本文へ移動

職場での居場所

「辞めます」が声にならない2年目。最終日、上司と一言も話さず帰る

約14分で読めます

最終日に空の机の引き出しから最後の私物のマグを取り出す若手社員

上司の顔を見ると「辞めます」が声にならない。退職を伝える手段は口で言う以外に4つあります。5つの一覧に印をつけ、紙で伝えるか、会社と話さずに伝えるか、期限をつけて残るかを決め、今日できる最初の一手まで書きました。

入社2年目。「辞めます」と言うために、上司の席の前まで何度も行きました。でも、上司の顔を見た瞬間に出てくるのは「お疲れさまです」で、そのまま自分の席に戻ります。上司は声が大きく、質問をすると「そんなことも分からないのか」と人前で返す人です。上司の前に立つと、声が小さくなります。

辞めたい気持ちは固まっているのに、言えない日が続いている。その人のための記事です。

この記事を読むと、退職を伝える手段を5つ並べて「自分にできるもの」に印をつけ、声を出さずに伝えるのか、会社の誰とも話さずに伝えるのかを決められます。決めた道の、今日できる最初の一手まで書いてあります。

手段を選ぶ前に。体に出ているなら、先に相談する

伝え方を選ぶ前に、ひとつ確かめてください。眠れない、食べられない、会社の前で足が止まる、理由もなく涙が出る。こうしたことが続いているなら、伝える手段を考えるより先に、相談先につながってください。

  • 厚生労働省の事業「こころの耳」には、働く人のための電話相談、SNS相談、メール相談があります。
  • 上司の言動そのものを相談したいなら、総合労働相談コーナーです。各都道府県の労働局や、労働基準監督署の中などにあり、予約はいらず、お金もかかりません。いじめ・嫌がらせやパワハラの相談も受け付けています。
  • 体の不調が出ているなら、医療機関です。

これらは2026年10月時点の案内です。受付の方法は変わることがあるので、使う前に公式サイトで確かめてください。

「上司の言動がパワハラに当たるか」は、この記事では決めません。当てはまるかどうかは、相談先で話して確かめることです。相談は、辞めると決めたあとでも、まだ迷っている間でもできます。

「口で言う」は、5つある手段の1つにすぎない

「辞めます」を上司に口で言うのは、退職を伝える方法のひとつです。ほかにも4つあります。まず、5つを並べて、右の列に○か×を書いてください。

伝える手段 上司の顔を見るか 声を出すか 自分にできるか(○/×)
上司に口で言う 見る 出す  
退職届を上司に手渡す 見る 出さなくてよい  
退職届を郵送する 見ない 出さない  
上司以外(人事など)に退職届を出す 見ない 人事とは話す  
退職代行に頼む 見ない 出さない(費用がかかる)  

右の列が、この記事の中心です。○がつく行が1つでもあれば、上司に口で言う必要はありません。

5つのどれでも退職の意思は伝わる、という点を先に確かめておきます。

法律は、退職を伝える方法を「口で言うこと」とは決めていません。民法627条や628条には、口頭か書面かの決まりはなく、意思表示は相手に届いた時に効力が生じる、とされています(民法97条1項)。東京都の労働相談の資料は、口頭でも退職の申し入れはできるが、行き違いを防ぐために「退職届」などの書面で手続きするほうが望ましい、と説明しています。

退職に、会社の承認はいりません。静岡労働局のQ&Aは、上司に退職届を破られたという相談に対して、退職は労働者の一方的な意思表示で有効になり、会社の承認は不要で、あとで「聞いていない」と言われないように内容証明郵便で出す方法もある、と答えています。つまり「受け取らない」と言われても、届いていれば伝わったことになります。

期間の定めのない雇用(正社員など)なら、申し入れの日から2週間がたつと雇用は終わります(民法627条1項)。就業規則に「1か月前までに申し出る」のような決まりがあり、それが常識的な長さなら、その期間に合わせて最終日を決めるほうが、もめごとは少なくなります。ここに書いた決まりは2026年10月時点のもので、変わることがあります。

退職届の出し先を、就業規則で確かめる

就業規則の「退職」の項目を開いてください。就業規則は、見やすい場所に置く、書面で渡す、パソコンで見られるようにする、のどれかの方法で、働く人が見られるようにしておく決まりになっています(労働基準法106条1項)。どこにあるか分からなければ、人事か総務に「就業規則を見たいです」とだけ伝えれば足ります。

見るのは「退職届を誰に出すか」「何日前までに出すか」の2点です。就業規則に「所属長に提出する」とあっても、人事や総務が窓口になっている会社もあります。出し先を人事に聞いてよいかどうかも含めて、就業規則の文を確かめます。出し先が上司に限られていなければ、上司の顔を見ずに出す道が開きます。

郵送するなら、出した事実と届いた日を残す

郵送するなら、郵便局の内容証明と配達証明を使います。内容証明は、文書の中身を郵便局が証明する扱いです(郵便法48条1項)。配達証明は、相手に配達した事実を証明します(郵便法47条)。どちらも書留で出します。内容証明は、同じ文書を1通と謄本(同じ内容の写し)2通用意し、扱っている郵便局が限られるので、出す前に近くの郵便局に確かめてください。

証明されるのは「この中身の文書を、この日に出し、この日に届いた」までです。相手が読んだことや、中身が正しいことを証明するものではありません。「内容証明を送れば解決する」のではなく、「出した事実と日付を残す手段」として使います。

どの手段に○がついたか。3つの問いで原因を見分ける

上の表に○×をつけたら、次の3つの問いに、はい・いいえで答えてください。原因の分け方は、この記事での整理です。診断ではなく、自分がどの道に合うかを見るためのものです。

①退職届を渡す、または郵送する(声を出さない)なら、できますか。
②上司以外の人(人事、上司の上の人)になら、言えますか。
③こわいのは上司一人で、上司の言動がなくなれば残りたいですか。

  • ③が「はい」で、上司の言動をまだ誰にも相談していない人は、原因Cです。
  • ③が「いいえ」で、①か②のどちらかが「はい」の人は、原因Aです。
  • ③が「いいえ」で、①も②も「いいえ」の人は、原因Bです。

原因Aは、声には出せないが、紙を渡す、郵送する、人事に出す、のどれかはできる人。表で言えば、2行目から4行目のどこかに○がついた人です。道は、自分で伝えることです。

原因Bは、紙も郵送も、会社の誰かと連絡を取ること自体ができない人。会社から電話が来るのもこわい人。表で言えば、5行目にしか○がつかなかった人です。道は、退職代行を使うことです。

原因Cは、こわいのは上司一人で、仕事は続けたい人。表の○×より先に、③の答えで決まる人です。道は、期限と条件をつけて今は残ることです。

原因1つに、道は1つです。ここからは原因ごとに、手順と、詰まる所と、最初の一手を書きます。

原因A:紙なら渡せる人の進め方(自分で伝える)

手順

退職届を書きます。1行目に最終日を書きます。最終日は、就業規則の申し出期間が常識的な長さならそれに合わせ、定めがなければ、出す日から2週間より後の日にします。

退職届の文例です。

「退職届 このたび、一身上の都合により、○年○月○日をもって退職いたします。○年○月○日 所属 氏名」

理由は「一身上の都合」で足ります。上司のことを書く必要はありません。

次に、就業規則で出し先を確かめます。人事や総務が受け付けるなら、そこに持って行きます。人事に渡すときの一言の文例です。

「退職届をお持ちしました。就業規則の手続きにそって、こちらに出させてください」

人事に渡すのも難しければ、内容証明と配達証明で、会社あてに郵送します。あて先は会社の住所と、就業規則に書いてある出し先(人事部など)です。

出したあと、上司とのやり取りは最小限にします。上司から「話がある」と言われても、退職届はすでに出してあります。「退職届は人事に出しています。手続きは人事と進めます」と返せば足ります。引き継ぎは、担当している仕事ごとに気をつけることを1行ずつ紙に書いて、人事を通して渡します。

詰まる所と次の手

上司が「受け取らない」「聞いていない」と言う。ここで手が止まるかもしれません。でも、退職に会社の承認はいりません。届いていれば効力があります。人事に出したなら、出した日と受け取った人の名前を自分のメモに残しておきます。郵送したなら、配達証明の控えが「届いた日」の証拠です。控えは手元に置いておきます。

それでも「辞めさせない」と言われ続けるなら、総合労働相談コーナーに相談します。退職の決まりがどうなっているかを、相談員から聞けます。

最初の一手

退職届の1行目、つまり最終日を、今日書いてください。就業規則をまだ見ていないなら、「出す日から2週間より後」の日を仮に書いておき、就業規則を見てから直します。日付が1つ決まると、残りの行は短い定型文です。

一覧の5行目、「代行に頼む」とは何をしてもらうことか

原因Bの人の手順の前に、一覧の5行目が何を指すのかを書いておきます。原因Aや原因Cの人も、読んでおくと比べられます。

弁護士でない退職代行にできるのは、「本人が決めた退職の意思を、会社に伝えること」までです。残業代、退職金、退職日、残った有給の扱いといった条件を会社と話し合うことは、法律の仕事に当たり、弁護士でない人が報酬を受け取って行うと弁護士法72条の問題になります。弁護士会や労働委員会が、この点について注意を呼びかけています。

一覧の列で見ると、「代行に頼む」は「上司の顔を見ない・声を出さない」の行で、「郵送する」と同じ場所にあります。郵送と違うのは2つです。会社に伝える役を自分以外の人がやるので、会社と話す回数が0になること。費用がかかること。費用は頼む先で違うので、調べた額を手元に書いておいてください。この記事では額を書きません。

書類や保険の手続きは、どちらの行を選んでも自分がやります。代行に頼んでも、退職届は自分で書いて郵送し、離職票や源泉徴収票は自分で受け取り、健康保険と年金の切り替えは自分で市区町村の窓口などで行います。

会社が代行からの連絡を受けない、ということも起きます。弁護士会は、会社が業者との連絡を拒み、本人が改めて自分で会社に連絡する必要が生じた例を挙げています。頼めば終わり、ではありません。

退職代行を使わない場合の代わりは、一覧の3行目と4行目です。退職届を人事に渡す、または内容証明で郵送する方法で、会社と話す回数を1回か0回にできます。費用は、郵送なら郵便の料金だけです。「会社の誰とも連絡を取ること自体ができない」という状態でなければ、まず3行目か4行目を試す価値があります。

原因B:会社の誰とも連絡が取れない人の進め方(退職代行を使う)

頼む前に決めること

代行は、本人が決めたことを伝えるだけです。だから、頼む前に次の4つを自分で決めて、紙に書いておきます。

決めること 書く欄
最終日 ○年○月○日
残った有給を使いたいか(使うなら何日分か)  
貸与品(会社から借りているもの。社員証、鍵、パソコンなど)をどう返すか 郵送/人事に預ける
会社から直接連絡が来たらどうするか 出ない/メールだけ返す

有給については、代行は「使いたい」という希望を伝えることはできますが、会社が応じないときに話し合うことはできません。

頼んだあとに自分でやること

頼んだあとは、次の5つを自分で進めます。

退職届を、内容証明と配達証明で会社に郵送します。代行が伝えたあとでも、自分の名前で書いた退職届が届いていると、「聞いていない」と言われにくくなります。

貸与品を返します。郵送なら、送った日と中身を控えておきます。

離職票と源泉徴収票を受け取ります。離職票は、会社がハローワークに届け出て、本人に渡される書類です。会社が手続きをしないときは、ハローワークに本人が申し出れば、確認のうえで交付される仕組みがあります。源泉徴収票は、途中で退職した場合、退職後1月(ひとつき)が交付の期限とされています。届かなければ、税務署に届け出る手続きがあります。

健康保険と年金を切り替えます。次の勤め先にすぐ入らない場合、健康保険は、前の会社の保険を続ける(任意継続)か、市区町村の国民健康保険に入るか、家族の扶養に入るかを選びます。年金は、市区町村の窓口で国民年金への切り替えをします。どちらも申し出の期限があるので、退職したらすぐに市区町村の窓口に行くか、電話で聞いてください。

会社から直接来た連絡に対応します。次の「詰まる所」に書きます。

詰まる所と次の手

上司が代行からの連絡を受けず、本人に電話が来る。代行が「本人への連絡は控えてほしい」と伝えても、それは頼みごとであって、会社を縛る決まりではありません。電話が来ることはあります。出るかどうかは自分で決めてよく、出なくても、配達証明で届いた日が確かめられていれば、退職の意思は会社に届いたことになります。だから、退職届の郵送は、代行に頼んだらすぐにやっておきます。

有給の扱いでもめた場合、代行は話し合えません。退職前でも有給は請求でき、会社の承諾はいらない、と労働局は説明しています。会社が認めないなら、労働基準監督署か総合労働相談コーナーに自分で相談します。

最初の一手

代行に伝える最終日を1つ、今日書いてください。有給の日数や貸与品のことは、あとで埋められます。最終日が1つ決まれば、代行への連絡文は短くて足ります。

原因C:こわいのは上司一人で、仕事は続けたい人の進め方(今は残る)

仕事そのものは続けたい。こわいのは上司一人。そして、上司の言動をまだ誰にも話していない。この人は、辞める前に1回だけ、相談をはさみます。残るのは「期限と条件つき」です。

条件と期限

条件は、社内の相談窓口か、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に、1回相談することです。社内の窓口に相談したことを理由に不利益な扱いをすることは禁じられている、と厚生労働省は案内しています。社内で話しにくければ、労働局の窓口です。

期限は、相談の結果が分かる日です。相談先に「いつごろ結果が分かるか」の目安を聞いて、その日を書きます。

書く欄 書くこと
相談先 社内の窓口/労働局の雇用環境・均等部(室)
相談する日 ○月○日
結果が分かる日(期限) ○月○日

期限の日に、「上司の言動が変わる見込みがあるか」で決めます。見込みがあれば残る。なければ、その日から原因Aか原因Bの道に進みます。期限を過ぎてから「もう少し待とう」と延ばし始めると、期限がなかったのと同じになります。

詰まる所と次の手

相談窓口に行くこと自体がこわい。その場合は、総合労働相談コーナーから始めます。予約はいらず、お金もかからず、電話でも相談できると厚生労働省が案内しています。窓口に行かなくても、電話1本で「どこに何を相談すればよいか」が分かります。

最初の一手

上司の言動を1つ、日付つきで書いてください。「○月○日、朝礼で『そんなことも分からないのか』と言われた」のように、言われた言葉をそのまま書きます。相談のときに、これが最初の資料になります。感想や評価は書かなくてよく、起きたことと日付だけで足ります。

一覧に戻って、自分の行を指す

最後に、最初の一覧に戻ります。○がついた行と、原因と、今日書く1行を並べました。

一覧で○がついた行 原因 道 今日書く1行
2〜4行目のどこか(手渡す・郵送・人事) A 自分で伝える 退職届の1行目(最終日)
5行目だけ(代行) B 退職代行を使う 代行に伝える最終日
○より先に、③が「はい」 C 期限と条件をつけて今は残る 上司の言動を1つ、日付つきで

迷ったら、右の列を見てください。どれも、紙に1行書くことです。声を出す必要はありません。

最終日の場面

最終日。上司とは一言も話さず、机の中を空にして帰ります。退職届は人事に出してあり、あいさつはメール1本で済ませてあります。宛先は人事と、世話になった同僚だけでよく、上司を入れるかどうかも自分で決めます。

原因Aの人は、退職届を人事に渡した日から、この日まで一直線です。原因Bの人は、代行が伝えた日から出社していないなら、机を空にする作業は貸与品の郵送に置き換わりますが、上司と話さないという点は同じです。原因Cの人も、期限の日に「辞める」と決めたなら、そこから原因Aか原因Bの手順に入り、同じ最終日に着きます。

「辞めます」を声に出す場面は、最後まで来ません。期間の定めのない雇用なら、書面で届いた申し入れから2週間がたてば雇用は終わる、というのが法律の決まりです。声を出すことは、その条件に入っていません。