この記事を読むと、友人に一問だけ聞いて、その答えを「どの辞め方でも起きること」「代行を使ったから起きたこと」「友人の事情」の3つに仕分けられます。そのうえで、自分の辞め方を「三分」の話ではなく、辞めた翌月の自分の数字で決められます。
休憩室で聞いた「三分」と、気になった翌月
小売店で働いて2年目の人の話です。同じ時期に働きはじめた友人が、退職代行で辞めました。久しぶりに会った友人は「電話で三分だったよ」と話します。店長と顔を合わせずに終わったそうです。自分も辞めたいと思っています。
ただ、気になったのは手軽さのほうではありませんでした。友人がついでに口にしたのは、辞めた翌月のことでした。最後の給料がいつ入ったか。保険料を自分で払うこと。失業給付を待つあいだのこと。数字は聞いていません。
休憩が終わって売り場に戻る足が、少しこわくなりました。辞めたい。でも、辞めた翌月に何が起きるのかを、自分はまだ知らない。友人のように代行で辞めるか、自分で店長に言うか。そこを「三分」の話だけで決めそうになっている。この記事は、その手前で止まるための記事です。
友人に聞く一問は、「辞めた翌月、何が入って、何を払った?」
友人に聞くのは、代行の名前でも、費用でも、店長がどんな顔をしたかでもありません。聞く一問は、これだけです。
「辞めた翌月、何が入って、何を払った?」
送るなら、こんな文で足ります。
「この前の話、もう一個だけ聞いていい? 辞めた翌月って、何が入って、何を払った? 自分も考えてて、そこが一番知りたい」
友人がどこまで答えるかは分かりません。全部は覚えていないかもしれません。それでかまいません。この記事で使うのは、友人の答えそのものより、答えを仕分ける3つの列のほうだからです。友人の通帳の数字を、こちらで想像して作る必要はありません。
答えを3つの列に仕分ける
友人の答えを、次の表に書き込みます。空いている欄は、友人の答えを聞いてから埋めてください。
| 友人の答え | どの辞め方でも起きること | 代行を使ったから起きたこと | 友人の事情 |
|---|---|---|---|
| 入ったもの | 最後の給料( 月 日に入った) | ||
| 払ったもの | 健康保険料/国民年金/住民税( ) | 代行の費用( 円) | |
| 待ったもの | 失業給付(受けられたか: ) | ||
| 来たもの | 離職票・源泉徴収票(届いた日: ) | 会社からの電話(本人に来た: ) | |
| 暮らしたお金 | 貯金/実家/次の仕事( ) |
この3列は、この記事での整理です。法律の分類ではありませんが、分け方の根拠はそれぞれ下に書きます。
左の列:どの辞め方でも起きること
左の列に入るのは、退職代行を使っても、自分で店長に言っても、同じように起きることです。ここが、「三分」の話と一番はなれている部分です。
まず最後の給料です。給料の締め日と支払日は会社ごとに決まっていて、辞めた月の分は、その会社の支払日に払われます。退職した人が請求した場合は、会社は7日以内に払う決まりがあります(労働基準法23条1項。2026年10月時点)。「辞めるなら今月分は払わない」は、この決まりに合いません。
次に、健康保険と年金です。会社を辞めると、会社の健康保険からは外れます。そのあとは、在職中の健康保険を自分で続ける任意継続(退職日までに被保険者の期間が続けて2か月以上あり、退職日の翌日から20日以内に申し出る。期間は2年)、住んでいる市区町村の国民健康保険(退職後14日以内に届け出る)、家族の健康保険の扶養に入る、の3つから選びます。任意継続の保険料は、在職中は会社と半分ずつだったものを、退職後は全額自分で払います。年金は、次の勤め先にすぐ入らない場合、国民年金への切り替えを退職日の翌日から14日以内に市区町村の窓口で行います。友人が「保険料を自分で払う」と言ったのは、この部分です。
住民税も左の列です。住民税は前の年の所得に対してかかるので、辞めて収入が減った月にも、前の年の分の支払いが残ります。会社員のあいだは給料から引かれていますが、6月から12月のあいだに辞めると、残りは自分で納める形に変わります(希望すれば最後の給料からまとめて引いてもらうこともできます)。1月から4月のあいだに辞めると、残りは5月31日までに払われる給料などからまとめて引かれます(残りの額が最後の給料より多いときなどは、扱いが変わります)。5月に辞めた場合は、いつもどおり最後の給料から引かれます。
失業給付(雇用保険の基本手当)も左です。受けられるのは、原則として離職の日より前の2年間に、雇用保険に入っていた期間が合わせて12か月以上ある人です。自分の都合で辞めた場合は、手続きの日から7日の待期のあと、退職日が2025年4月1日以降なら原則1か月の給付制限があります。受けられるかどうか、給付制限がどうなるかは、ハローワークが判断します。友人が「待つあいだ」と言ったのは、この期間のことです。
これらの手続きは、代行を使っても、自分で伝えても、自分がやります。代行の仕事は、退職の意思を会社に伝えることまでだからです(くわしくは下の「代行は、翌月の手続きを肩代わりしない」で書きます)。
真ん中の列:代行を使ったから起きたこと
真ん中の列に入るのは、代行を使った人だけに起きることです。代行の費用。費用の相場はこの記事では書きません。友人が払った額か、自分が見た額を、そのまま欄に入れてください。
それから、会社からの電話です。代行は会社に「本人への連絡は控えてほしい」と伝えることがありますが、これはお願いであって、会社を縛る決まりではありません。会社から本人に電話が来るか来ないかを決めた法律は、確認できていません。友人に「会社から直接電話は来た?」と聞いて、来たなら真ん中の列に書きます。
書類が届くまでのやり取りも、ここです。退職届を郵便局から送る、制服や名札を送り返す、離職票や源泉徴収票を郵便で受け取る。自分で伝える場合なら最終出勤日に手渡しできるものを、代行を使うと郵便と電話でやり取りすることになります。
右の列:友人の事情
右の列は、友人だから成り立ったことです。貯金がどれくらいあったか。実家に戻ったか。次の仕事が決まっていたか。友人が翌月を乗り切れたとしても、それは友人の貯金と実家があったからかもしれません。逆に、友人が苦しかったとしても、それは友人の事情で、自分には当てはまらないかもしれません。ここを左や真ん中と混ぜないために、3列目を作っています。
「三分」は伝える時間の話
表を埋めると、はっきりします。「三分」は、退職の意思が会社に届くまでの時間の話です。翌月の手続きは、どの辞め方でも同じ分だけ自分がやります。違うのは、真ん中の列の分だけです。
友人の話を聞いてこわくなったのが左の列のことなら、それは代行とは関係がなく、辞める人全員に来るものです。こわくなったのが真ん中の列のことなら、それは代行を使うかどうかで変わります。どちらでこわくなったのかは、下の3つの問いで使います。
自分の翌月を書く
友人の表ができたら、今度は自分の翌月を書きます。数字は想像で埋めず、確かめられる所で確かめます。
| 自分の翌月 | 書く欄 | 確かめる所 |
|---|---|---|
| 最後の給料の締め日と支払日 | 締め日 日/支払日 日 | 給与明細、就業規則 |
| 最後の給料の見込み | 約 円 | 直近の給与明細 |
| 健康保険の候補と月額 | 任意継続 円/国民健康保険 円/扶養に入れるか | 今入っている健康保険の窓口、市区町村の窓口、家族の勤め先 |
| 国民年金の月額 | 円 | 市区町村の窓口 |
| 住民税の残り | 辞める月 月→納め方 | 市区町村の窓口、給与担当 |
| 失業給付 | 雇用保険の期間 か月/受けられるか | ハローワーク |
| 貯金 | 円 | 通帳 |
健康保険の額は、任意継続の額は今入っている健康保険の窓口で、国民健康保険の額は市区町村で、それぞれ試算してもらって比べます。どちらが安いかは人によって違い、この記事では決められません。失業給付の額の試算も、この記事では書きません。ハローワークで聞いてください。制度は2026年10月時点のもので、変わることがあります。
翌月の表を見ながら答える、3つの問い
友人の表と自分の表を見ながら、次の3つに答えます。
- 問い① 店長に「辞めます」と言う場面を、自分は作れますか。友人は作れませんでした。自分はどうですか。
- 問い② 友人の通帳の話でこわくなったのは、代行の費用(真ん中の列)ですか。辞めたあとの支払い(左の列)ですか。
- 問い③ 辞めたい理由は、友人の話を聞く前からありましたか。
答えを並べると、原因は3つに分かれます。この分け方は、この記事での整理です。
- 原因A:店長に言える。辞めたい理由は友人の話の前からあって、友人の話で急いだだけ。
- 原因B:店長に一度言おうとして「忙しい時期に」と流され、それから言えない。会社と話さずに終えたい。
- 原因C:辞めたい理由が、友人の話を聞いてから出てきた。
原因A:数字を出してから、店長に言う
原因Aの人は、自分で伝える道です。費用はかかりません。順番は4つです。
- 自分の翌月の表を埋める。
- 最終日を、給料の締め日に合わせて決める。
- 退職届を書く。
- 店長に伝える。
退職届は、日付、「退職いたします」の一文、退職日、自分の名前があれば足ります。期間の定めのない雇用なら、申し入れの日から2週間がたつと雇用は終わります(民法627条1項)。就業規則に「1か月前まで」のような申し出の期間があるなら、その長さが常識的な範囲であれば、それに合わせるほうがもめにくくなります。就業規則の「退職」の条を見てから、最終日を書きます。
伝える文は、締め日の話を入れて、短くします。
「○月○日で退職します。最終日は給料の締め日に合わせました。退職届をお持ちしました」
詰まるのは、「人が足りない時期に」と言われる所です。ここで日付を動かさず、同じ文をくり返します。
「ご迷惑をおかけします。○月○日で退職します。引き継ぎは、それまでにできる範囲で資料を残します」
後任が来るまで働く義務は、法律にはありません。労働局も、「新しい人が見つかるまで待て」と言われても申し入れから2週間で退職の効力が生じる、と説明しています。一方で、引き継ぎを何もせずに辞めた場合に会社から損害を請求されるかどうかは、個別の判断で、ないとは言い切れません。2週間の予告を守り、できる範囲で引き継ぎの資料を残すのが、もめにくい線です。
退職届を受け取ってもらえない場合は、郵便局から送ります。内容証明と配達証明をつけると、出した文書の内容と届いた日が残ります。退職は本人の意思表示が会社に届いたときに効力が生じ、会社の承認は要りません(民法97条1項、労働局の説明)。
代行は、翌月の手続きを肩代わりしない
原因Bの道に入る前に、退職代行が引き受けるのはどこまでかを、友人の表の列に合わせて書きます。
代行が引き受けるのは、「三分」の部分だけです。本人が決めた退職の意思を会社に伝えること。弁護士でない代行にできるのは、ここまでです。最後の給料をいつ払うか、残った有給を使えるか、退職日をずらせるか。こうした条件を会社とやり取りするのは法律事務で、弁護士でない者が報酬を受けて行うと弁護士法72条にふれるおそれがあります。弁護士会や労働委員会も、この線を越える代行について注意を呼びかけています。労働組合が関わる代行には団体交渉ができる場合がありますが、実態のある組合かどうかを利用者側で見分けるのは難しい、というのが正直な所です。
つまり、代行を使って変わるのは真ん中の列だけです。店長と話す回数が減り、費用がかかる。左の列(最後の給料の確認、健康保険と年金の切り替え、住民税の納め方、失業給付の手続き)は、友人も自分も、どちらの道でも自分の手でやります。「代行に頼めば翌月まで面倒を見てもらえる」とは考えないでください。
頼んだあとに自分でやることを、左の列の順に並べます。退職届を郵便局から送る。制服や名札など貸与品(会社から借りているもの)を返す。離職票と源泉徴収票を受け取る(離職票を会社が出さないときはハローワークに申し出れば本人の請求で手続きが進みます。源泉徴収票は退職後1月(ひとつき)が交付の期限です)。健康保険と年金を切り替える。住民税の納め方を市区町村で確かめる。会社から直接来た連絡に対応する。この6つです。
使わない場合の代わりは、退職届を手渡す方法と、郵便局から送る方法です。上の「原因A」に書いたとおりです。
原因B:費用を引いた残りを見てから、伝える役を頼む
原因Bの人は、退職代行を使う道です。会社と話さずに終えたい、という条件を満たすのがこの道だからです。ただし、頼む前に決めることが3つあります。
| 頼む前に決めること | 書く欄 |
|---|---|
| 最終日(給料の締め日と、2週間の予告を見て) | 月 日 |
| 費用を貯金から引いた残り | 貯金 円 − 費用 円 = 円 |
| 貸与品の返し方(制服、名札、鍵、社員証) | 郵便局から送る/ |
3つが埋まったら頼みます。頼んだあとに自分でやる6つは、上の見出しに書いたとおりです。
この道で詰まるのは、「友人と同じ翌月が来るのがこわい」という所です。そのときは、友人の表に戻ってください。左の列は、どの辞め方でも来ます。真ん中の列が、代行を使ったことで足される分です。友人の翌月と自分の翌月の違いは、右の列(事情)と、真ん中の列(費用)だけです。表で確かめると、こわさの正体が「辞める人全員に来るもの」なのか、「代行を使ったから足されるもの」なのかが分かれます。
原因C:友人の3か月後まで、表を埋めて待つ
原因Cの人は、今は残る道です。ただし、期限と条件をつけます。
期限は、友人が辞めて3か月後の日です。その日に、もう一度友人に話を聞きます。条件は、その日までに自分の翌月の表を埋め、辞めたい理由を1行で書けるかどうかです。書けたら、その日に決めます。書けなければ、辞めたい理由はまだ友人の話の影だったということで、残ります。
詰まるのは、友人に聞きにくい所です。そのときは、上の一問の文例をそのまま送ります。それでも聞けなければ、友人の表は空けたまま、自分の表だけで期限の日に決めます。
三分ではなく、翌月の数字で選ぶ
| 原因 | 道 | 選ぶ基準 |
|---|---|---|
| A:店長に言える。理由は前からある | 自分で伝える | 費用がかからず、書類を手渡しで済ませられる |
| B:一度流されてから言えない。会社と話さずに終えたい | 退職代行を使う | 伝える場面を自分で作れないなら、伝える役だけを頼む。翌月の手続きは自分 |
| C:理由が友人の話のあとに出てきた | 今は残る(期限と条件つき) | 友人の3か月後を期限に、理由を1行で書けたら決める |
代行は、翌月の手続きを肩代わりしてくれるものではありません。伝える三分だけを頼むもので、費用のかからない基本は自分で伝える道です。そのうえで、三分の場面を自分で作れない人には、三分だけを頼む道がある。友人の表と自分の表を並べたあとなら、どちらが自分の道かは数字で見えます。
今日、表に書く1行
原因Aの人は、給与明細を開いて、最後の給料の締め日と支払日を確かめて、自分の表の一番上に書きます。それだけで、最終日の候補が決まります。
原因Bの人は、友人に一問を送ります。「辞めた翌月、何が入って、何を払った?」。友人の答えが、自分の表の下書きになります。
原因Cの人は、辞めたい理由を1行で書いてみます。書けなければ、今日はそれで終わりです。期限の日まで、同じことを試します。
友人の翌月を聞き終えてから、決める
友人に一問を送り、答えを3列に仕分け、自分の翌月の数字を見る。そこまでやってから、辞め方を決めます。「三分」の話では決めません。
原因Aの人は、自分の表を見て、締め日に合わせた最終日を店長に伝えます。原因Bの人は、費用を引いた残りの数字を見てから、伝える役を頼みます。原因Cの人は、友人の3か月後の日に、同じ表の前に座ります。
どの道でも、売り場に戻る足がこわかったのは、翌月を知らなかったからです。友人の翌月と自分の翌月を並べて見たあとは、こわさの中身が数字になっています。数字になったものは、決められます。