通る、とは言えません。
手順
1. 人事に聞く。 文例です。
「小学校に上がる前の子を育てているので、所定外労働の制限を請求したいと考えています。入社1年未満の人を対象外にする労使協定はありますか。請求の書式はありますか。」
2. 書面で請求する。 会社の書式があればそれで出します。なければ、人事に何を書けばよいかを聞いて、書面で出します。口頭ではなく書面にするのは、出した日付を残すためです。
3. 通れば、残る。 期限の日までに通れば、残業の免除を受けながら残る方に決めます。
4. 通らなければ、期限の日に辞める方に決める。 対象外だった場合も、「事業の正常な運営を妨げる」として断られた場合も、期限の日に最終日を決めて、原因AかBの手順に進みます。期限を動かさないことが大事です。動かすと、本採用になってから同じ日が続くことがあります。
手が止まるとしたら、「忙しいから」と断られたときです。単に忙しいだけでは断れないとされています。断られた理由を書面でもらえるか聞き、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談します。育児の制度に関わる相談は、この窓口が担当です。自分の場合が例外に当たるかどうかは、そこで確かめます。
時間割の差を、どこへ持っていくか
3つの道は、3行の時間割の差を、どこに持っていくかで分かれます。
原因Aの人は、差を総合労働相談コーナーに持っていき、そのあと上司に持っていきます。「書面と違う」を自分の口で言い、日付を添えて辞める。費用はかからず、これが基本の形です。
原因Bの人は、差を労働基準監督署に持っていき(残業代の話があれば)、上司には持っていきません。上司に渡すのは「○日で辞める」の一点で、それを代行が届けます。代行は差を持っていけないので、差の行き先は自分で決めます。
原因Cの人は、差を人事に持っていきます。「残業の免除を請求したい」の根拠として。通れば残り、通らなければ期限の日にAかBの道に入ります。「本採用になったら変わるかも」と期限を置かずに待つのは、差をどこにも持っていかないことです。
今日、書き写す1か所
- 原因Aの人:書面の「残業の有無」の欄を見て、書き写す。「無」か「有」か。
- 原因Bの人:保育園の窓口に聞くことを、1つ書く。「退職して仕事を探す間、続けられるか。期間と届出は何か。」
- 原因Cの人:残業の免除を人事に聞く一文を書く。上の文例の○を埋める。
どれも、今日の寝る前に、紙1枚でできます。3行の時間割は、明日の退勤時刻から書き始めればよいです。
お迎えの締め時刻より前に、園の門に立つ
延長保育をやめる届を、園に出す。試用期間が終わる前の、ある日。お迎えの締め時刻より前に、園の門に立っている。
原因Aの人は、辞めて、次を探す間に。原因Bの人も同じ。原因Cの人は、残業なしで働いて、同じ時刻に。時間割の3行目に書いた締め時刻は、3つの道のどれを通っても、同じ時刻のままです。
延長保育の料金表は、閉じます。開いたから、ここまで来られました。