この記事を読むと、「退職代行を使うかどうか」ではなく「自分がどう辞めるか」を、友人に会う前に自分で決められます。友人に言う一文と、返ってきそうな言葉への返事も、先に用意できます。
鏡の前で「代行で辞めた」と三回言ってみた
入社して半年。上司に「辞めます」と言う場面が作れず、退職代行を調べている。次の休みには友人と会う約束がある。そこで「代行で辞めた」と話したら笑われそうで、頼むのをためらっている。鏡の前で「代行で辞めた」と口に出す練習を三回した。三回言っても、頼む手は動かなかった。
止まっている理由をほどくと、ひとつの形になります。代行を使うかどうかを、友人にどう見られるかで決めようとしていて、肝心の「自分がどう辞めるか」がまだ決まっていない、という形です。辞め方が決まっていないから、友人への言い方も決まらず、言い方が決まらないから、代行に頼む手も止まる。順番が逆になっています。
先に決めるのは辞め方です。友人への一文は、辞め方が決まれば自然に決まります。
ひとつだけ先に確かめてください。入社のときにもらった書面に、契約の期間が書かれているかどうかです。この記事は、期間の定めのない雇用(いわゆる正社員など)の人に向けて書いています。アルバイトや契約社員のように期間が決まっている人は、途中で辞めるのに「やむを得ない事由」が要るという別の決まり(民法628条)があり、辞め方が変わります。なお、ここに出てくる法律の話は2026年10月時点の決まりで、あとで変わることがあります。
友人に会う前に決める3つ
友人に会う前に決めるのは、次の3つだけです。
| 決めること | 書き込む欄 |
|---|---|
| 最終日 | 月 日 |
| 伝え方(自分で言う/代行に頼む) | |
| 「で、次は?」への1行 |
3つ目が意外に思えるかもしれません。でも、友人に「辞めた」と話したとき、返ってきそうな言葉の1つが「で、次は?」です。この1行を持っているかどうかで、友人の前での自分の落ち着きが変わります。
1行は大きなものでなくてかまいません。「求人を見る」「ひと月休む」「資格の本を開く」のどれか1つで足ります。決まっていないなら「ひと月休む」でもよいのです。休むと決めたなら、それも次の予定です。
友人に言う一文と、返ってきそうな言葉
友人に言う一文は3つのうちどれかになります。辞め方が決まれば、どれを言うかも決まります。
- 「代行で辞めた」
- 「自分で言って辞めた」
- 「まだ辞めてない。○日までに決めると決めた」
そして、どの一文を言っても、返ってきそうな言葉として、この記事では4つを置きます。先に対にして並べておきます。真ん中の欄は、そのまま口に出せる返事の例です。右の欄に、自分の言葉に直して書き込んでください。
| 返ってきそうな言葉 | 返す一文の例 | 自分の言葉で |
|---|---|---|
| 「で、次は?」 | 「求人を見る」「ひと月休む」「資格の本を開く」のどれか1つ | |
| 「え、自分で言えなかったの?」 | 「辞めると決めたのは自分。会社と連絡を取らずに終えると決めただけ」 | |
| 「大丈夫?」 | 「大丈夫。最終日は○日で、そのあとは(次の1行)」 | |
| 「いくらかかったの?」 | 「それは自分で見て決めた。言いたくなったら言う」 |
この表で気づくことがあります。「自分で言えなかったの?」への返事は、代行を使ったことを謝る文ではありません。決めたのは自分で、代行は伝える役だった、という事実を言うだけです。これは本当のことです。退職代行は、本人が決めた退職の意思を会社に伝える役で、辞めると決めるのは本人だからです。
それから、代行を使ったことを友人に話すかどうかは、自分で選べます。辞め方は会社と自分の間のことで、友人に報告する決まりはありません。「自分で言って辞めた」と言う必要もなく、ただ「辞めた」とだけ言う選び方もあります。話すか話さないかを、友人に会う前に決めておくと、席についてから迷いません。
どの一文を言うかを決める、3つの問い
ここからは、辞め方を決めるために、自分の今の状態を見分けます。次の3つの問いに答えてください。A・B・Cの分け方は、友人への一文を決めるためにこの記事が整理したもので、診断ではありません。
- 上司に直接「辞めます」と言う場面を、今の自分は作れるか。
- 代行をためらう理由は、友人の目か、それとも代行にできること・できないことを知らないことか。
- 辞めたい理由は、半年たって仕事に慣れると変わるものか。
答えの組み合わせで、3つの原因のどれに近いかが見えます。
- 原因A:上司に言えば伝えられる(問い1が「作れる」)。代行を調べていたのは、言い方と最終日を決めていなかっただけ。
- 原因B:上司に言う場面を作れない(問い1が「作れない」)。会社と連絡を取らずに終えたい。ためらっていたのは友人の目だけ(問い2が「友人の目」)。
- 原因C:辞めたい理由が、半年目の仕事の量や覚えることの多さで、慣れで変わる見込みがある(問い3が「変わる」)。
問い2の答えが「代行にできることを知らない」だった人は、あとの「代行は伝える役。決めるのは自分」を読んでから、もう一度問い1に戻ってください。知ったうえで「それでも自分では言えない」ならB、「知ったら自分で言えそう」ならAです。
原因が2つにまたがる感じがするときは、問い3から見ます。理由が慣れで変わるならC。変わらないなら、問い1の答えでAかBに分かれます。言う場面を作れるかどうかが、道を分けるいちばん大きな線だからです。
原因A:言い方と日付が決まれば、自分で言える
原因Aの人は、代行を使わなくても辞められます。止まっていたのは、言い方と日付が決まっていなかったからです。
手順は4つです。
1. 最終日を決める。
就業規則に退職の申し出の期間(「1か月前まで」など)が書かれていれば、それに合わせて最終日を決めます。書かれていなければ、法律の決まりが目安になります。期間の定めのない雇用では、退職を申し入れてから2週間がたつと雇用は終わる(民法627条1項)と定められています。期間の定めのない雇用では2週間で退職が成立すること、就業規則の申し出期間が常識的な長さならまずそれに沿って申し出るのがもめにくいことを、労働局は説明しています。2週間は法律上の最低線です。就業規則がどこにあるか分からなければ、人事に「就業規則を見たい」と聞きます。会社は就業規則を、働く人が見られる場所に置くか、書面で渡すか、パソコンなどで見られるようにしておくことになっています(労働基準法106条1項)。
2. 最初の一文を決める。
上司に言う最初の一文は、長くしないほうが言えます。例は次のとおりです。
「お話があります。○月○日で退職したいと考えています。」
理由は、聞かれたら1行で答えます。聞かれなければ言わなくてかまいません。理由を長く用意すると、そこを突かれたときに言葉が止まります。日付のほうが、くり返しやすい言葉です。
3. 伝える。
口で伝えたあと、同じ日付を書いた退職届を渡します。口頭でも退職の意思表示は有効とされていますが、行き違いを防ぐために書面を残すほうがよい、というのが労働局や自治体の説明です。受け取ってもらえなければ、人事に渡すか、郵便局から郵送します。退職は会社の承認が要るものではなく、意思が会社に届けば決まりのとおりに進みます。
4. 友人には「自分で言って辞めた」と、次の1行を添えて話す。
止まるとしたら、「半年で辞めるのか」と言われる場面です。辞める決まりに勤続の長さは関係ありません。民法627条1項に「何年働いたら」という条件はなく、就業規則の申し出期間も日数の話で、勤続の長さの話ではありません。言われたら、最終日の日付をもう一度伝え直します。「はい。○月○日で、と考えています。」それだけで足ります。
有給が残っている人は、その残りを使って辞める人もいます。雇い入れから6か月続けて働き、全労働日の8割以上出勤していれば10労働日の有給がつく(労働基準法39条1項)ので、入社半年の人にも当てはまる場合があります。ただし、残りを全部その日に当てられるかは会社との調整になるので、「○日から有給を使いたい」と、退職の申し出と同時に早めに伝えます。
代行は伝える役。決めるのは自分
原因Bの人の手順に入る前に、「自分で言えなかったの?」への返事の中身を、決まりの側から確かめておきます。返事は「決めたのは自分。代行は伝えただけ」でした。これは言い訳ではなく、代行の仕組みそのものです。
代行ができることと、できないことを対にします。
| 代行がすること | 代行がしないこと(自分がすること) |
|---|---|
| 本人が決めた「○日で辞める」を会社に伝える | 辞めると決めること |
| 「本人に直接連絡しないでほしい」と会社にお願いする | そのお願いを会社に守らせること(会社を縛る力はない) |
| 伝えて終わり | 退職日や有給の条件を会社と話し合うこと、お金を請求すること |
右の列の3つ目が、いちばん大事です。退職日や有給などの条件、残業代や退職金などのお金を会社と話し合うことは法律の仕事に当たり、弁護士でない人が報酬を受け取って行うと弁護士法72条の問題になります。弁護士会や労働委員会が、この点について注意を呼びかけています。条件やお金で困ることがあれば、代行ではなく、総合労働相談コーナー(無料・予約不要)や労働基準監督署へ、自分で相談します。
だから、自分で伝える道と代行の道の違いは、上司と顔を合わせて話すかどうか、それだけです。退職届、貸与品、書類、保険の切り替えは、どちらの道でも自分の手でやります。
友人の「いくらかかったの?」への返事は「自分で見て決めた」でした。その額は、頼む前に自分で見て、この欄に入れておきます。
| 「いくらかかったの?」に答える額 | 円 |
|---|---|
代行を使わずに上司と話さずに済ませる手も、ひとつ残っています。退職届を人事に直接渡すか、郵便局から郵送する方法です。上司の顔を見ずに済ませたいだけなら、この手が先にあります。
原因B:返す一文を持って、会社と話さずに伝える
原因Bの人は、上司に言う場面を作れません。それ自体は、辞める決まりの中では問題になりません。退職の意思が会社に届けば、雇用は決まりのとおりに終わります。代行はその「届ける」役です。
頼む前に決めること(4つ)
| 決めること | 書き込む欄 |
|---|---|
| 最終日 | 月 日 |
| 残った有給を使いたいか | 使う/使わない |
| 貸与品(鍵、社員証、パソコンなど)の返し方 | 郵送/人事に渡す |
| 友人への一文 |
最終日の決め方は原因Aと同じです。就業規則の期間か、なければ2週間以上あとの日です。有給を使いたい場合は、その希望を代行に伝えてもらうことになりますが、代行は条件を話し合えないので、会社がどう返すかはそのときの会社の対応になります。
頼む。 決めた4つを渡します。代行は、本人が決めた意思を会社に伝えます。
頼んだあとは、最終日の前と後に分けて動く。
最終日までにやるのは2つです。退職届を郵便局から送ること(最終日を書き、日付を入れる)。貸与品を返すこと。この2つは、友人に会う日の前に終えておけます。
最終日のあとにやるのは3つです。
- 離職票と源泉徴収票を受け取る。届かなければ、離職票はハローワークに、源泉徴収票は税務署に相談できます。
- 健康保険と年金を切り替える。期限が短い手続きがあるので、最終日の翌日には市区町村の窓口で聞きます。
- 会社から直接電話や連絡が来たら、答える。代行のお願いは会社を縛らないので、来ることはあります。来たときに言うのは、友人への返事と同じ中身です。「決めたのは自分で、意思は伝えたとおりです。」それ以上を足しません。
止まるとしたら、手順の前です。友人に笑われる気がして、頼むところで止まることです。
そのときは、表の「え、自分で言えなかったの?」への返す一文を、声に出してみてください。「辞めると決めたのは自分。会社と連絡を取らずに終えると決めただけ。」鏡の前の三回の練習は、「代行で辞めた」の一文だけでした。足りなかったのは、そのあとの返事です。返事まで声に出しておくと、頼む前に止まる理由が1つ減ります。
原因C:入社1年を期限にして、1つ聞く
原因Cの人は、辞めたい理由が「半年目の仕事の量」や「覚えることの多さ」で、慣れで変わる見込みがあります。この人は、今は残ります。ただし、期限と条件をつけて残ります。
期限は、入社1年の日です。カレンダーに書きます。
条件は、変わってほしいことを1つだけ決めることです。担当の範囲、人の数、教えてくれる人、のどれか1つ。そして、それを上司に聞きます。
「○○について、入社1年のころまでに変わる見込みはありますか。」
答えがどうであれ、期限の日に、変わったかどうかで決めます。変わっていれば残り、変わっていなければ最終日を決めます。
止まるとしたら、聞いても変わらないときです。ここで期限を動かしてしまうと、半年後にまた同じところにいます。期限は動かさず、その日に最終日を決めます。そして原因AかBの手順に進みます。
友人には「まだ辞めてない。○日までに決めると決めた」と話します。これは逃げの言葉ではなく、期限を自分で切った人の言葉です。「で、次は?」と聞かれたら、「○日に決める。それまでは今の仕事」と答えられます。
道を選ぶことは、友人に言う一文を選ぶこと
ここまで読むと、友人に言う3つの一文が、そのまま3つの道だったことが分かります。
「自分で言って辞めた」は、原因Aの道です。言う場面を作れる人が、言い方と日付を決めて自分で伝える。費用はかからず、これが辞め方の基本の形です。
「代行で辞めた」は、原因Bの道です。言う場面を作れない人が、決めたことを代行に届けてもらう。代行は何でも解決する道具ではなく、伝える役を代わる手段です。
「まだ辞めてない。○日までに決めると決めた」は、原因Cの道です。理由が慣れで変わる見込みがある人が、入社1年を期限に、条件を1つ置いて残る。期限のない「もう少し様子を見る」は、この一文になりません。日付が入って初めて、友人に言える一文になります。
つまり、友人に会う前に決める「伝え方」の欄を埋めることが、道を選ぶことそのものです。
友人に会う前に、紙に書く1行
道を選んだら、今日書くのは1行です。
- 原因Aの人:上司に言う最初の一文。「お話があります。○月○日で退職したいと考えています。」の○を埋める。
- 原因Bの人:「で、次は?」への1行。「求人を見る」「ひと月休む」「資格の本を開く」のどれか1つ。
- 原因Cの人:変わってほしいこと1つ。担当、人の数、教える人、のどれか。
Bの人の1行が「代行に頼む」ではないことに、意味があります。頼むのは手続きで、今日の1行は、友人に会う日の自分を決めることです。これが決まっていれば、頼むところで止まる理由が1つ減ります。
友人に「辞めた」と話す日
休みの日、友人と会う。席について、しばらくして「辞めた」と言う。
返ってくるのは、たぶん「で、次は?」。
そのとき、答えの1行をもう持っている。「求人を見る」でも「ひと月休む」でも「資格の本を開く」でも。それをそのまま言う。辞め方の話はそこで終わり、次の話が始まる。
どの道で辞めた人も、この席では同じ一文「辞めた」から始まります。「自分で言って」でも「代行で」でも、そのあとに続く「で、次は?」と、持っている1行は同じだからです。
原因Cの人は、同じ席で「○日までに決める」と話します。そして、その日が来て決めたら、次に会うときに同じ場面に着きます。「辞めた」「で、次は?」。そのときの1行も、今のうちに書いておけます。