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職場での居場所

「抜けたら回らない」店の1年目。最終日、店は回っていた

約12分で読めます

最終日に店を出て、同僚たちが営業を続ける様子を振り返る飲食店員

「抜けたら回らない」と店長に言われて引き下がった飲食店1年目へ。自分の仕事に3つの印をつけて店が回るかを確かめ、就業規則とシフトから辞める日を決め、自分で伝える・退職代行・期限つきで残るの3つから選ぶ記事です。

飲食店で働き始めて1年目。辞めたいと店長に言ったら、「今お前が抜けたら店が回らない」と返されて、何も言えずに引き下がった。そのあと同僚から、先月辞めた先輩にも店長が同じことを言っていた、と聞いた。

この記事を読むと、店が本当に自分なしで回らないのかを自分の手で確かめ、辞める日を自分で決められます。そのうえで、店長に自分で伝えるか、退職代行に頼むか、期限を決めて残るか、の3つから選べます。

「回らない」と言われて、返事ができなかった日

辞めたいと伝えた日のことを思い出してください。店長は「回らない」と言った。その言葉が本当かどうかを確かめないまま、「そうかもしれない」と思って引き下がった。そして今、同じ言葉を先輩も言われていたと知って、何を信じればいいか分からなくなっている。

「回らない」と言われたときに返す言葉と、辞める日を、まだ決めていなかった。止まっているのはそこです。この2つを決めると、同じ場面がもう一度来ても、引き下がらずにすみます。

この記事では、まず自分の仕事を書き出して「店が回るかどうか」を確かめ、次に辞める日を決め、最後に3つの道から1つを選びます。

先に、自分の契約の形を見ておく

辞め方の決まりは、契約に期間の定めがあるかどうかで変わります。入社のときにもらった書面(労働条件通知書や雇用契約書)を見て、「契約期間」の欄がどうなっているかを確かめてください。

期間の定めがない(正社員など)場合は、申し入れた日から2週間がたつと雇用は終わります(民法627条1項)。この記事は、この形の人を基本に書きます。

アルバイトや契約社員で、「○月○日まで」のように期間が決まっている場合は、契約期間のあいだは働く約束が原則です。途中で辞められるのは「やむを得ない事由」があるときに限られ(民法628条)、当てはまるかどうかは個別の判断になります。ただし、1年を超える期間の契約なら、初日から1年がたったあとは申し出で辞められます(労働基準法137条)。期間の定めがある人は、契約書の満了日を先に見て、その日を最終日の候補にするのが分かりやすい進め方です。

この記事で引く法律の決まりは、2026年10月の時点で確かめたものです。あとで変わっていることがあるので、動く前に労働局の案内で見直してください。

自分の仕事を全部書き出して、3つの印をつける

この記事の真ん中は、この作業です。紙を1枚用意して、この1週間で自分がした仕事を、思いつく順に全部書きます。開店準備、仕込み、注文を受ける、会計、発注、締め作業、シフト調整、掃除、ゴミ出し、レジの釣り銭の用意、新しい人への説明。大きい小さいは気にせず、10個を目標に、出てくるだけ書いてください。

書き終えたら、1つずつに次の3つのどれかの印をつけます。

仕事 自分しかできない 教えれば誰でもできる すでにほかの人もやっている
開店準備
仕込み
注文
会計
発注
締め作業
シフト調整
(自分の仕事)

印のつけ方で迷ったら、「自分が休みの日、この仕事は誰がやっているか」を思い出してください。休みの日にも店が開いているなら、その仕事は「すでにほかの人もやっている」です。自分が休みの日は店が開かない、という仕事だけが「自分しかできない」です。

印をつけ終わったら、3つの列をそれぞれ数えます。

「教えれば誰でもできる」と「すでにほかの人もやっている」が多いなら、店は自分なしで回ります。店長の「回らない」は、今のシフトの穴の話であって、この人でなければできない仕事の話ではありません。

「自分しかできない」が多いなら、引き継ぎの紙を作る時間が要ります。それでも、辞められないという意味ではありません。紙を作る日数を最終日までの期間に足して考えるだけです。

「次の人が見つかるまで」に、期限はない

店長が言いそうな言葉に、「次の人が見つかるまでいてほしい」があります。この言葉には日付がありません。日付のない約束は、終わりません。

決まりを見ておきます。後任が来るまで働く義務を定めた法律はありません。期間の定めのない雇用では、退職を申し入れた日から2週間がたつと雇用は終わります(民法627条1項)。労働局も、「新しい人が見つかるまで待て」と言われても2週間で退職の効力が生じる、と説明しています。会社の承諾も要りません。

ただし、就業規則に「退職は1か月前までに申し出る」のような決まりがあることがあります。労働局の説明では、その長さが1か月前のように常識的な範囲なら、まず就業規則に沿って申し出るのがもめにくく、反対に極端に長い期間は無効とされることがある、とされています。この記事では、「2週間は法律の最低線、就業規則の期間が常識的な長さならそれに合わせる」という考え方で進めます。就業規則は無視してよい、という意味ではありません。

もう1つ。引き継ぎをする義務を定めた法律もありませんが、「引き継ぎをしなくても何も起きない」とも言えません。引き継ぎをしなかったことで損害を求められるかどうかは民事の問題で、労働局も個別には答えていません。ただ、2週間より前に伝えずに辞めると損害を求められる根拠になることがある、とは説明しています。2週間の予告を守り、できる範囲で引き継ぎの紙を残すのが、もめにくい線です。この記事で引き継ぎの紙を作るのは、店のためというより、後ろめたさなしに最終日を迎えるためです。

辞める日の決め方

辞める日は、次の3つを順に見て決めます。

  1. 就業規則の申し出期間を見る。就業規則は、見やすい場所に置くか配るかして働く人が見られるようにする決まりになっています。バックヤードにあるか、店長か本部に「就業規則を見たい」と言えば見られます。申し出期間が書いてあれば、その日数を今日に足します。書いていなければ、2週間を足します。
  2. シフトの締め日を見る。シフトが半月ごと、月ごとのどちらで組まれているかを確かめます。
  3. 1で出した日より後に来る、いちばん近いシフトの区切りを最終日にします。

たとえば、就業規則に「1か月前」とあり、シフトが月ごとなら、今日から1か月後が入っている月の末が最終日です。この日付を、退職届に書きます。

退職の意思は口頭でも伝わりますが、あとで「聞いていない」と言われるのを防ぐために、日付を書いた退職届を紙で出すのが望ましい、と労働局や東京都の労働相談の資料は説明しています。

引き継ぎの紙の中身

「自分しかできない」印をつけた仕事だけを、1行ずつ書きます。1行に入れるのは、手順と置き場所だけです。

「発注:毎回○日に、事務所の棚の青いファイルの注文票を見て、同じ数を電話で頼む」
「締め作業:レジの締めボタンを押してレシートを出し、金庫の左の袋に入れる」

これくらいの長さで足ります。きれいに書く必要はありません。印が3つ以下なら、紙は1枚で済みます。

3つの問いで、自分の原因を見分ける

ここからは、引き下がった理由を分けます。A・B・Cという分け方は、この記事が決めた整理で、何かを診断するものではありません。

問い①:「自分しかできない」の印は、いくつありましたか。3つ以下なら、紙1枚で引き継げます。4つ以上でも、紙が2枚になるだけです。

問い②:店長に「辞めます」と伝えること自体は、できますか。引き下がったのは、返す言葉がなかったからですか。それとも、店長と向かい合って話すこと自体がこわく、もう一度その場に立つことを考えると声が出ない、と感じますか。

問い③:「回らない」のは、今のシフトの穴の話ですか。新しい人が入る日や、繁忙期の終わりのように、「その日が来れば回る」と言える決まった日はありますか。

3つの答えの組み合わせで、原因と道が決まります。

  • 原因A:印をつけたら店は回る。問い②は「できる」。返す一文と辞める日を決めていなかっただけ。→ 道は「自分で伝える」。
  • 原因B:問い②で、店長の前に立つと声が出ない。一度引き下がってから、店長に連絡を取ること自体ができなくなった。→ 道は「退職代行を使う」。
  • 原因C:問い③で、「回らない」のは本当で、新しい人が入る日か繁忙期の終わりが決まっている。その日までなら残れる。→ 道は「期限を決めて残る」。

AでもBでも、辞める日の決め方は同じです。違うのは、その日を店長に誰が伝えるか、だけです。Cは、辞める日を店の都合に合わせて1回だけ後ろにずらした形で、それ以上はずらしません。

原因A:返す一文と日付を決めて、自分で伝える

Aの人は、店長と話すこと自体はできます。足りなかったのは、「回らない」に返す一文と、日付です。

手順は4つです。

  1. 就業規則の申し出期間を見て、最終日を決める(上の「辞める日の決め方」)。
  2. 退職届を書く。「退職届」という題と、「○年○月○日をもって退職いたします」の一文、今日の日付、自分の名前があれば足ります。理由は書かなくてかまいません。
  3. 引き継ぎの紙を作る。
  4. 店長に、退職届と紙を持って伝える。

伝える文は、これです。

「最終日は○月○日です。自分の仕事は、この紙にまとめました。」

店長が「次の人が見つかるまで」と言ったら、日付を変えずに、同じ一文をくり返します。「最終日は○月○日です」。後任を待つ義務は法律にないので、日付を動かす理由がありません。ここで新しい言葉を足さないのがコツです。足すと、話し合いが始まってしまいます。

退職届を受け取ってもらえない、その場で破られた、という場合もあります。退職は働く人からの一方的な意思表示で効力が生じ、会社の承認は要らない、と労働局は説明しています。受け取ってもらえなければ、郵便局の内容証明で退職届を送る方法があります。内容証明は「どんな内容の文書を出したか」を、配達証明は「届けた事実」を郵便局が証明する仕組みです。相手が読んだことまでは証明しませんが、「出した」「届いた」を残せます。

代行は、店長の代わりに何をして、何をしないか

Bの道に進む前に、退職代行が店とのあいだで何をするものかを、表で分けておきます。

店とのあいだで 弁護士でない代行は
「○月○日で辞める」と店長(会社)に伝える できる
「最終日をもう少し延ばせないか」と店長から言われたときに、代わりに話し合う できない
残業代や、残った有給の扱いを店と話し合う できない
退職届を書く、制服と鍵を返す、保険と年金を切り替える 本人がやる

代行にできるのは、本人が決めた退職の意思を会社に伝えることまでです。退職日や残業代のような条件を会社と話し合うことは、弁護士でない事業者が報酬を受けて行うと弁護士法72条の問題になるため、できません。弁護士会や労働委員会が、この点に注意を呼びかけています。条件の話し合いが要るなら、総合労働相談コーナー(無料・予約不要)や弁護士に相談する方が先です。

つまり、自分で伝える道と比べて変わるのは、店長と話す回数が0になること。それだけです。退職届、制服と鍵と名札の返却、離職票と源泉徴収票の受け取り、健康保険と年金の切り替えは、頼んでも減りません。

費用は、この記事には書きません。自分で見た額を、表に足してください。

自分で見た代行の費用 (    )円

店長と話したくないだけなら、代行を使わずに済む手もあります。退職届を店長の上の人か本部の人事に渡す方法と、郵便局の内容証明で店宛てに送る方法です。どちらも店長と向かい合わずに済み、費用は郵送代だけです。

原因B:店長と話さずに、退職の意思を届ける

Bの人は、店長の前に立つと声が出ません。一度引き下がったあと、連絡を取ること自体ができなくなった。それなら、「伝える」という1つの作業だけを、人に頼みます。

頼む前に、自分で決めておくことが4つあります。

決めること 書き込む欄
最終日 ○月○日
残っている有給を使いたいか 使う/使わない
制服・鍵・名札などの返し方 郵送/店に置いてくる
店からの連絡をどう受けるか 電話には出ない/メッセージだけ見る

決めたら、頼みます。

頼んだあとにやることは、店の物から順に片づけます。

  1. 制服・鍵・名札を、決めた方法で返す。鍵は店の物なので、いちばん先に。
  2. 退職届を書いて、店宛てに郵送する(下に書く理由で、内容証明にする)。
  3. 離職票と源泉徴収票を受け取る。届かなければ、離職票はハローワークに、源泉徴収票は税務署に相談できる。
  4. 健康保険と年金を切り替える。
  5. 店から直接来た連絡に対応する。

ここで引っかかるのは、店長が代行からの連絡を受けつけず、本人に直接電話をかけてくる場面です。代行は「本人に連絡しないでほしい」と店に伝えますが、これはお願いであって、店を縛る決まりではありません。電話に出る必要はありません。ただ、退職の意思は、本人から店に届いている必要があります。だから、代行に頼むのと同じ日に、退職届を内容証明で店に送っておきます。店長が電話をかけてきても、「退職届は届いている」という事実が残ります。

原因C:期限と条件を決めて、今は残る

Cの人は、「回らない」が本当で、新しい人が入る日や繁忙期の終わりが決まっています。その日までなら残れる、と自分で思えるなら、残るのも1つの道です。ただし、期限と条件をつけます。

手順は3つです。

  1. 最終日を先に決める。たとえば、新しい人が入る月の末、繁忙期が終わる月の末。
  2. その日を店長に伝える。「○月○日まではいます。その日が最終日です。」
  3. 引き継ぎの紙を作りながら残る。

期限が来ても「もう少し」と言われる、というのがCの人の引っかかり所です。先に伝えた日付は動かさず、その日に退職届を出します。もし日付を伝えていなかったなら、今日伝えてください。日付のない「残る」は、Cではなく、ただの先のばしです。

今日、紙に書くこと

3つの道のどれでも、今日やることは紙1枚です。

Aの人:今している仕事を10個書く。印は明日でかまいません。書くだけです。
Bの人:代行に伝える最終日を1つ書く。「○月○日」。これが、頼むときに聞かれる最初のことです。
Cの人:残ると決める最終日を1つ書く。「○月○日」。明日、店長に言う日付です。

最終日、店は回っていた

最終日。バックヤードに、自分の仕事を書いた紙が貼ってあります。ホールでは注文が入り、レジでは会計が済み、仕込みは別の人の手で進んでいます。店は、この人なしで回っています。

タイムカードを押して、店を出ます。

Aの人は、店長に一文を伝えた日からこの場面に向かいました。Bの人は、店長と話さずにここに着きました。Cの人も、自分で決めた最終日に、同じ場面に着きます。「回らない」と言われた日に決められなかった日付を、自分で決めた。その日付が、この場面を連れてきます。