この記事を読むと、同僚と施設長に言われそうな言葉ごとに返す一文を先に持ち、辞めにくさの原因がどれかを決めて、同僚に話す日と施設長に伝える方法を決められます。
休憩室で、辞める話を飲みこんだ
介護施設で働いて2年目、夜勤もある人の話です。同じ年に入った同僚とは、休憩室で昼ごはんを一緒に食べています。
辞めたい、ともう決めています。でも昼ごはんのとき、同僚に「あなたまで辞めたら、私どうすればいいの」と言われて、口まで出かかった話を飲みこみました。先月も先輩が二人辞めました。施設長は「今は人がいない」とだけ言います。
それから頭にあるのは、辞める手続きのことではなく、同僚を残して出ていく自分を、同僚がどう思うかということばかりです。
ここで分けたいのは、辞めにくいのが「同僚への気がね」なのか、「施設長に伝える場面を作れないこと」なのか、「同僚が辞める予定を知らないこと」なのか、という点です。この三つを分けていないと、同僚にも施設長にも何も言えないまま、次のシフト表が出ます。
この記事は、期間の定めのない雇用で働いている人に向けて書いています。契約職員など、期間を決めて働いている人は、辞めるときの決まりが別(民法628条)になります。その場合は、契約書の期間と、総合労働相談コーナーで確かめてください。
言われそうな言葉と、返す一文を、対にして並べる
まず、同僚と施設長に言われそうな言葉を左に、自分が返す一文を右に置いて、一組ずつ対にします。右の欄は文例です。そのまま使っても、自分の言葉に直してもかまいません。
同僚に言われそうな言葉
| 言われそうな言葉 | 返す一文(文例) |
|---|---|
| 「あなたまで辞めたら、私どうすればいいの」 | 「辞める日は○月○日に決めた。その前に、来月の○日、昼ごはん一緒に食べよう」 |
| 「私も辞めたいけど、辞められない」 | 「辞めるかどうかは別で決めよう。まず○日の昼ごはん、空けておいて」 |
| 「辞めてもごはん行こうね」 | 「行こう。最初の一回は○日。場所はあとで決めよう」 |
同僚への一文は、どれも「辞める日より先に、次の昼ごはんの日を言う」形にしてあります。辞める日を言うと、同僚の頭には「いなくなる日」が残ります。先に昼ごはんの日を言うと、「次に会う日」が残ります。言う順番だけの話ですが、何から口に出すかが一つ決まります。
施設長に言われそうな言葉
| 言われそうな言葉 | 返す一文(文例) |
|---|---|
| 「今は人がいない」 | 「分かっています。退職日は○月○日で、それまでの引き継ぎ表を作ります」 |
| 「次の人が入るまで待って」 | 「退職日は変えません。その日までに、担当の利用者さんごとの引き継ぎ資料を残します」 |
| 「夜勤の穴はどうするの」 | 「退職日までのシフトは、出ている分は入ります。それ以降の組み方は、お任せします」 |
施設長への返し方の下に、決まりを置いておきます。
期間の定めのない雇用では、退職の申し入れをした日から2週間がたつと、雇用は終わります(民法627条1項)。「新しい人が見つかるまで待て」と言われても、申し入れから2週間で退職の効力が生じる、と労働局は説明しています。後任が来るまで働く義務を定めた法律はありません。
ただし、就業規則に「1か月前までに申し出る」のような決まりがあり、それが常識的な長さなら、まずその期間に合わせて申し出るほうが、もめごとは少なくなります。2週間は法律上の最低線です。就業規則の期間が極端に長い場合の扱いは個別の判断になるので、総合労働相談コーナーで確かめてから使ってください。
もう一つ。引き継ぎをまったくしない場合は問題が起きることもある、と労働局は注意しています。損害賠償の話は民事の問題で、できるかどうかは個別の判断です。「引き継ぎをしなくても何も起きない」とは言えません。だから、施設長への返し方には、どれも「引き継ぎ表を作る」が入っています。退職日は動かさず、引き継ぎは残す。これが、もめにくい現実的な線です。
夜勤やシフトの決まりは施設ごとに違います。「夜勤の穴をどうするか」は、施設との話し合いで変わります。この記事で決められるのは、自分がどこまで入るかを先に言っておくことまでです。
ここまでの決まりは2026年10月時点のものです。法律や制度は変わることがあります。
返す言葉が出ない組に、印をつける
六つの対を上から見て、「右の一文を、相手の顔を見て言える」と思えた組はそのまま。言えない、声にならない、と思った組に印をつけてください。
印がついた場所が、原因の手がかりです。同僚の三つに印がつくのか、施設長の三つに印がつくのか、両方なのか。次の問いで、それを原因に変えます。
印がついた組で、原因を決める
この原因の分け方は、この記事での整理です。診断ではありません。
問い① 返せないのは、同僚への言葉か、施設長への言葉か。
印が同僚の側にだけついたなら、辞めにくさは同僚への気がねです。施設長の側にもついたなら、問い②へ。
問い② 施設長に「辞めます」と言った先輩が、そのあと何を言われたかを、見たか。
先輩が人前で責められるのを見ていて、自分が同じ場面に立つことを思うと言えない。そうなら、辞めにくさは「言う場面を作れないこと」です。
問い③ 同僚が辞める予定や異動の予定を、聞いたことがあるか。
一度も聞いたことがなく、「自分だけが残して出ていく」と決めつけているなら、辞めにくさは「同僚の予定を知らないこと」です。
三つの問いから、原因は次のどれかになります。
| 原因 | 中身 | 道 |
|---|---|---|
| A | 辞めにくいのは同僚への気がねだけ。施設長に伝えることはできる | 自分で伝える |
| B | 施設長に言った先輩が人前で責められたのを見て、自分で言う場面を作れない。顔を合わせて言えない | 退職代行を使う |
| C | 同僚が辞める予定も異動の予定も聞いていない。自分だけ残る、と決めつけている | 今は残る(期限と条件つき) |
原因が一つなら道は一つです。二つ以上に当てはまると感じたら、問い③を先に片づけてください。同僚の予定を聞いていないまま、AやBに進むと、話す順番が崩れます。
原因A:同僚に先に話して、自分で出す
Aの人は、施設長に伝えること自体はできます。止めているのは同僚の顔です。だから、順番を「同僚が先、施設長があと」に固定します。
手順1 同僚に先に話す。
休憩室の昼ごはんで、上の文例を使います。辞める日と、次の昼ごはんの日を一緒に言います。「辞める日は○月○日。その前に来月の○日、昼ごはん一緒に食べよう」。この一文を言い終えるまでが、Aの最初の山です。
手順2 退職日を書いた退職届を、施設長に出す。
口で伝えるだけでも退職の申し入れは成り立ちますが、あとで「聞いていない」と言われないように、書面で出すほうが望ましい、と労働局は説明しています。退職日は、就業規則の申出期間が常識的な長さなら、それに合わせた日にします。就業規則は、見やすい場所への掲示や書面の交付などで働く人が見られるようにしておく決まりがあるので(労働基準法106条1項)、事務所で見せてもらってください。
手順3 引き継ぎの資料を、担当している利用者ごとに書いて残す。
利用者ごとに、ふだんの様子、気をつけること、家族への連絡の仕方、最近変わったことを一枚ずつ。これが、施設長への「引き継ぎ表を作ります」の中身になります。
詰まる所と次の手。
退職届を出したあとで「次の人が入るまで待って」と言われたら、退職日は変えません。返す一文は「退職日はそのままで、その日までの引き継ぎ表を作ります」。それでも押されるときは、申し入れから2週間で雇用が終わる決まりを使うことになりますが、使う前に総合労働相談コーナーで自分の場合を確かめてください。費用はかからず、予約もいりません。
最初の一手。
同僚に言う一文を、上の表の右の欄に1つ書く。日付の○を埋めるところまでです。
代行はシフトの話をしない
Bの道に進む前に、介護職の人が代行に頼めること、頼めないことを分けておきます。
頼めるのは、本人が決めた退職の意思を、施設に伝えることまでです。夜勤のシフトをどこまで入るか、最後の給料、残っている有給の扱いといった、条件やお金の話し合いは頼めません。弁護士でない人が報酬を受けて法律事務を扱うことは、弁護士法72条で禁じられていて、弁護士会や労働委員会がこの点について注意を呼びかけています。シフトの話は、自分が施設と決めることです。
自分で伝える道との違いは、一つだけです。施設長と顔を合わせて最初の一言を言うのが自分か、代行か。退職届を書くこと、利用者ごとの引き継ぎ資料を作ること、離職票や源泉徴収票を受け取ること、健康保険と年金を切り替えること。これらは、頼んだあとも自分の手でやります。
代行の料金:( 円)←自分で見た額を書く。この額で頼むのは、施設長への最初の一言だけです。
自分で伝える道には、この料金がかかりません。それが基本の道で、代行は、先輩が責められるのを見てしまって最初の一言がどうしても出ない人のための道です。
代行を使わない場合の代わりは、施設長ではなく、法人の本部や人事に退職届を書面で出す方法です。退職の意思は施設に届けば効力があるので、相手を施設長に限る必要はありません。
原因B:同僚に話してから、代行に任せる
Bの人は、先輩が責められた場面を見ています。施設長と顔を合わせて「辞めます」と言う場面を、自分では作れない。その一言だけを、代行に頼みます。
手順1 頼む前に決めること。
三つあります。退職日。同僚にはいつ自分の口で話すか。夜勤のシフトのどこまで入るか。この三つは、代行が施設に伝える中身になるので、頼む前に自分で決めます。代行は決めてくれません。
手順2 代行が、施設長に退職の意思を伝える。
代行の役割は、この一言を伝えたところで終わります。
手順3 頼んだあとに、自分でやること。
まず退職届を郵送します。制服と鍵を返します。次に、離職票と源泉徴収票を受け取ります。離職票は、施設が手続きをしない場合でも、ハローワークに申し出れば本人の請求で手続きが進みます。源泉徴収票は、退職後1月が交付の期限とされています。そして、健康保険と年金を切り替えます。国民健康保険と国民年金への切り替えは、原則として退職日の翌日から14日以内に市区町村の窓口へ。健康保険の任意継続を選ぶなら、退職日の翌日から20日以内の申し出が要ります。
最後に、施設から直接連絡が来たときの返し方を決めておきます。代行が「本人への連絡は控えてほしい」と伝えることはできますが、それは依頼であって、施設を縛るものではありません。電話が来ない、とは言えません。来たときに出るか、書面で返すかを、先に決めておきます。
詰まる所と次の手。
一番詰まるのは、代行で辞めたことを、同僚が施設長から聞く場面です。これを避ける手は一つで、頼む前の日に、同僚へ自分の口で話しておくことです。使う一文は、Aと同じです。「辞める日は○月○日。その前に来月の○日、昼ごはん一緒に食べよう」。施設長に言えないことと、同僚に言えないことは別です。
最初の一手。
同僚に話す日を、代行に頼む日より前に決める。カレンダーに、二つの日を順番どおりに書くところまでです。
原因C:同僚に一問だけ聞いてから、決める
Cの人は、同僚が辞める予定も異動の予定も聞いたことがありません。それなのに「自分だけが残して出ていく」と決めています。決めつけたまま辞める日を決めると、同僚にかける言葉がずっと「ごめん」になります。
期限。
次のシフト表が出る日に置きます。その日まで、施設長には何も言いません。
手順1 その日までに、同僚に一問だけ聞く。
「この先、どうするつもり?」。この一問だけです。自分が辞めることは、まだ言いません。昼ごはんのときに、ふつうの話の続きで聞きます。
手順2 答えを聞いた日に、AかBを決める。
同僚が続けるつもりだと分かったなら、残して出ていくのは事実になります。そのうえで、原因がAかBかを、上の問い①と②で決めます。同僚も辞めたいと分かったなら、下の詰まる所へ。
手順3 残る間に、担当の引き継ぎ資料を書き始める。
AでもBでも引き継ぎ資料は要ります。残っている間に、利用者ごとに一枚ずつ書いておけば、どちらに進んでも手順3が短くなります。
詰まる所と次の手。
聞いたら、同僚も辞めたいと言った。このとき、二人で同じ日に辞める話にはしません。同じ日に二人が抜ける穴は、施設長にとって、二人とも引き止める理由になります。それぞれの退職日を別に決めてください。先に決めたほうが先に出し、あとの人はその日を見て自分の日を決める。昼ごはんの日は、二人の退職日のどちらより先に置きます。
最初の一手。
同僚に聞く一問を、紙に書く。「この先、どうするつもり?」の一行だけです。
昼ごはんの日を先に置ける順で、道を選ぶ
三つの道で迷ったら、「同僚に昼ごはんの日を先に言える順」で見てください。
同僚の予定を聞いたことがないなら、まだ昼ごはんの日を切り出せません。C。聞いてあって、施設長に言うこと自体はできるなら、昼ごはんの日を言ったその足で退職届を出せます。A。聞いてあって、施設長の顔を見ると一言が出ないなら、昼ごはんの日を言ってから、施設長への一言だけを代行に渡します。B。
料金がかかるのはBだけです。Aで行けるなら、A。Cから進むときも、この順で見ます。
辞める日より先に、昼ごはんの日を言う
最後の場面は、どの道でも同じところに着きます。
Aの人は、退職届を出す前の昼に。
Bの人は、代行に頼む前の日に。
Cの人は、シフト表が出た日に。
休憩室で、同僚に、辞める日より先に、次の昼ごはんの日を自分から言います。「来月の○日、昼ごはん一緒に食べよう」。
辞めたあとに昼ごはんが続くかどうかは、ここでは約束しません。続くこともあれば、一回で終わることもあります。ただ、最初の一回の日付は、同僚が決めるのでも施設長が決めるのでもなく、自分が決めます。
その日付を、上の表の右の欄に書いてください。辞める日の欄は、そのあとで埋めればいいです。